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レベル0に見えますが実はカンストしてるんです  作者: 酢酸 玉子
第6章 カンストゼラー流外交
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第52話 大蛇狩り(上)

 昼でも山の中は薄暗い。

 俺達は足元を確かめながら一歩ずつ進んで行く。幸いにも、地肌の露出している道のような溝があったため、草木に足を取られる心配はなかった。


「なんだか――静か」


 ミエラがぼそりと呟いた。確かに、本来あるはずの生命力が随分と減ってしまっているような、そんな雰囲気を感じられた。やはり、大蛇が小動物などを食べてしまっているのだろうか。


「――や、やっぱりやめましょうよ……こんな不気味な山の中で、大蛇を探してもいいことなんてありませんって!……ちょっとぉ!!無視しないでくださいよ……」


 ジリがなんとか俺達の歩みを止めようとするが、皆彼女の指示には従おうとしない。


「山に潜む魔物の退治だなんて、まるでヒルクリット物語の邪竜討伐みたい」


 ヘルネが少し頬を紅潮させながらそういった。俺はこっそり“知識”Lv10000でカンニングする。ヒルクリット物語はとある国の建国神話で、初代の国王がまだ若者だった頃、冒険者として邪竜を討伐した物語が、情緒豊かに語られているらしい。


「しまった、酒を買って来るのを忘れたな」


 ヒルクリット物語では邪竜に酒を飲ませて弱らせているので、俺はそう言ってヘルネに話を合わせた。カンニングだけど。

 浮き浮きとするヘルネ、冷静に周囲を観察しているミエラ、そして今にも泣き出しそうなジリを連れて、俺は更に先に進む。気付けば随分と山の奥まで来ていた。


「ここまで来て痕跡がないのも……」


 言いかけて、ふと足元を見る。そう言えば、さっきからずっと道のような溝を通って来ていたけれど、これってひょっとして大蛇の通った跡なのではなかろうか。


「って、気付いてなかったんですか!!だからあたしは嫌がっていたのに!!」


 肝心な所を言ってないって。叙述トリックとか、将来“語り部”のレベルを上げたら必要になるかもしれないけどさあ。

 俺は半ば呆れながら、それでももう一度周囲を観察してみた。確かに言われてみれば、草木がはがれたような跡もあるし、長い年月をかけて作られた道というよりは、昨日今日にできた何かが通った跡として考えるほうが適切であるようだった。

 よく見ると、黒光りする石のようなものが落ちている。俺の顔よりも広いそれは、はがれ落ちた大蛇の鱗のようだった。


「普通の蛇と比率を比べて考えてみると……人間が百人並んで寝ても足りないほどの長さじゃない!?」


 ジリの話を話し半分に聞いていたわけではないだろうが、改めてミエラが驚きの声を上げる。それを見てヘルネも少し気分が落ちついたようだった。


「ほらぁ……だからさっきから言ってるじゃないですか……大蛇に遭わないうちにもう帰りましょうよぉ……」


 ジリの言葉は、しかし手遅れだった。


「――どうやらお出ましのようだぜ、大蛇さん」


 俺の見ている方向を、皆が見る。そこには、人の背丈ほどの蛇の顔が、草木をかきわけてこっちをぎろりと睨んでいた。




「はっ……はわわわわわわっ……」


 ジリの舌がうまく回らない。ミエラとヘルネもしばし度肝を抜かれたようだが、すぐに自分達の目的を思い出したのか、大蛇の両脇に回ろうとした。

 しかし大蛇が首を振る。意外に素早いその動きに、二人はぱくりと飲みこまれないよう慌ててストップした。

 大蛇が口を開けて威嚇の声を上げる。二股に分かれた舌は長く、太かった。ちろちろと出し入れされるその舌を見ていると、なんだか頭がおかしくなってしまうようで、意志を持った布のようなその姿に、ふと、なんとか木綿という妖怪のことを思い出してしまう。元の世界の知識は、“知識”レベル10000には反映されていないようで、喉の奥まで出かかったその名前は分からなかった。

 正面に俺とジリ、右にヘルネ、左にミエラを見ながら、大蛇はじっと待っている。一応、ヘルネもミエラも斧や剣という武器らしいものは持っているのだが、気にした様子はない。大蛇にとっては脅威にならないということか。

 人の顔よりも大きい両眼を、ぎょろぎょろと動かす大蛇。そして次の瞬間、正面に首を飛ばして来た。


「危ねっ!」


 慌てて俺はジリを抱えて飛びのく。一伸びで一気に十メートルほど伸びた大蛇は、のろのろと時間をかけて首を戻しだした。


「はわわわわわわわわわわわ……」


 俺の腕の中でジリがガチガチと震える。随分大人しいと思っていたが、どうやら腰を抜かしているだけらしかった。


「おいおい、気をしっかり持てよ。これからあいつを退治するんだろう?」

「まだそんな馬鹿なこと言ってるんですか?あれをどうやって倒すって言うんですか、無理に決まってます!!」

「お前以外はそう思っていないようだぜ」


 ジリの視線を前に戻させる。その先では、ヘルネとミエラが蛇の首に向かって切りかかっているところだった。

 気合の入った掛け声とともに、二人同時に蛇へ刃を突き立てる。しかし頑丈な鱗に阻まれて、ガチリという音がするだけだった。反撃を恐れ、二人とも慌てて大蛇から距離を取る。その間に大蛇はさらに首を戻し、気付けば最初出会った当たりまで戻ってきていた。

 これで大蛇はまた、首を高速で伸ばして俺達を攻撃することができる。

 しばしの静寂。耐えられなくなったのは、ジリだった。


「もう無理ですううううううううううううううううううううっ!!!!!!!!!!」


 そして身をよじって俺の腕を外すと、一目散に逃げ出した。咄嗟の出来事に俺も思わず彼女の後を追おうとして……大蛇への注意が抜けた瞬間、




 視界が真っ暗になり、体全体にねっとりとした感覚が走った。

 どうやら俺は、大蛇に飲まれてしまったようだった。


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