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レベル0に見えますが実はカンストしてるんです  作者: 酢酸 玉子
第6章 カンストゼラー流外交
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第49話 ジリ

「よしよし、もう大丈夫だよ」


 ミエラが少女の肩を抱く。少女は張り詰めた緊張の糸が切れたのか、泣きながらミエラにすがりついていた。


「金も渡しちゃったし、全然あの男を懲らしめられてないじゃないか」

「ヒカルのやり方はいつも極端なのよ。普通は六対四で満足するべきじゃないかしら。実際は金貨一枚で貴重な労働力を手放したら、後々大変だと思うわよ」

「そういうものかねぇ」


 ヘルネと話しながら、少女をあやすミエラを見つめる。しばらくすると、少女の泣き声は治まってきた。


「よしよし、ねえ、名前を聞かせてもらえる?」

「……ジリ」


 少女は小さく名を名乗った。


「――そう、ジリ。私はミエラ。よかったら、いったい何があったのか教えてくれる?」

「親方、命じて……あたし、薬草採りに……でも、大蛇が……」


 ぽつりぽつりと話される言葉を総合してみると、どうやらさっきの男が薬草商の親方で、彼に命じられて薬草採りに行くのがジリの日課だったらしい。しかし、いつもの山で大蛇が邪魔をし、彼女の仕事は完遂できなかったことを親方に咎められ、さっきのような事態になっていたらしい。聞けば、最近ジーシカの城壁の外に出没しだした大蛇にはジリだけでなく、旅人や他の薬草採りも困らされているのだとか。


「そう……大変だったね。でももう心配しないで。あとは私達に任せてくれたら、全部うまくいくから――私も、昔は“ゼラー”だったんだよ」


 とっておきの秘密を共有するようなその言葉に、ジリが目を開く。


「嘘……だってお姉さん、“算術”のレベルが……」

「そう、今はもう、“ゼラー”じゃない。私は、“ゼラー”の運命から救ってもらった。だから、今度は誰かを“ゼラー”の運命から解き放ちたいって思ってる」


 そう言ってミエラはこっちを見た。


「この子もゼラード商会へ連れて行っていいよね、ヒカル?」


 まあ、ゼラード商会の運営は元より俺の関知するところではない。ミエラがそうすべきだと考えているなら、特に止める理由はないだろう。ワイルドムーブを使えば移動自体は一瞬だ。四人で一度オートランドに帰るか……と思ったところで、ヘルネが話に割り込んで来た。


「いいえ、この子はジーシカで今まで過ごしてきたのだから、安易にオートランドに連れて来るのが得策だとは思えないわ。それよりも、彼女がこの街で生きていける方法があると思うの」

「――どんな方法だ?」


 俺の質問に、ヘルネはどこかワクワクしたような風に答えた。


「大蛇狩りよ」




 いつまでも道端に立っているわけにはいかないので、俺達はジリの家に連れて来てもらった。もっとも、そこが家と形容していい存在なのかは疑問が残ったが。橋の下にあるその場所は、少しでも川の水が増水すればあっと言う間に流されてしまうのではないかと思えるほど不安定な場所だった。流れて来た木を使って、一応の壁のような物を組んでいるが、木の腐った臭いが鼻につく。ぼろ切れの他には家具のようなものもなく、改めて俺はこの世界の“ゼラー”の生活がいかに悲惨かということを思い知った。俺の見えない所では、今日のジリのように殴られ、場合によってはそれだけで命を落とすような“ゼラー”が、きっとこの瞬間にもいるのだろう。


「それで、大蛇のことについて詳しく教えてもらえるか」

「大蛇は……大きな蛇です」


 ジリの答えは当たり前のことだったが、よく考えたら質問もよくなかっただろうか。あくまで一介の“ゼラー”である彼女に、降って湧いた災厄の詳細など話せと言う方が無茶ぶりかもしれない。


「……そうだな、今日はどうして薬草を採れなかったんだ、大蛇に邪魔されたときの様子を詳しく話してくれ」

「……分かりました。今日は、いつもの通り、城門を出て山の方へ行ったんです」


 そして、彼女は自らが出会った蛇について、ぽつりぽつりと語りだした。


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