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番外19 隊長グフリーマンの苦悩

「やあやあ皆様、南の国由来の珍しい物品が勢揃い!!さあさあ、見てくださいこの不思議な道具!変わった扇子に面白い味の干物もあります!!どれもお買い得!お値段はたったのこれだけ!誤魔化し一切なしですさあ皆様方買わなきゃ損損大損害!!」


 グフリーマンは声を張り上げていた。特命を帯びている彼は、普段はこうして商人のふりをして各地を渡り歩いているのだ。そう、本来の彼らの仕事は別にある。しかし商人のふりをしなければならないので、時には本気でこうやって商売をするのだ。


「隊長!やりました今日の売り上げも最高です!!」


 部下のハッサクが喜びに満ち溢れた顔でそう言う。自分もつられて満面の笑顔になった。


「まだまだ売るぞ!!行ける時には徹底的に!それが商売だああああああっ!!!!」

「「「はい、隊長!!!」」」


 皆の声が見事に合わさった。

 オートランドに来るのは初めてだったが、今回も商売は絶好調である。


「さあ、みんな頑張れ!!さらに販路を拡大するぞ!!――」


 とグフリーマンは皆を鼓舞し――


「――って、違う違う!!俺達は商人じゃないんだ!本当の目的を忘れてまで、商売にのめりこんではいかん!」


 慌てて、我に返った。そう、いくら普段は商人の格好をし、旅をし、商いをしていても、彼らの目的はあくまで行方不明の王女の捜索、商人は仮の姿でしかないのだ。ないのだが……


「けど、隊長。手掛かりが子供の頃に捨てられた、今十代後半の“ゼラー”ってだけなのは……」

「俺達、正直なところ宰相の国民に対するポーズのためだけに捜索してるんじゃないですか?」


 部下のアーノルドとイオカが不満そうに言う。二人とも妻子持ちであるが、この任務に就いているせいで家族と会えるタイミングも少ないのだ。


「気持ちはわかるがな……探せばもしかしたら見つかる可能性もあるじゃないか。顔立ちに先王陛下の面影があるとか、何か特別な物を持っているとかそんな理由で判明することだってあるかもしれないし、それにこんな土地でイルタニャの言葉を話せる“ゼラー”がいれば、イルタニャの出身だと考えていいからそれも一つの印になる」


 懇々と諭すグフリーマンに、部下達も不満を飲みこむ。しかし、彼らの気持ちも限界に近付いていることはグフリーマンにもわかった。これまで任務に対する不満など言ったことのない彼らの態度が変わってきたのがその証拠だ。次に国に帰るときには、配置換えを願い出るのがいいかもしれない。

 そんなことを考えている彼の視界の端に――一人の少女が映った。

 どこだで見たような面影、ちょうど十代後半くらいの年齢……


「――へっ!?あ、あれは……嘘だっ!!」


 思わず変な言葉を口走ってしまう。ずっと追い求めていた人を見つけたせいで、脳が一瞬フリーズする。やっと見つけた、という思いと、そんな馬鹿なという想いの両方が絡まって、ちゃんと動けない。


「お、王女殿下だ!!追え!!」


 ようやく体と心が繋がり、慌てて路地裏を追いかけたものの、入り組んだ道のどちらに進んだかはついに分からなかった。


「隊長、本当に王女殿下だったんですか?」

「俺達にやる気を出さそうとして言っただけなんじゃ……」


 結局、半日かけて探し求めたものの目当ての人を見つけることはできなかった。タイミングがタイミングだっただけに、グフリーマンにも疑いの目が向けられる。


「……信じられないかもしれないが、先王陛下の面影のある顔だった。自信がある!!」


 我ながら、なぜここまで自信があるのか、まるで洗脳でもされているようではないかと思うが、グフリーマンには確かに見た少女が王女殿下であるという確信があった。


「しかし……結局見つかりませんでしたよ?」


 ハッサクの言葉に、悔しさがこみ上げる。ここまで来て、辿り着けないとは何たることか。オートランドは人口も多く、しかも“ゼラー”は様々な場所――大抵は劣悪な環境だが――に住んでいるため、ここからまだ絞り切ることはできないのだ。


「……大丈夫だ!!今まではこの世界のどこにいらっしゃるかも分からなかった相手が、この街にいると分かっただけでも遥かな進歩なのだ!!あともうちょっと、あともうちょっとで我らの念願が叶う!!明日も、明後日も探し求めれば、必ずや――」

「隊長、明日はゼラード商会に行くことになっていますが」


 アーノルドがグフリーマンの言葉に割って入る。


「――な、何を言うのだ!!今、まさに目の前に、王女殿下がいるやもしれないのだぞ!!本業と、仮の姿とを逆にするような――」

「けど、それは隊長が見かけたのが本当に王女殿下だった場合の話じゃないですか、もしも違う人だったら……」

「そうですよ。今ゼラード商会は伸び盛りです。よい関係を築いておけば、もし今回の方が人違いだったとしてもまた商売をして資金を集め、任務を続けることもできます。しかしここで失敗したら……」

「ゼラード商会一つくらいなら、なんとかなるだろう!!そこまでやわな基盤で、我らはこれまでやってきたわけではない!!」


 部下達の意見に言い返すが、彼らの方も黙っていない。


「しかしゼラード商会っていうのは随分危険な連中だって話もありましてね。これまでオートランドを牛耳っていたのは別の商会だったけど一気にそこを潰して成り上がって来たとか。不用意なことをして敵に回したくはありません」


 断固として言うアーノルドに、他の部下達も口にこそ出さないが同調しているような雰囲気を出し、グフリーマンは自分の立場の不利を知った。

 もしも王女探索を始めた頃なら、彼らは全員自分の案に乗ってくれただろう。あるいは、彼らがちゃんとあの王女を目撃していたら。しかしどちらの条件をも満たすことのできなかった現状、部下達の信頼が著しく低下していた。

 どうして――こんなことになっているのか。ここまで自分達の間に溝ができてしまっていることに、隊長として今まで気付けなかった自分を恥じた。

 ここで、強引に命令をすれば……皆を従わせることはできるだろう。

 しかし、それでこの先……本当にうまくいくのか?

 一方、目の前に王女殿下がいるかもしれない、いやおそらくいることを考えると、追いたい。その一方で部下達の信頼を潰してしまって、自分は隊長の務めを果たせていると言えるのか?しかし王女殿下の行方を追うことこそ使命……けれど、それで完全に不信を持たれたうえもし失敗したら――ああっ!!


「……わかった、ゼラード商会には行こう。けれど、他の時間は今まで以上に王女殿下探索に当てる、それでいいな?」


 グフリーマンは、頭を抱え、悩み、苦しみ……そして、泣く泣くその妥協案を口に出した。

 もしも時間の割り当てを減らしたせいで王女殿下を見つけられなかったら……そう思うと胸が苦しい。こんな決断をした自分を一生呪うことになるだろう。グフリーマンは苦悩に満ち溢れた顔で、そんなことを考えていた。 

 この決断が怪我の功名になるのは、翌日のことであり、彼の胃はそれまで痛む。キリキリと、痛む。

二カ月達成短編祭りでした!

二日に渡ると言いつつほとんどの投下を初日に集中させてしまい、失礼いたしました。

明日、9月12日より本編再開、新章突入の予定です。今後もよろしくお願いいたします。

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