第58話 傲慢
翌日もまた、俺は矢面に立たされた。
まあ当然と言えば当然なのだが、各人自国の利益を損なわないようにしながら、オートランドの振る舞いを質してくる。
「であるからして、オートランドは元々ネルジランドに対して領土的野心を持っていたのではないかと――」
「今回の一件で我が国の領土は増えておりません。そのことはよくご存じのはずでは」
「実際のところ、エルフと密約があったのではないですかな?」
「そんなものはありません、ただ義に従って行動したに過ぎません」
「ならばこれからエルフと同盟を結ぶ可能性は?もしもおありならば、我が国も是非一枚噛ませていただきたい」
「そのような計画は今の所ありませんね」
「しかし、またエルフが攻撃を受ければ援軍を送るのでしょう?それならば、同盟が成立していると言ってもいいのではありませんかな?」
「エルフだからどうと言っているわけではありません。争いを見て、一方が明らかに条理に反していると思えば我が国は被害を受けている側に手を貸すことはある、というわけです」
「しかし一見して見る善悪と、実際どちらに理があるかは異なる可能性もありましょう。それとも貴国ならいかなる場合においても適切な判断ができると?」
「勿論安易な判断は避けるべきです。それ以上のことは内政で決めること」
「ときにダッカスについてはどうお考えなのですかな」
「だからあれは個人的な諍いでありすでに解決していると」
「特使同士のもめ事を個人的で済ますのはあまりにも軽率な――」
「ならばジロー王弟殿下にも聞いてみてください。お互い納得の上で話はつけたはずです」
最初は丁寧に答えていたつもりなのだが、昼休みを挟み、太陽が傾いて空が赤くなる頃までそれが延々と続くと、さすがに俺もいらいらとして来た。議論があっちへ行ったりこっちへ行ったりしながら、隙あれば俺の失言を狙っている。誘導しているのは司会役のエパナだ。どうやら、俺を追い込んで反応を試しているらしかった。小賢しいことである。
「であるから、やはりオートランドには元から野心があったのではないかと考えられ……」
オートランドの勢力が広がっては困る側からの、本日何度目か分からない指摘。何度もそうではないと説明してきているというのに、まだ分からないのか、分からないふりをしているのか。
――ああ、面倒くさい。
イライラする。うっとうしい。ねちねちねちねちと。邪魔くさい。不快だ。うるさいうるさいうるさい。
もう、いいか――
「――黙れよ。お前ら」
周囲の特使達が一斉に口を閉じる。魔法を合わせて使ったのだから当然だ。
「もういい、お前たちの話も聞き飽きた。結局所詮は自国の利益のためだけにああでもないこうでもないと、ぐちぐち言ってくるあんたらの器の小ささにも飽き飽きだ――だから、お前たち、みんな揃って俺の国になってしまえよ」
言いながら、直接彼らの脳内にイメージを叩きつける。もし俺に逆らえば、どのような暴力にさらされるか。自分が、自分の国が、一体どんな目に遭うのかを、奴らの脳内に刻みつける。
一国の主になれば面倒が減るかと思った。しかし結局面倒は起こる。ならば世界の主になってしまえばどうか。そうすれば、余計な邪魔は入らず、自分の好きなように戦うことができる。だからもう、容赦はしない。皆がはいと答えるまで、ここで全てを決めてやろう。
「……我がダッカスは、城島ヒカル様に忠義を誓います!」
最初に膝を折ったのは、ダッカスのジロー王弟だった。先日既に痛めつけられているとはいえ、自分の所領に留まらない決断は彼にとっても大きかっただろうが、それでもやはり心が折れるのは早かった。
そして、ジローの決断により、堰を切ったように次々と特使達が頭を垂れて行く。
「わ、我が国も城島ヒカル様に忠誠を誓います!」
「我が国も誓います!」
「我が国もです!」
そうして、最後にはエパナ女王だけが残った。
「――さあ、決断の時間だぜエパナ陛下」
俺の言葉に、歯をぎりりと噛み締める。
「……そなたはっ、それでいいのかっ!それぞれの国があって、それぞれの歴史があって、みんな工夫して、頑張って、国民と伴に、今日まで歩んで来たんだ!それを、ただの暴力でっ……!そんなもので終わらせて、自分が主になって、それで満足なのかっ!分かっているのか、ネルジランドがエルフの村を侵攻したときとはわけが違うんだぞ!今のそなたにどんな大義名分がある!」
「俺にそうさせておいて、今さら何を言ってるんだ。とっとと選んでもらおうか。俺に従うか――滅びるか」
エパナは最後に俺を憎々しげに睨みつけ――そして俯き、蚊の鳴くような声で言った。
「我がジーシカも……城島ヒカル様に忠誠を誓います」




