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第43話 帰り道、そして

 “本物の王女”の行方はあっさりと分かった。

 俺の力を目の当たりにしたジークに、正直に話さなければ“洗脳”を使うぞと脅しをかければすぐに白状したからだ。“洗脳”の恐ろしさを誰よりも知っているだけに、自分よりも強い“洗脳”の力を持っているように見える俺に対して心を屈してしまったのである。

 で、本物の王女の正体だが、シュリと似た年齢であり、エルドゥの策略により能力を伸ばされていなかったものの、ポテンシャルは大きなものを秘めていた少女――すなわち、ずっとシュリの警護を務めていた、フィスこそが正真正銘のシュリバーサ王女だった。

 ジークは、俺の命令に従って彼女にかけた“洗脳”を解いた。元々入れ替わりがあったのが非常に幼い頃だったという理由もあって、王女の記憶はさほど彼女の人格を変更しなかったが、王族の最後の生き残りであるという責任感から、即位することに同意した。今度こそ、グフリーマンが腹心として末永く仕えるはずである。流石にあんなことがあった後なので、次の即位の儀をすぐに行うことはできず、俺とシュリは既に馬車の上でオートランドに向けて歩みを進めていた。ちなみに、権利がないにも関わらず王位を継ごうとした立場になったシュリだが、状況を鑑みてお咎めなしとなった。


「結局、商売に行っただけになっちゃったね」


 隣でシュリがぽつりと言う。当初の目的となったイルタニャとの交易ルート開拓については、今回の活躍と迷惑をかけた侘びとしてグフリーマンと大幅にいい条件で契約を結ぶことができた。


「――王女になれなかったのは、残念だったか?」

「――よくわかんないな。結局どこまでがお父さんの洗脳なのか、自分では判断つかないところもあるし。あんまり考えすぎると精神が疲れそうだから、考えないようにしてる」


 でも――とシュリは言葉を続ける。


「イルタニャで出会った人達は、グフリーマンさんやシュリバーサ殿下みたいに、いい人もいっぱいいたから、あの国が故郷だったのはよかったな、と思う」

「そうか――なら、交易ルートも開拓できたことだし、これからもちょくちょく行ってもらおうかな」

「ふふ、ありがと」


 シュリは嬉しそうに笑った。

 つられて俺も、にやりと笑う。

 



 ――このときはまだ気付いていなかった。

 俺が力を使うハードルを下げているということに。勿論、今回も我慢はした。しかし最後には力を、大勢に見られる環境で使ってしまっている。

 それは油断と言ってもいいかもしれない。あるいは、圧倒的な力を振るう快感に酔いしれたか。いずれにせよ――俺は自分の中の、緩みのようなものに気づいていなかった――









(ふわわわわわっ、大変ですよ大変ですよ、まさか魔導学院図書館の奥で埃を被っていたような本に書いていたことが本当に起こるなんてっ!!)


 メヒーシカは動悸を抑えられなかった。

 高い魔力を用いて日々の生活の糧を得る職業――いわゆる魔法使いである彼女がイルタニャを訪れていたのは、ただの偶然だった。元々旅の好きな性分、どこの国でも“魔力”レベルが高い者には何かしらの仕事がある。勝手気ままにぶらりぶらと、様々な国を巡っていたなかでたまたまイルタニャに来、なんでもドラマチックな即位劇があるらしいと聞いては折角なので見学していこうと思ったところ、すわクーデターかと思うような争いが起こり――一人の“ゼラー”によって終結させられた。

 周囲の野次馬達は何が起こっているのか、最初から最後までわからなかったことだろう。彼らにとっては様々な異常事態が同時に起こったせいで、戦闘力のある“ゼラー”という存在の衝撃度が抑えられていたからだ。

 しかしメヒーシカにとっては違う。なぜならば、彼女が魔法の使い方を学んだ大陸最高峰の魔導学院――キリシカ魔導学院の、図書館にて。そのような現象の存在可能性を指摘した一文を、彼女はすでに読んでいたからだ。


『我々のステータスは、000から999までしか表示されない。勿論レベル999などという人間は古今東西聞いたこともないので、現実問題としては充分な表示桁数であると言うことができるだろう、しかし一方で、理論的にもしレベル999を上回る者が存在するとすれば、その人のレベルはどう表記されるのかと考えることが全く意味のないことであるとは言えない。なぜならば、そもそもこれまでに開発されてきた複合魔法というものは、様々な現象をなんとか魔法で起こしてみたいという想像力の現れだからだ。従って、魔法を使う者は、時に現実的でないと思われるような状況すら想像するほどの、高い想像力が求められる――』


 決して高い評価を受けた人間の著書ではなかった。むしろ、こういった眉唾みたいな内容の論文ばかり書いているような、魔法研究の異端児と呼べる人間だと言った方がいいかもしれないだろう。しかし、そんな人の文章でも貪るように読んでいたメヒーシカの博学が、ここで生かされた。


(もしも、もしもレベルが本当に999を越えている人ならば、それだけで災害ってレベルじゃありません!世界のルールが根本的に変わってしまうような存在です!そんな人が野放しになっているなんて、あまりにも危険。とりあえず情報を集めなくては……それならば、やっぱり――エルフの村でしょうか。あの人達、人間のことは毛嫌いしてますからあまり行きたくないんですけど……魔法の知識と力量はピカイチですし、背に腹は代えられませんよねぇ、はぁ……)


 そんなことを考えながら、彼女はエルフの住む土地――深森へと向かう。






 そしてその一方――オートランドでは一人のエルフがゼラード商会を訪れていた。

「ここに、城島ヒカルはっ……居られるか――?助成を――お願いしたい」

 彼女の名前はヤーシェハマン。

 城島ヒカルと因縁を持つ者である。

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