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番外10 魔導学院にて~メヒーシカとエパナの場合~(その3)

 動物が巨大化する森の中で、不自然な臭さを辿ったら巨大な糞の山が出て来た。残念ながら学院生活のきらめく思い出にしてはちょっと不潔すぎる。しかし出て来てしまったものは仕方がない。目の前には、人の背丈以上にも積みあげられた、動物の糞の山があった。一種の動物のものではない。肉食動物や草食動物、さらには鳥の糞とみられるものまで、あらゆる糞の溜まり場になっている。


「な、何だこれは!!」

「くしゃいれしゅね……」


 メヒーシカに至ってはもう鼻をつまんでいる。しかしこの空気の汚さから考えれば、そうする方が自然だろう。


「と、とりあえずいったん退こう!こんな臭いをずっと嗅いではかなわん!」


 エパナはメヒーシカを連れて下がった。ようやく普通に呼吸できるところまで離れたあたりで、二人は相談する。


「いったいあれはなんなのだ……見た所、糞の山だったようだが」

「そうですね……ちょっと待ってください、何かどこかで読んだような――あああああああっ!!!思い出しました!!“排泄と魔法~火・水・土・風に次ぐ基本系統は‘便’だ~”という本に――」

「クソみたいな本だなあおい!」

「そんな本に今回の答えが乗ってるんだから文句言わないでください!いいですか、その本にはですね――魔法の元が豊富な生態系の中で、排泄物が一か所に集まり過ぎると、魔力が凝縮されて様々な怪現象を引き起こす可能性が理論的にはあるって――!」

「それが、あの糞山か」

「恐らくはそうでしょうね。そもそもなんで糞が一か所に集まったのかは疑問ですけど、あれがこの森の様々な不思議を巻き起こしている可能性は高いと思います」

「じゃあ――あれを掃除すれば」

「道が開けるかもしれませんね」


 二人はうん、と頷き合う。ようやく希望が見えてきた。もう一度先程の糞山に戻ろうとする。正直、二度と見たくはないが背に腹は代えられない。やることがはっきりすれば簡単だ。炎の魔法を糞山に放てば、燃え尽きてしまうことは想像に難くない。それから先のことは、あとで考えよう。

 そう思ってエパナは、目の前の木に手をかけ立ち上がり――

 



 感触が、植物ではなかった。

 少し温かみのあるそれは、むしろ動物というべきで――

 ゆっくりと、首を縦に上げていく。目線が――合った。


「――サイ?」


 五階建ての建物に匹敵するような高さから見つめて来るのは、鋭い角を持った巨大化した動物だった。



 

「あわわわわわわっ!」


 咄嗟に、メヒーシカが炎の魔法を放つ。先程までこの魔法を使って糞山を焼き尽くすことを考えていたからだが、かえって中途半端な攻撃になってしまった。

 サイが自分に当てられた熱量に怒り、矛先をこちらに向けて来る。


「逃げろおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!」


 二人はまたも、その場から駆けだした。

 どこをどう走っているのか、自分達でも分からない。分かるのは、サイが追いかけて来ていることだけ。これまでの巨大化動物達は単にやり過ごしたからか、追ってくることはなかったのだが今回はメヒーシカが魔法を当ててしまったせいか怒り狂っている。

 何度も何度も、木に足を取られたり、草に絡みつかれたりしながら、二人はかろうじて巨大な角の餌食にならず逃げ回っていた。


「――エパナ!こっちは行き止まりですっ!」


 気が付けば、臭いが強くなっている。自分達はどうやら、あの糞山の前に戻ってきてしまったらしかった。慌てて方向を転換しようとするが――

 正面から、巨大サイが逃げ道を防ぐ。後ろは糞山、前は巨大サイ。どちらも最悪だが、マシなのは――


「ええい、糞山に突っ込むぞ!!」


 エパナはメヒーシカの襟を掴んだ。

 そのまま糞山にダイブしようとし――


「待ってくださいそれは嫌ですぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!!!!!!!」


 メヒーシカは悲鳴を上げながら炎魔法を派手にぶっ放した。




 糞山の残骸がくすぶって燃えている。先程までにあれほど二人の命を脅かしていた巨大サイは、今や通常サイズにまで戻っていた。それでも一般人には充分な脅威であるが、さすがに二人の敵ではない。

 軽く倒して、ほっと一息を吐く。


「もともと炎魔法で飛ばそうって言ってたのに、パニックになると忘れるものだな。あのままだったら全身糞まみれになるとこだった」

「全くです。まだまだ修行が足りませんね、私達」


 エパナの言葉に、メヒーシカも同意した。彼女にしてもきちんと考えて魔法を撃ったというよりは、ほとんどパニックの上での本能的な行動にすぎなかった。


「まあ、それにしてもこれで一件落着だな、霧も晴れてきたし、木々の変な魔力も薄まった、これなら私でも帰り道を見つけることができるだろう」


 晴れ晴れと言うエパナに、メヒーシカも笑って――

 その笑顔が、途中で固まった。


「……ねえ、エパナ。私達、これで試験合格になるんですかねぇ」


 その言葉に、エパナの表情も凍る。 


「それは……その……だってあんなに大きなサイと戦って、討伐して……」

「けど今いるのは普通サイズのサイです。糞山も飛び散って燃え尽きちゃいましたし――」

「ちなみに、メヒーシカの読んでいた本って、有名な本だったり……?」

「するわけないじゃないですか。全ての魔法使いからそっぽを向かれて、誰にも見向きもされない学説を、魔導学院図書館の奥からそっとすくい取る、それがこの私、メヒーシカなんですから」

「つまり――糞の学説も一般には否定されていて私達が何と戦ったか証明できるものなんて何もないのか畜生!!」

「言わないでくださいよまだもう少し気付かないふりしていたかったのにぃ!!」



 

結局、二人は試験終了ぎりぎりになんとか山賊を見つけ打ち破り、留年の危機から逃れたのだった。

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