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レベル0に見えますが実はカンストしてるんです  作者: 酢酸 玉子
第6章 カンストゼラー流外交
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第46話 エルフの村のメヒーシカ

(見た目“ゼラー”の男の謎を解くためにエルフの村に来てみたら、どうして他国が侵攻中なんですかあああああああああああああああああああっ!!)


 メヒーシカは心の中で叫び声を上げた。

 イルタニャで“ゼラー”に見えながら圧倒的な力を使う男を目撃し、かつて読んだ本の記述を思い出した彼女はもっと情報を掴むために、かつて訪れた深森に再び足を運んでいた。魔法使いという立場から研究を進めるには、やはりエルフとの交流は避けては通れない。最近は人間との争いも少なく、多少はエルフからの風当たりも弱いかと思っていたのだが――


(百年以上ぶりに、ネルジランドがエルフの村に侵攻って!このタイミングで!他にもっと脅威が迫っているかもしれないのに!!)


 メヒーシカは嘆くしかない。今は魔法を使って目立たないように草むらに身を伏せ、用心深く周囲を伺っているところだった。おびただしい数のネルジランドの兵士達が村に散らばっている。様々な魔法を使えるエルフ達にしたところで、大量の軍隊には分が悪かったか、今は捕虜として奴隷同然のように扱われていた。

 見知った顔を見つけ、一人で作業しているところにこっそりと近づく。

 そこにいたのは、村長の息子にして、この村でも随一の魔法の使い手だった。


「シャラムンさん、シャラムンさん、私です。覚えてますか?」

「!……メヒーシカ、か。久しいな」

「名前を覚えていてくれたんですね。人間嫌いだったから、てっきり関心を持たれていないと思っていました」

「吾輩が人間嫌いな理由はこの状況を見れば分かるだろう。そして奴らとは違うと感じた相手は別に嫌いにはならぬさ」

「――同じ種族として本当に申し訳なく思います。このままではいけません。どうにか、援軍を求めることはできないのですか?」

「人間が助けてくれるかはそっちの方がよく知っているだろう。エルフの方は……残念ながら見捨てられる公算の方が大きいだろうな。少なくともしばらくの間は。襲撃を受ける前に危険を察知した村は深森の随分奥まで避難して、反撃の時を狙っているところだろうが、なにぶんあまりにも急な攻撃だったからな。態勢が整うには時間のかかることだろうさ。――くそっ、あいつ(・・・)に魔法の開発を邪魔されていなければ、もう少し応戦できたかもしれないのに」


 最後の言葉は独り言のようで、何のことを言っているのかメヒーシカにはよく分からなかった。


「シャラムンさんくらいなら、私の力でも逃がすことができます」

「やめておけ。あいつらはエルフの村を攻めて来る手合いだぞ。魔法対策は当然行っている。魔法使いには相性が悪過ぎだ」

「でも……」

「――今回は、幸いなことにここに妹はいない。もっとも吾輩に見えないところで彼女がどうなっているのかは分からぬが……とにかく、今は辛抱の時だ。エルフは寿命が長い。最後にはちゃんと逆転してやるさ。さあ、あまりここで話をしていると奴らに見つかる。もう逃げてくれ。そして――もしどこかで妹を……ヤーシェハマンを見つけるときがあれば、そのときにはよろしく頼む」


 寂しげにシャラムンは笑った。




 異変が起こったのは、その時だった。


「敵襲!!敵襲だ!!」

「ただの“ゼラー”だ!!すぐに仕留める!!」

「おい!なんだこいつは!!」


 誰かの叫び声が聞こえた。

 見れば、兵士たちの真ん中に、彼らとは服装の異なった男がいつの間にか立っている。その顔をよく見ると……


(あのときの、“ゼラー”!!)


 メヒーシカにイルタニャでの記憶が蘇ってきた。


「――なっ!あの男はっ!」


 隣でシャラムンが息を飲む。先程まで、屈辱的な状況に置かれても毅然とした態度を貫いていた彼から余裕の表情が消え、体が小刻みに震えだす。

 そして、そんな二人から離れたところで、その男は戦っていた。

 何が起こっているのか、それすらも分からないような速度で。




 メヒーシカが気付いたときには、ネルジランド兵は一人も立っていなかった。現れた男は物色するようにネルジランド兵を何名か確認し、一番階級が高そうだった者を肩に担いだ。そして次の瞬間には、二人ともその場から消え去っていた。

 呆気に取られるメヒーシカの横で、シャラムンが青い顔をしながら呟いた。


「あの、“ゼラー”め……前回は吾輩の邪魔をして、今回は助けるだと……?どこまで人をおもちゃにすれば気が済むのだ……」

「シャラムンさん、あの男のことを知っているんですか?」


 メヒーシカの問いに、シャラムンは苦々しげに舌打ちする。


「それを聞いてどうする?」

「私は魔導図書館であのような現象に関する記述を見たことがあります。レベルが999を越えると、またレベルの表記が000に戻って、一見では“ゼラー”と区別がつかなくなる、と。彼は明らかに大陸に災厄をもたらしかねない。止める方法を考えるためにここに来ました」

「――信じられないかもしれないが、あいつはLv100の魔導石を持っている。タネはそれだけだ。レベルが999を越えて元に戻って来るなど、そんなおとぎ話はあり得ない」

「本当にそう思ってますか?Lv100の魔導石と、Lv999の上と、どっちも同じくらい信じられない内容ではないですか?」

「だが、吾輩は見たのだ。奴がLv100の魔導石を持っているところを!それに、Lv999を越える?馬鹿なことを言うな!何百年も生きている吾輩ですら魔力Lv012なのだ!魔導学院で血を吐くような修業を積んだそなたとて似たようなものではないか!」

「それでも――私は見たんです。確信は持てませんが……恐らくは“洗脳”を彼が使うところを。また戦闘でも高いレベルの者を問題にしていませんでした」

「……」


 シャラムンが押し黙る。納得できていないような表情をしていたが、やがて口を開いた。


「――とりあえず、村の皆でネルジランド兵を気絶している間に縛り上げる。それから――奴がこの村に来たときの話くらいはしてやろう」

「ありがとうございます!」




 そして、話を聞き終えたあと、確かに魔導石を使っていたとするシャラムンの考えは理解できたが……同時にメヒーシカには、それすらカムフラージュである、という考えもまた、強固に浮かんでいたのだった。

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