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番外14 魔導学院にて~メヒーシカとエパナとシャラムンの場合~(その2)

「う~、気持ち悪いですぅ、不愉快ですぅ……」


 シャラムンに器の差を見せつけられてから数日、さしものメヒーシカも動揺を隠せなかった。エパナも親友の心理状態について、心配そうに見守っていた。


「まあそう気を落とすな。人生はこれからだ」

「エルフの人生に比べたらもうあっと言う間ですけどね……」

「はいはい、拗ねるな拗ねるな。いつまで言われたことを気にしているんだ、ほれ、天気もいいし、たまにはそなたも外で散歩するのがいいんじゃないのか、私も付き合おう」


 濁った空気をいつまでも友人にまとわりつかせるわけにはいかない。エパナは気分転換になればいいと、強引にメヒーシカを学院の外に連れ出した。基本的に魔導学院は自学自習の組織だ。貴族の子弟が通う一般的な学校とは異なり、外出規制なども特には存在しない。

 とはいえ、立地自体が山奥の辺鄙な場所にあるし、敷地も広大であるため外出するメリットはそもそもほとんどないのだが、エパナは少しでも新鮮な刺激をメヒーシカに与えるべきだと考え、外出を促した。

 以前討伐試験で入ったような不気味な森も近くにはあるが、大部分は自然豊かな山、森、草原といった情景が魔導学院の周囲には広がっている。いつものようにマニアックな本を図書館で読むのもいいが、気分転換にはやはり大自然の息吹を感じるべきだろう。こころなしか、メヒーシカの顔色もよくなったように思えた。


「ふぅ……確かにエパナの言う通りですねっ!なんだか元気になって来た気がします」

「そうだろう、もう少し外を歩いて、しっかり英気を養え」


 魔導学院での修業は厳しい。これをしろ、あれをしろと命じられるわけではないが、試験やたまの実戦練習で求められるクオリティはおしなべて高く、勤勉でなければ追い出されるのが常だった。そのため皆徐々に精神に余裕がなくなってくる、あるいは余裕のない状態であっても普段の活動を続けようとする。しかしそうなっては悪循環にはまりかねない。やはり精神の安定を取ることは大事なのだとエパナは改めて思った。

 しばらくぶらぶらと歩き、やがて太陽が傾きだしたのを感じる。充分英気も養えたことだし、あまり遠くに離れてしまっては帰れなくなるかもしれない。どちらともなく、二人は帰路に就こうとした。




 異変に気づいたのは、魔導学院が見えるほど近くなってからである。

 魔導学院のあるべき場所に、森ができていた。

 何らかの植物が生い茂り、視界が全く晴れない。近づいていっても同様で、やがて二人は魔導学院が完全に植物の檻に包まれて、外から入れなくなっていることに気づいた。


「ちょ、なんなんですかこれは!前の動物巨大化現象に続いて、今度は植物巨大化現象!?」

「慌てるなメヒーシカ、何が何だかわからないときに即断は危険だ」


 そうは言う者の、エパナ自身も冷静ではいられない。朝出て行く時には普通だったのに、帰ってきたら魔導学院の広大な敷地を覆う木のドームが出来ているのだ。冷静であれと言う方が難しい。


「――とにかく、中にいる人達が心配です!この木を燃やしてしまいましょう!!」


 メヒーシカはそう言って炎魔法を放った。しかし魔導学院を覆う木の檻はびくともせずにその姿を保っていた。


「そんな――」


 エパナが呆然とした声を上げる。にわかには信じられず、夢ではないかと思った。メヒーシカも、折角気分がよくなったのが嘘であるかのように憔悴しきった表情になっている。

 そんな二人に掛けられる声があった。


「木を使って檻を作ろうとすれば、当然炎魔法対策くらいしてあると考えるべきだろう。これだから経験の浅い魔法使いは――」


 振り向くと、美形のエルフが立っていた。




 シャラムンに連れられて、森の中の隠れ家になりそうな場所に三人で潜む。とりあえずは、情報の交換が必要だった。


「吾輩は元々エルフだからな、普段は森で生活している方が気分がいいんだ。それで今日は特に見学できるようなものもないらしいし、一人森に出て行っていたのだ」

「私達は――ちょっと気分転換に散歩に出て、帰ってきたらこの状態です」


 誰のせいで気分転換が必要になった、とは言わない。相手もどこまで気が付いているのか。


「ふむ……しかし厄介な敵だな、相当前から準備をしていたと見える」

「あ、あの……シャラムンさんはいったいあれが何だと考えているんですか?」


 メヒーシカがシャラムンに尋ねた。プライドもあるだろうが、いちいち言ってはいられない。シャラムンは一瞬見下したような顔をしたが、それでも答えてくれた。


「魔導学院に害意を持つ物が仕掛けた、魔法だろう。一気に魔導学院の出入りを封じる魔法など、吾輩でも使うことはできないが――魔法で細工した植物の種を魔導学院の周囲に埋め込んで、発芽のタイミングだけ調整するくらいならなんとかなり得る。まあ、魔法の工夫の一種だな」


 そんなこともわからないのか、というような目で見られ、少しエパナは怯む。


「ついでに言うと炎魔法対策は完全だろう。誰もが、いの一番に考えつくことだろうからな。水魔法や土魔法、風魔法などではあれを壊すには余程の力が必要になるし……あとは移動魔法くらいは封じられているのだろうな。まあ、大変な細工ではあるが、長い間準備していたのなら不可能ではない」


 言われて、不審者がいるという噂を思い出した。なまじ魔導学院の力量が高すぎるせいで、本気で攻撃を仕掛けてくる者などいるはずがないと思っていたのが仇になったか。

 結局すぐに日も暮れ、不安を抱えたまま、翌日になるのを待った。

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