第6話 育成
“鑑定”Lv10000と“育成”Lv10000。これらもまた、俺に与えられたカンスト能力である。俺はミエラを“鑑定”し、その結果“算術”の素養があることがわかった。普通の“ゼラー”ならまず能力を伸ばすかどうか、考えすらしないところである。ちなみに俺は“算術”もLv10000で、元の世界では数百年にわたり証明されていなかった未解決問題を証明できるようになってしまっていた。カンスト怖い。
さて、そんなわけで俺はミエラの“算術”を育成することにした。
ここで素養とレベルの差について少し話しておこう。まず、俺は初期設定からバグがあるようなものなので、レベルがこれ以上上がることはない。しかし一般には、レベルというものは鍛錬によって上げることができる。武術の訓練や、学問の勉強などだ。ただ、上がりやすさ上がりにくさというものがあり、不得手な人間は何年練習を重ねてもLv0のまま動かない、ということもよくある話だった。この、上がりやすさ上がりにくさを素養といい、“ゼラー”は多くの素養が低いためなかなか“ゼラー”を脱出することができない。そうすると社会的に弱い立場に置かれ、そのような状態で生まれた子供は訓練に多くを割く余裕がなく、結果として“ゼラー”になってしまう可能性が高い。加えて遺伝的要因もあるようで、これらの原因により“ゼラー”は個々人の体質に止まらず社会的階層となっていた。
ところがここで、俺の“鑑定”によりまずミエラの素養がどこにあるかを判定。その素養と俺の“育成”が交わることで、通常ではあり得ないスピードでミエラの“算術”は力量を向上させていった。
「金貨1枚が銀貨24枚、銀貨1枚が銅貨24枚だ。じゃあ金貨1枚は銅貨何枚だ?」
「えっと……576枚?」
「素晴らしい。もっと自信を持って答えるようにしような。では、この国での金貨23枚はエライス国の金貨17枚と同じ価値だ。エライス国の金貨102枚はこの国で金貨何枚分の価値になる?」
「えっとえっと……138枚!!」
「正解だ」
就寝前の僅かな時間、翌日に響かないようにほんの少しだけ睡眠時間を削って行うこの勉強で、ミエラはすでに複雑な両替の暗算をできるようになっていた。そして――
「ミエラ、ステータスウィンドウを見てみなよ」
俺はそうミエラを促す。ステータスウィンドウに書かれている属性は1000ほど。毎日全て確認するような骨の折れる仕事は普通の人はしないので、ミエラもそれを見逃していた。俺は自身があったが、彼女にとっては向き合う怖さもあったのかもしれない。だから、俺の方が先に見つけて彼女を促すことになった。言われて、ミエラは少しずつステータスウィンドウを見ていく。“算術”は256番目の項目だ。00が並ぶ画面だからこそ、彼女はさほど時間をかけずにそれを見つけた。
「嘘っ……そんな……」
“算術”Lv001。紛れもなく、彼女はもはや“ゼラー”ではなくなっていた。
「ああっ……ありがとうございますっ……一生、一生お側に付いて行きます……」
ぽろぽろと涙をこぼしながら、そんなことを言うミエラ。やっぱりこの子は雰囲気とかに弱いんじゃないだろうか、と思いながら、俺は彼女に言葉をかける。
「いいって、それに、これで終わりなんて思って欲しくはないからな……訓練は、まだまだ続けるぜ」
にやりと笑った俺の表情に、彼女は何を見たのだろうか。
そして、俺がこの世界に来て三ヶ月ほど経った頃――遂にチャンスが訪れた。