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第63話 籠城

 ミエラはヒカルと二人、部屋に残された。今は落ち着いているヒカルは、何かを伝えようとしているのだが言葉が通じない。扉の方を指し示したので、ヘルネが各国特使に会いに行ったことを身振りで伝えようとしたのだが、果たして分かってくれているのかどうか。

 二人とも、イライラとしながら耐える時間が続いた。先の見えない不安、お互いの意志を確認できない不便、窮地に追い込まれた不満、それらが二人の精神を静かに蝕んでいく。

 そっと、ミエラは右手を伸ばした。変な目でそれを見たヒカルだが、やがて意を汲んでくれたのか、その手を握る。ミエラはそれだけで、少し気分がリラックスするのを感じた。願わくばヒカルの方にも、この安堵が伝わればいいと思う。殺伐とした空間に、ほんの少しだけ和やかな空気が漂った。

 しかし、それはコンコンというノックの音で緊張に変わる。


「失礼いたします。夜食のご用意はいかがでしょうか……今なら用意できますが」


 少し間の抜けたような女の声が聞こえた。ミエラの額に汗が浮かぶ。何も裏を考えなくてよいのなら、そんなに嬉しい話はないのだが、ヘルネにも誰も入れるなと強く言われている。ミエラは息を殺し、ヒカルにも静かにするようジェスチャーで示した。ヒカルも状況を分かっているのか、真顔で頷く。


「もしもーし、ヒカル様……おっかしいな~」


 もう寝ていると思って、帰ってくれないだろうか。そうミエラは祈るが、彼女の思いは通じない。


「どうかしましたか?」


 男の声が加わった。随時見張りに回っている衛兵だろうか。


「ああ、ヒカル様達が夕食を軽くお済ませになっていたようなので、夜食がご入り用か伺いに来たんですが、返事がないんです……」

「それは妙ですな。先程、ヘルネ様はどこかに向かわれたようですが、ヒカル様とミエラ様はここにいらっしゃるはずなのですが……」

「もしかしたら、何か異変があったのかもしれません!扉を壊しましょう!!」

「なんでそうなるんですかっ!」


 言ってから、誘い出されてしまったと気付いた。ジーシカの言葉はオートランドとさほど違わず、意味が理解できてしまうのが仇となったようだ。ヒカルが顔をしかめている。言葉はわからなくても、ミエラがへまをしてしまったことには気付いたのか。

 仕方がないので、ヒカルの手を離し、扉の前に行く。途端に、得体の知れないプレッシャーがぐっとかかってくるような錯覚を覚えた。


「あ、その声は……ミエラ様です?いらっしゃるなら、返事くらいしてくれても……」

「と、取り込み中だったのです。それで、夜食でしたっけ……?ヒカルも私も、食事の量は充分に足りています。結構です」

「そうですか……ところで、失礼ですが……何やら、声の調子がおかしいような気がするんですけど、気のせいですか?何かに怯えてるような……」

「そ、そんなことはありません!!」


 何が狙いなのか分からないのが不気味だ。ただ、確実に相手の流れに乗せられてしまっているようで、嫌な感じをミエラは受けた。


「もし、よろしければ、ヒカル様からもご返事をいただけますか?」

「な、何を言っているのです!私がここで言ったことが信じられないというのですか。侮辱ですよ!!」

「いえ、あくまで念のための処置です。とにかく、国賓の安全を第一に守るのが我々の義務ですから!!」


 ヒカルが、自分の名前が出ていることに反応する。こちらに近づいて来るが、ミエラは手で静かにしているように合図した。今、ヒカルに言葉が通じなくなっていることを知られるのはまずい。あるいは、知ってて言ってるのか。


「そうですかぁ……どうしてもヒカル様を出してくれないなら……有事と考えても仕方ありませんよねぇ!」


 咄嗟に、魔導石を使った。自分と扉の間に、石でできた壁を出現させるのと、扉が何らかの力を受けぐにゃりと歪むのがほぼ同時だった。かろうじて、石の壁が間に合い。扉の後ろで補強する。ヒカルに魔導石を預けられてから、練習を積んでおいてよかったと心から思った。


「ヒカル様は“ゼラー”、ミエラ様は“算術”Lv010のみ。それなのにこの感触は――石の壁でしょうか。そんなものが突然出現となれば、他に何者かが潜んでいると考えるべきですね、速やかに破壊し、お二人を保護(・・)しましょう」

「ええ、応援を呼んできます!!」


 魔導石のことを考えれば、別に不思議でもなんでもないだろうに、そんな可能性は最初から無視して、何としても部屋の中で異変が起こっていることにしたいらしい。そんな二人の会話が聞こえる。茶番だ。自分達を陥れるためだけの建前。ミエラはヒカルに下がってくれと身振りで伝えながら、更に魔法で扉を補強する。効果的につっかえ棒を入れるにはどうすればいいか、衝撃をかけられたとき、それを逃がすにはどうすればいいか。力のかかり方と、それに対応する補強の仕方を考えるのは“算術”の範囲内だ。ミエラは自分の能力を最大限活用し、部屋を要塞へと変えていった。

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