番外13 魔導学院にて~メヒーシカとエパナとシャラムンの場合~(その1)
「リック教官はおられるか。吾輩は彼の知人だ」
今日も実技の修行を終え、図書館に向かおうとしていたメヒーシカは呼びとめられて少し不機嫌になった。“水魔法で炎を起こすことによる属性転移が世界を滅ぼす”を読みかけて止まっているのだ。早くあのアホみたいな終末思想本の続きを見て見たい。
とはいえ、無視して通り過ぎるのも感じが悪いだろう。メヒーシカは渋々といった風に振り向いた。
イケメンがいた。
いや、よく見ると耳が尖っているのでエルフなのか。エルフだったらこの程度はイケメンではないのかもしれない。羨ましいことだ。おっと思考が逸れた。
「リック教官なら、この時間なら魔導実験室の方にいらっしゃると思いますよ」
「そうか、邪魔したな」
ぶっきらぼうに言って、エルフの男は去って行った。魔導実験室の場所を聞きもしない。まあ入口の所に案内図があるのだから大丈夫だろうが。
そう言えば最近不審者が魔導学院の周囲でちらほらと目撃されているなどという連絡があったことも思い出したが、まああそこまで堂々とした不審者もいないことだろう。
「メヒーシカ、先程何やら話しかけられていたようだが、何があったのだ?」
気付けばエパナがすぐ隣にいた。例の討伐試験以来、エパナとメヒーシカの友情は深まり、お互い他の人とはしないような話もできるようになっている。
「なんか、エルフの男の人にリック教官がいるか聞かれました……」
「リック教官か、たしかあの先生はエルフの血が混ざっているとかいないとか、そんな噂もあったからな、もしや遠い親戚なのかもしれん」
「へっ、そんな噂があったんですか!?ただのイケメンではないとは思っていましたが……」
「メヒーシカ……そなたの方がこの学院にいるのは長いのに、どうしてそう疎いのだ。本以外から得られる知識も、時には大事だぞ」
「うぅ……すみません。でも、エルフと人間の混血なんて珍しい話ですね!きっと、素敵なロマンがあるんでしょうね!!」
「ああ……そうだったらいいな」
そんなことを話しながら、二人は今日も図書館へ向かった。
「こちらの方はシャラムン、私の知人で、今日からしばらくの間、魔導学院を見学されることになった。皆、よろしく頼む」
「シャラムンだ。よろしく」
無愛想なエルフがリック教官に紹介されたのは、翌日のことだった。
エルフは人間を嫌いという話も聞いたことがあるが、彼もまたその類なのだろうか。
「確かにエルフというのは整った顔をしているものだな。おまけになんだあの“魔力”レベルの高さは」
「Lv012ですか……さしもの私も負けていますね……」
ひそひそと二人でそんなことを話していた。魔導学院には基本的に人間しか来ないので、エルフの来訪者については他の学生達も少しざわざわとし出す。しかしシャラムンはそれらを気にした様子もなかった。
それからすぐ後にあったのは実戦練習である。これまでは強すぎることと友達が少ないことの両方からこういった実線練習では教官と組んでいたメヒーシカだったが、最近はもっぱらエパナとペアになり魔法を撃ちあっている。実力にはやや開きがあるので、主にエパナに目一杯攻撃させて、メヒーシカがそれを受け流すというやり方であるが、それでもお互い充実していると感じていた。
「ひゃあっ!今のコンビネーションは上手いですねエパナ!王女様がそんなに強くってどうするんだって気もしますけど!」
「なあに自分自身もボディーガードに加えられればそれに越したことはないさ!!」
ドカンドカンと、派手な音を立てながら魔法が飛んでくる、それをまた派手にかわし、打ち消しながら、最後にメヒーシカは一発巨大な水球を出し、エパナの魔法で生じた炎や土の弾などを根こそぎ吸収させた。
「うーん、やはりまだまだ勝てぬか」
「へっへー、水を生じさせる魔法は多々あれど、この状態で水球に変えるのは私のオリジナルですよぉ、研究の成果せいかっ!」
にやにやと笑って得意そうに胸を張るメヒーシカの後ろから、しかし冷たい声が浴びせられた。
「――やはりその程度か、魔導学院の限界だな」
振り向くと、シャラムンというエルフが立っている。見学していたが、いつの間にか近づいて来たらしい。
「――っ!いきなり何を言う!」
メヒーシカ本人よりも先に、エパナがくってかかった。しかしシャラムンは涼しげに受け流す。
「魔力というものは、無理矢理に引き延ばすような類のものではない、ということだよ。寿命の短い人間にとっては、こうでもしないと伸びないのも分からぬではないが――無理をしていることには変わらぬ。いずれ綻びが出るぞ」
「――私だって、力量に振り回されないように図書館で理論もしっかり学んでいるんです!そんな風に言われる筋合いは――?」
「そうか?」
言ってシャラムンは、水球を作りだした。
「な――」
先程メヒーシカが作った水球が玩具に見えるほどの、巨大な球。それをこともなげに扱って見せる。
「球体にしようとしたのは、表面張力のことを考えていてよいアイデアだった。だが、本当によい魔法にするためには、もっと水のことを知らねばならぬ。重力がかかっていなければ、より球状になることが自然であることまで考慮すれば――この通り、もっと巨大な水球も扱うことができるというわけだ。こんなこと、吾輩は“魔力”Lv005の頃から知っていた。そんなことも知らずに二桁の高みに登ろうとすると――そのうち怪我をするぞ」
言い捨てて、シャラムンは去って行き、後には呆然とするメヒーシカとエパナが残った。




