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番外8 魔導学院にて~メヒーシカとエパナの場合~(その1)

投稿2ヶ月達成記念短編祭りです!

 どこぞの国の王女様が、キリシカ魔導学院に入学するという噂を聞いたのはメヒーシカが“排泄と魔法~火・水・土・風に次ぐ基本系統は‘便’だ~”という文字通りクソみたいなタイトルの魔導書を読んでいたときだった。

 ちなみにこの本の学説に対してはメヒーシカは否定的である。便の機能には確かに神秘的なものがあるし、相当のエネルギーを持っていることも事実ではあるが、どう考えても便に関係する魔法は土か水に強い繋がりを持っているし、基本系統として独立させることはできないだろう。だけれども、百人中九十九人がそっぽを向くような魔導書に、マニア的好奇心を刺激されてしまうタイプのメヒーシカはついつい魔導学院の図書館の隅でこんな本を見つけては読んでしまうのだった。

 偏執的な好奇心のおかげかどうかは分からないが、彼女の成績は良好だった。魔力のレベルはとても珍しいことにすくすくと成長し、二桁に乗ろうかとしている。そんなメヒーシカにとって、どんな他人が魔導学院に入ってこようが特に気にするようなことではない。だから彼女は、その噂も小耳に挟むだけでふーんと聞き流していた。

 なので、それから数日後。“彼女”の登場は、メヒーシカにとっては突然の出来事だった。




「“駄目人間になるための10の魔法の使い方”?そんな本を読んで、そなたは駄目人間になりたいのか?」


 成績優秀だが変人、と名の通っているメヒーシカに、そんな風に話しかける人間は学院にいなかったので、彼女はびくっと驚いた。ついでに言うと読書中に話しかけられるのは好きではない。


「な、なんなんですかっ!いきなり現れて人の趣味に突っ込みを入れないでください!」


 ちょっと過激とも言えるようなメヒーシカの反応に、しかし話しかけた少女はあははと笑う。


「いやいや、すまなかった。別にそなたに喧嘩を売ったようなつもりはないのだがな……編入生という立場上、なかなか話しかけてくれる者もいなくて、困っていたのだよ。それで手持無沙汰になって図書館をうろうろしていたら、歳の似た女子が面白そうな本を読んでいたから、ついつい声をかけたくなったというわけだ」


 編入生、という言葉を聞いてメヒーシカは噂を思い出す。魔導学院においてさほど珍しい存在ではないが、王族ならば周囲も多少は気遅れするものかもしれない。そのせいで余計に、彼女は周囲から喋ってもらえなかったのではないだろうか。

 ――まあ、だからといってメヒーシカが話し相手になってやるゆえんもないのだが。


「――読書中なんです、ほっといてください」


 ぷいと突き離し、視線を本に戻す。えっと、どこまで読んでたっけ、そうそう、“第三章、楽して儲けるための魔法の使い方”だ。


「――それじゃあ、仕方ないな。私も隣で本を読んでもいいか?」

「……どうぞ、ご勝手に」


 さすがにそれを否定するわけにもいかず、メヒーシカは小さく頷いた。




 なんだかんだで王女は毎日、図書館にやって来た。

 メヒーシカとしては読書の邪魔をされたくなかったが、王女の方もそこはよく分かっているようで、メヒーシカが不快に思うようなことはしてこなかった。


「――なんで、貴女はずっとここにいるんですか?」


 ある日、メヒーシカは気になっていたことを聞いた。王女の性格なら、最初は警戒されてもそのうち人の輪に入って行くことはできるだろう。それをしないのは何故なのか、メヒーシカは疑問に思っていた。


「……王女というのも、難しい立場でなぁ」


 王女は、困ったように笑った。


「誰とでも、仲良くやっていくわけにもいかないのだよ」


 それを聞いて、ぼんやりとメヒーシカは触れてはいけない部分を感じ取ってしまった。王女という立場は、例え魔導学院においてであっても、完全に垣根を越えた人付き合いをさせることはできない。彼女自身が、壁を作ろうとしている。王女がメヒーシカの隣にいるのは、メヒーシカが元から彼女に対して壁を作っているから、追加で壁を建てなくて済むからなのだと分かった。


「――大変、なのですね」


 だからメヒーシカは、そんな人並みの返答しかできなかった。


「……そうでも、ないさ」


 それが強がりだったのかは、彼女には分からなかった。




 魔導学院での修業は、個々のペースに任されている。そういう意味では自由だと言えるかもしれないが、年に数回の試験に合格しなければ容赦なく落第させられる。それに、各試験は決して楽な内容ではない。なので、魔導学院の学生達は各々、とても厳しい修行を積んでいた。

 そしてまた、試験の季節がやって来る。今回は実技試験で、パーティを組んで何らかの討伐活動を行え、というものだった。


「ふぅむ……どうしましょうかねぇ」


 メヒーシカは友達が少ない。というか、少なくともパーティを組むことのできる相手はいない。ただでさえ、能力的には突出しているという側面もあるのだ。

 一人であっても試験に合格できる自信はあったが、周囲が大規模パーティを組みだすと相対的によい結果を残せない可能性もある。それに真面目な彼女は、一人でパーティと名乗るのが試験の裏をかくような行為に見えてあまりやりたくはなかった。

 そんなわけで悩んでいたところ、声をかけてくる人影があった。


「そなた、試験のパーティは決めたのか?もしまだ相手がいないというのであれば、私と組まないか?」


 そんな奇特なことを言う人間は魔導学院にもそうはいない。振り向くと、どこぞの王女様の姿がそこにあった。


「……友達、いないんですか?」

「な、なんだその言い方は!私の方こそそなたが一人ぼっちに見えたから誘ってやったというのに!だいたい、いつも一人で変な本ばっかり読んでいるそなたが、まともにチーム戦をできるのか?」

「変な本は余計です!それに、私は強いんですよ!」

「……ははっ!これまでずっと大人しそうな顔をしていたのに、いざとなっては“強いんですよ!”か、なんだ、腹の中ではたいした負けず嫌いじゃないか」

「――ただの事実なだけです」


 しばし、二人は見つめ合い、やがて同時に、クスリと笑った。


「パーティ結成だな、書類を書きに行くぞ――おっと、そう言えばあんなに一緒に過ごしていただけなのに、まだそなたの名を知らなかったな」

「一緒にって……単に隣で本を読んでいただけじゃないですか、知らなくても当然です――私の名前はメヒーシカ、貴女こそ、お名前は?」

「エパナだ。いずれジーシカの女王になる名前ぞ、覚えておいてくれ」


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