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レベル0に見えますが実はカンストしてるんです  作者: 酢酸 玉子
第6章 カンストゼラー流外交
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第48話 新婚旅行

「ええっ!なんで私達もうジーシカにいるの!?」


 ミエラが驚きの声を上げた。

 勿論、俺が高度な移動魔法である、“ワイルドムーブ”を使って連れて来たのだが、さっきまでオートランドにいたのが、気付けば異国の街並みに囲まれているのだから彼女は随分と興奮していた。


「本当に速いのね。けれども、首脳会議なら遠くの国からも人が集まるから、こんなに早く来なくてもよかったのじゃないかしら」


 ヘルネの指摘はもっともだったが、それにはわけがあった。


「俺が昔住んでいた国では新婚旅行って言って、結婚したばかりの夫婦が一緒に旅行する習慣があったんだ。だから、会議が始まるまでの間は新婚旅行ってことで、一緒にジーシカで遊ぼうぜ」

「へぇ……そんな風習があるんだ。私、聞いたことないな」

「私も初めて耳にしたわ。一対一の結婚じゃなくて、私達みたいに同時に重婚してもみんなで行くの?」

「う――、も、勿論だぞ。十人くらいと一気に結婚した場合なんか、団体割引が効いたりしてとてもお得ナンダゾ」


 出身地では一夫一妻制だったとは言いづらく、俺は曖昧に誤魔化した。ヘルネとミエラが何やら俺を怪しむような視線を向けてくるが、俺は華麗に誤魔化す。


「ほ、ほら、あそこに面白ソウナ建物がアルナア、行ってミナイカ?」

「……あとで詳しく説明してもらう必要がありそうね」

「忘れたふりなんてさせないんだから」





 そんなこんなではあったが、異国の街をぶらぶらと歩いて行けば二人の機嫌も徐々によくなっていった。ねじれたような建物や、何に使うのか分からない木の道具、ちょっと恐ろしげで部屋には飾る気になれない人形など、オートランドで見ないものばかりが並んでいるのだから、“ゼラー”だったミエラにとっては新鮮極まりない。男達から珍しい物を色々と貢がれていたヘルネにとっても、やはり実際に異国に来てみるというのはまた違った感慨をもたらすようだった。


「あら、あそこは何かしら?」


 俺達の目に入って来たのは、ちょっとした人だかりだった。

 何やらもめ事があり、野次馬が集まってきたらしい。


「おい!“ゼラー”のてめぇを今日まで育ててきてやった恩義を忘れたってぇのか!?」

「ごめんなさい親方。でも大蛇が邪魔して……」

「大蛇だろうが邪竜だろうが、俺が採って来いって言ったら採って来るんだよ!!そんなこともわかんねぇのかクソ“ゼラー”!!」


 拳が骨を殴る重い音が響いた。

 野次馬をかき分けて見てみると、どうやら“ゼラー”の少女が雇い主の男に折檻されているようだった。一方的な暴力は、見ていて気持ちのいいものではない。と、いうか、あの男酷い目に遭わせたい。

 うずうずっとしてきた俺を、ミエラとヘルネが両脇から抑え込んだ。


「ヒカル……二人の奥さんと新婚旅行するだけでは飽き足らず、更に女の子を手籠にしようたいの?」

「別にそんなつもりじゃないさ。見過ごせって言うのかよ?」

「いいえ、ただ私達が、新婚旅行中のヒカルに女の子を助けさせるような無粋な女だとは思われたくないだけよ」


 言うが早いが、ヘルネとミエラは男と少女の間に割って入った。


「あらあらそこの旦那様。白昼堂々、いたいけな少女に拳骨とはよい御身分ですわね」


 ヘルネのまとう凛とした空気と、彼女の美貌が男を一瞬怯ませる。その隙に、ミエラが少女を抱きとめて男から引き離した。


「おいっ!そいつは俺の小間使いだ!何を勝手なことをしやがる」


 我に返った男が突っかかろうとするが、ミエラがどこからか出した扇子を瞬く間に男の鼻先に突きつけた。目に見えないような早技に、周囲の野次馬が感嘆の声を出す。


「貴方こそ、自分の小間使いだからって勝手なことをしてもいいわけじゃないでしょう。貴方は彼女の雇い主に相応しくないわ、彼女は引き取って上げるからお帰りなさい」


 そう言って、男の足元に金貨を一枚投げ捨てた。


「――へっ、そんな無能に金貨一枚の値を付けるとは、あんたも相当な馬鹿だな!ありがたく頂いておくぜ!」


 しばらく男はヘルネと睨みあっていたが、やがて気迫に気圧されるように金貨を拾うと、そのまま駆けて行った。

 野次馬もやがて潮が引くように去っていき、後には俺達と“ゼラー”の少女が残る。

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