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番外15 魔導学院にて~メヒーシカとエパナとシャラムンの場合~(その3)

「次はキラーウィンドを試すぞ」


 シャラムンの掛け声に、エパナとメヒーシカは風魔法を放つ。三人の放った強力な風魔法は――僅かに魔導学院を囲む木々を切り裂いたものの、すぐにまた生えて来た木に遮られた。


「やはり炎魔法ほど相性がよくないから、これが限界か」


 シャラムンが苛立たしげに呟く。メヒーシカとエパナも不安そうに木々に封じられた魔導学院を見た。もっとも、分厚い茶色と緑のカーテンによって魔導学院の面影は隠されてしまっていたが。


「黒幕はまだ外にいるんですよね?探し出して捕まえることはできないでしょうか」

「これほどまでに用心と準備を重ねる相手だ。今も完全に安全なところで高みの見物だろうさ。そいつがいるとして、動き出すのは一カ月か二カ月後、中の皆が飢えて死んだと確信を持ってからだろうな」

「それじゃあ。遅すぎます……」


 メヒーシカが顔を歪める。


「――ふん、吾輩はまあどちらでもよい。最悪の場合はここを立ち去らせてもらう」

「なっ!何を言っているのだ!中の人はどうなってもいいと言うのか!貴方が訪ねて来たリック教官もいるのだぞ!!」


 エパナが感情的に叫んだ。しかし、シャラムンの表情は凍りついたかのように冷たかった。


「――そうだな、確かに妹との約束だから様子は見に来た。けれど――それだけだ」


 その表情はあまりにも凄惨で――たかだか20年ほどしか生きていないメヒーシカやエパナには、絶対触れられない何かがあるようで――二人は思わず口をつぐんだ。


「……人間は本当に嫌な奴らだ。寿命も短く、過去に何があったか、すぐに忘れてしまう。我らエルフが傷を抱えて生きている間にも――人間は次々に世代交代を果たして、すっかり何もかもなかったことにしてしまう――リックだと?あ奴が人とエルフの血を引いていると、分かっているのだろう!?それが何を意味しているのか、考えたことはなかったか!?それとも、人間とエルフとの禁断のラブロマンスでもあったと思っているのなら、本当に愚かな者たちだよ、ああ、最悪だ」


 シャラムンの過去に何があったのか、それがどうリック教官と繋がっているのか――うっすらとだが、メヒーシカとエパナには伝わった。そしてそれは、本当に触れてはいけない話なのだと、二人は感じた。


「――ふん、若造相手に取り乱したな。心配はするな。忌々しいことだが、あそこにいる人間とは敵対したこともない。可能な限りは力を貸してやろう」


 シャラムンがそう言って、ひとまずその場は治まった。

 しかし、このままでは先行きが立たないこともまた事実である。どうにかして、木々の檻を破らなければならなかった。


「炎魔法が駄目ならば、原始的なやり方で火を起こすのはどうでしょうか?」

「魔法に頼りっきりの我々が、そんなやり方を使えるとは思えないがな。練習すれば何とかなるかもしれないが、火を単に起こせばいいというものではない。弱い火なら木の再生能力に負けてしまう。ある程度強い火力を当てることができなくては――」


 まさに手詰まりの感が、三人の間に漂ってきた。エパナが苛々としながら呟く。


「ああもう、炎魔法でなくても魔法で火が起こせればいいのに、って何を言ってるんだ私は、相当頭が疲れてしまっているようだな、酷いものだ」


 自嘲的に唇の端を歪めるエパナ。しかし、メヒーシカには何か閃くものがあった。


「待ってください……今のエパナの案、いい線を行っていたような気がします……そう、“水魔法で炎を起こすことによる属性転移が世界を滅ぼす”だ!!分かりました!水魔法で火を起こせます!!」



 

 メヒーシカとシャラムン、それにエパナは再び木々の檻に向きあっていた。


「それじゃあ、始めましょう、せーのっ」


 メヒーシカの掛け声とともに、三人は水球を作り出す――否、球ではない。もっと平べったい形をしているそれは、球ではなく凸レンズ。それが太陽の光を一点に集め――やがて、木の檻は燃えだした。


「やった!?」

「いや、まだ分からん」


 檻の回復力が高ければ、この攻撃も意味はない。三人は固唾を飲んで、それぞれ自分のレンズが燃やす先を見守っていた。

 しばらくは一進一退が続く。だが、少し離れて空いた三つの穴が、大きくなって一緒になり、一つの広い穴になった時点で勝敗は決した。もはや火の勢いは檻の回復速度を遥かに上回り、広がって行く。


「やった!!やりました!!」

「……しかしこのまま燃えすぎると、逆に制御不能にならないか?」


 メヒーシカは小躍りして喜ぶ。一方エパナは冷静に突っ込んでいた。


「まあ、それは大丈夫であろう。水魔法には制限もかかっておらぬし、中の者達を助け出せればあとはともに消火活動に当たればよい。この攻撃を仕掛けて来た者も、魔導学院全員を相手にする力がないからこそこんな回りくどい手法をとったのだ、もう心配はいらぬと考えてよいだろう」


 それを聞いて、メヒーシカとエパナは改めてハイタッチした。




 結局、敵の正体は分からなかったものの、魔導学院の皆は無事に救出することができた。三人は功績を讃えられ表彰されることになったのだが、シャラムンはそれよりも早く故郷に帰ると言いだした。


「どうしてもう帰るんですか?もう少しゆっくりしていっても……」

「あまり長く故郷を空けると妹が心配で敵わん。吾輩は十年に一度リックの様子を確かめることにしているのでな、それは充分達成できたし、ついでに気になっていた魔導学院の内情も知ることが出来た。吾輩としてはやはりこの学院の魔力の育て方は不自然だと思うが――」


 むっとするエパナと、しゅんとするメヒーシカを見て、シャラムンは言う。


「全く学ぶべきところがないとも、言えない場所だとも思ったな。水魔法でレンズを作り火を起こすなど――よく思いついたものだ。どうやらこの学院にも、また面白い知識が眠っているようだ。百年かそこら経ったら、また遊びに来るのも悪くない」

「百年って!時間感覚が違いすぎます!」

「ははっ!ならばエルフの里に来るか?いいところだぞ。人間がどんな扱いをされるかは知らんがな……」

「脅かすな!メヒーシカがちびってしまっているではないか!」

「なっ!何を言うんですかエパナ!!そんなことありませんもん!」


 そうして最後の会話を終えた後、シャラムンは旅立ち、魔導学院の日常が戻った。

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