第45話 敵情
「ネルジランドってどんなところだ?」
「少なくとも君のような化物がうろうろしているオートランドよりはまともな国だろうね。何度も言うが宮殿に来る時は窓を使わないでもらいたい」
肩をすくめるチャリーズ国王に、俺は質問を続けた。
「そんなことはどうでもいい。ネルジランドがエルフの村を攻めたと聞いたのであの辺りの情勢について説明してもらいたいからとっとと喋れ」
「相変わらず王族使いが荒いし、そんな君の保護国になっていることについて少なからず危機感を覚えてしまうけれども、そんなことを言ってもどうせ聞く耳を持たないのだろう?ならば説明するがね、ネルジランドは東の大国だ。対外的には強硬な態度が目立ち、我が国ともかつては何度か小競り合いを経験している。現在はお互い喧嘩するより貿易していたほうが利益が出るということでそんな争いはなくなったがね。平和裏に関係を築いて利益を得られないと判断した場合には侵略してしまうことも考慮に入れる喧嘩っ早さは相変わらずだ。エルフの土地に関してもこれまで何度も攻め込んでいる。おおかた今回もその流れの上にあるものだろう」
“知識”Lv10000は重要だが、知りたいことをきちんと絞らないとうまく使えないこともある。その上で、やはり現職の王族に確認するのは重要だった。
「そもそも、エルフの土地に攻め込むことは世界的に見てどうなんだ?非難されうることなのか?」
「種族ごとの繋がりの差はどうしてもあるから、人間の国に理由なく攻め込むよりは風当たりは弱いだろうね。もともとエルフとの交流なんて、魔法関係者以外はあまりないと言ってもいいだろうから、関心を持たない国も多いんじゃないかな。もともとエルフの居住地である深森と接しているのはネルジランドだ。国境線を多少描き変えようが、他の国には迷惑がかからない」
「なるほどわかった。じゃあオートランドはネルジランドに宣戦布告しようか」
「化物とは会話が通じないというのはよく知られた事実かもしれないが、それにしても僕の話を聞いていたのかい?今でこそ貿易相手として互いに不可侵としているが、その均衡が崩れたらどうなるかわからない。両国ともに大国だ。君が支援してくれるのなら勝てるかもしれないが、勝てばいいってもんじゃないことくらい分からない頭じゃないだろう?オートランドとネルジランドが戦争を行えば、それだけで世界の情勢ががらりと変わる。何が起こるか分からない」
呆れたような顔で俺に考えを変えるよう説得するチャリーズ。
「しかしこのままではネルジランドに好き勝手させるだけだ。俺としては到底納得できるものじゃない」
「エルフの村が攻撃されようがどうなろうが、気にする人間ではないと思っていたのだけど君はそんなに情に厚かったかい?とにかく、ネルジランドに手を出すのは絶対に駄目だ、絶対だ。世界が滅茶苦茶になる」
「――わかったわかった、そんなに言うなら戦争はなしだ。でもエルフの村の様子をちょっと見て来るだけならいいだろう?他国の情勢を調べるのは我が国にとっても損はない」
「――様子を見て来るだけなら、まあ悪い案だとは思わないが……」
「ようし決まりだ」
そう言って、俺は移動魔法を使った。
一時間後。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
「……どっかで見たこともあるような気がするけど、一応聞いておこう。この人は誰?」
「ネルジランドの第三王子にして、今回の軍事行動の最高責任者である、バカス王子だな」
「そのバカス王子が、どうしてオートランドの宮殿にある僕の部屋で土下座して泣いているんだろうか」
「……ついつい、エルフの村で傲慢そうな態度のこいつを見たらボコりたくなりまして」
「ネルジランドに手を出したら国際情勢がハチャメチャになるから絶対手を出すなと言っただろうがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
チャリーズの悲鳴が、宮殿中に響いた。
 




