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レベル0に見えますが実はカンストしてるんです  作者: 酢酸 玉子
第6章 カンストゼラー流外交
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第54話 同窓の友

 ジーシカの宮殿、エパナ女王の居室に、来客を告げる使用人が訪れていた。


「エパナ殿下、お客様がお見えです。殿下の長年来の友人だと仰っているようですが……」

「ふん、私は首脳会議の準備で忙しいのだ。王位に就いてから自称友人が増えすぎて困る。とっととお引き取りいただいてくれ」

「かしこまりました。メヒーシカとお名乗りになっていますが、追い返して構いませんね」

「メヒーシカだろうがメキーシコだろうが……ま、待てメヒーシカと言ったか!!追い返すな、彼女は本物の友人だ!!」

「かしこまりました。ではお連れしてもよろしいですか?」

「すぐに通せ!女王になったから友達づきあいを減らしていると思われては敵わん」

「御意」


 名をケーリというその使用人は表情を変えず、ただ深々と頭を下げた。

 しばらくして、旅の魔法使いであり、エパナの親友にして魔道学院の同窓生がケーリに連れられて女王の居室に入ってくる。エパナは満面の笑みで出迎えた。軽く抱擁を交わす。


「メヒーシカ!!久し振りだなあ。まさかそなたが来てくれるとは思わなかったぞ。私の戴冠式にも顔を出さなかったと言うのに」

「それについてはごめんなさいです。その頃はイルタニャの辺りにいたのでどうしても都合が合わなかったの」

「なに、実のところ気にしてはおらん!それで、そのとき来れなかった分、今日は私に祝いの言葉を届けに来てくれたのか?」

「勿論、エパナの女王就任は心よりお祝いします。だけど、私がここに来たのはそれだけじゃない。ジーシカの女王陛下に、災厄が迫り来ることを伝えに来たの」


 尋常ならざる親友の言葉に、エパナも姿勢を正す。


「聞こう。魔導学院十年に一人の俊才であるそなたが、そこまで言うのだから並大抵のことではあるまい」


 そして、メヒーシカは全てを語った。




「……にわかには信じられんな」

「だけど本当のことなんですよっ。十中八九、“ゼラー”に見えるだけで実際はレベルが999の彼方に行ってしまった者ですし、もしも外れていたとしても、最低限レベル100相当の魔導石を持っています」

「いずれにせよ、化物には違いないということか」


 眉を寄せてエパナは考え込む。実際彼女も、エルフの里に攻め入っていたネルジランドがどうしてオートランドに大敗を喫したのかは気になっていたところだった。


「……それで、対策はあるのか?私にもできることがあるなら手を貸そう」

「もしも彼が首脳会議に出てくるなら、彼の力を封じられる可能性は……ここに」


 そう言って、メヒーシカは懐から一冊の本を取り出した。表紙を見て、エパナはじとっとした瞳をメヒーシカに向ける。


「“一生使わない!クソみたいな魔法ベスト100”だと?相変わらずそなたは魔導学院の隅で埃を被っているような本が好きだな……」

「私の趣味はほっといて欲しいですねっ!それに今回はちゃんと対策を見つけてきたのだから間違ってないの。これを探しに行くためだけにわざわざ魔導学院まで寄って来たんだから」

「それはそれは、この件が片付いたらゆっくりと恩師の現状を教えてもらおう」

「私も急いでいたからあまり分かりませんでしたけどねっ。とにかく、この本に書かれている魔法を使えばなんとかできる可能性があります」

「話を聞こう」

「はい」


 メヒーシカは本を開いた。目当てのページで指を止める。


「“見た物を見たままに(ア・ジュゥ・キャンシ)”という魔法。例えば、炎の幻覚を用いて惑わされたとすると、そのときにこの魔法を使うと――炎が幻覚でなくなり、よりダメージを受けるの」

「本当にクソみたいな魔法だなぁおい!」

「しかし、今回は有効な可能性があるの。うまくいけば、彼のレベルは(・・・・・・)見た目通りの(・・・・・・)ゼラー(・・・)になる(・・・)。通常、強い魔法を使ってもより強い魔法を返されれば失敗するけど、この魔法が起動した時点で彼の魔力はレベル000になり返し技は成立しないはず」


 エパナは息を呑む。生きていく上でまず使わないような魔法を実戦で用いようとする親友の、柔軟にして高度な応用力は健在だった。


「……勝算は?」

「一割ってところでしょう。魔導石の説が正しければこれは使えないし、そもそも幻覚ではなくレベルの見た目に使えるのかも未知数。もしもうまくいかなければ逆に返り討ちにされる可能性もある」

「それでも……やるのか?」

「やる」


 メヒーシカは即答した。


あれ(・・)は放置していいものじゃない。世界が崩れる。アリ塚の中に象を放り込めば、どうしても秩序は守れない」


 決意の色を瞳に宿す親友に、エパナは右手を差し出した。


「そこまで言うのなら、もはや何も言うことはない。私はそなたの助けになることを全力でやるだけだ。首脳会議でそなたが自由に動けるように全力を尽くそう。死なばもろともだ」

「ありがとう」


 礼の言葉は簡潔。二人にはもはや必要ない。ただ万感の思いを込めて、女王の右手を魔法使いは力強く握った。


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