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第67話 夜が明けて

 差し込む光にヘルネは目を覚ます。床の堅さと、漂う臭いが再び睡眠に陥ることを許してくれない。様々なことがあったために昨夜はなかなか寝付けず、気分は悪かった。

 狭い空間に折り重なるように寝ていた皆の中で、ミエラとジリはまだ寝ている。ヒカルは起きていた。言葉は通じずとも微笑みかけると、それに合わせて微笑んでくれたが、その表情には疲れと困惑がはっきりと見えた。ヘルネの顔も似たようなものだったのだろうか。そしてここにはもう一人、小さな男の子が寝ていた。昨夜も気がついてはいたのだが、疲労とストレスのせいでジリに聞く気にもなれず、そのまま倒れたのだったが、今その子が目を覚まし、こっちをぼうっと見ている。


「おばさん……誰?」

「おばっ……!」


 一瞬怒りと悲しみが駆け抜けそうになったが、よく考えると自分もこの歳の頃は若い大人と中年の大人の差なんて分からなかったような気もする。ひきつりかける唇をなんとかヘルネは堪えた。


「私達は、ジリの――友人よ」


 一瞬、何と言っていいのか分からなかった。恩人と言えば恩着せがましいし、知人と言えば少しよそよそし過ぎる。ならば友人と言っていいはずなのだが――それもそれで友情をたてにして助けを求めているようでなんだか言いづらかった。しかし、その感情は起きて来たジリによって融かされる。


「そう、あたしの――とても大切なお友達よ、ジク」


 とても温かく放たれたその言葉が、ヘルネにはじんわりと響いた。思えば大蛇狩りのときには、どこか上から目線でジリに接していたのかもしれない。彼女を弱者、自分を強者としか考えていなかったのではないだろうか。まさか今度はジリに助けられることになるなど、彼女は考えてもいなかった。その傲慢に恥ずかしさが込み上げる。


「ジクとは最近暮らし始めたんです、その、お母さんと離れ離れになってしまったらしくて……」


 ヘルネの気持ちを知ってか知らずか、ジリは少年の紹介を始めた。微妙に言葉を濁すジリの態度と、少年のステータスを見てヘルネはぴんと来る。どうやらジクは“ゼラー”として疎まれ、家族に捨てられてしまったようだった。ジリが曖昧な言い方をしたのは、おそらくジク本人が事実を正しく認識していないからだろう。


「そうなの、早くお母さんとまた会えるといいわね」


 なのでヘルネも、そう言ってジクに微笑んだ。同時に、巻き込んでしまった罪悪感がより強くなる。ジリがここを追われるようなことがあれば、ジクにも累が及ぶだろう。かといって、なんとかなる当てがあるわけでもなかった。




 朝のうちにジリが街に出た。彼女のみが顔をあまり知られていないため、状況を調査しようという狙いである。ようやく帰って来た彼女に、ヘルネ達は群がる。


「どうだったの?」

「普段よりは兵士達が多いですね……それから、国賓であるあなた達三人が何者かに攫われたようだから、何か手掛かりを見つけた者には褒美を与えるって話が出回っているみたいです」

「そう……貴女は?」

「今のところ、協力者がどうとかいう話は聞きませんでした。昨日のドタキャンも案外別件として考えて貰えてるかもしれないです。あと、ここは知られていないので安心してください。宮殿に報告に来いって言われたのは、私が酒場で大蛇狩りの話をしていたときだったので」


 とりあえずジリについては疑われていないのか。それでも、宮殿からの呼び出しを無視したとあってはいい印象はないだろうが、ここの女王は暴君でもないし病気とか理由をでっちあげればなとかなるかもしれない。

 まずは、自分達の身の安全を考えよう。


「これから、どうしよう……ヒカルのこともあるし……」


 ミエラがちらちらとヒカルのことを見ながら心配そうに呟く。ヒカルはヒカルで、言葉の通じないイライラと、何が起こっているのか分からない不安が表情に出るほどに疲れていた。こんなにも取り乱した様子のヒカルは見たことがない。おそらくだが、他の力も失ってしまっているのだろう。そうでなければ昨日の脱出劇があそこまで緊迫することはなかったはずだ。嫌な雰囲気が漂う中、ジリがゆっくりと口を開く。


「――一つだけ、なんとかなるかもしれない方法があります」


 ジリは、言葉を選ぶようにしながら言った。皆の視線が彼女に集まる。


「……ここを、下れば、脱出ができるかもしれません」


 目の前に広がる川を示しながら、ジリはそう言った。


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