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第42話 計略

 例えば、身近な人間の思想をいじくり、反体制派に変えることができたとしよう。

 様々な人間に手を出し、国家をひっくり返すことができるまで勢力を拡大できるだろうか。答えは否である。思想信条はどうしても浮き出るし、勢力を得る前に警戒されて失敗に終わるのがオチだ。

 でも――もっと目立たない所で人を操ったらどうだろうか。

 例えば、王女の見え方(・・・)印象を徐々に変える(・・・・・・・・・)とか。人の見え方なんて他人とは共有しないし、そもそも見え方自体が日々変化するものだ。そこに人為的な悪意が紛れ込んだとしても、気付くことができるかと言えば難しいだろう。

 そして、“別の少女”が王女に見えるよう、認識を調整し、あるタイミングで“別の少女”と王女を入れ替える(・・・・・)。赤ん坊の入れ替えなら間違いが起こらないように注意されているだろうが、なまじ幼児くらいまで成長するとそこも甘くなる。四歳くらいに何か変化があったとエルドゥが言っていたので、そのときだろうか。そして、二人の記憶くらいなら、いじくることもできるだろう。“別の少女”の方は自分の手駒なのだから王女さえなんとかすればいい。

 だが、その後。誤算があったとすれば、元の王女が“ゼラー”であり、入れ替えに使った“別の少女”も“ゼラー”を用意しなければならなかったこと。そして、当時の教育係の陰謀で、“別の少女”はそのまま“ゼラー”として捨てられなければならなかったことか。

 自分の計画の歯車が狂い、王女の記憶を作った“別の少女”を追放する手続きに参加したときは、何とか抵抗したいと思ったことだろうし、それができなければ野望を諦めて隠居したくなっても不思議はない。だが……“ゼラー”として捨てられた“別の少女”は、生きて帰って来た。そして野望が再び芽生えたとしたら――記憶を戻すだけで、何も細工をしなくてもいい。細工自体は十年前に既に終わっている。そして少女に埋め込まれた計略が、今まさに花開いたと考えればいいのではないか。王女ではなく、入れ替わりの少女に――

 俺は、バルコニーに出る。

 儀式の手続きに外れてしまうが、もはやそんなことは言ってられない。

 シュリの前に進み出た。




「――シュリは(・・・・)あんたの娘か(・・・・・・)?」

「何を言ってるんだい。シュリバーサ様のお父上は、先王陛下に決まっているだろう」


 儀式に割り込んだ俺に対しても動揺しない。勝利を確信しているようなジーク。


「違う、それは入れ替わる前の王女の話だ。入れ替えに使う手駒はと考えたとき、自分の娘なら都合がいいだろうなと思った。即位すれば血を引いた者が王になるし、“洗脳”を幼い頃からずっとかけることができる」


 それを聞いて、ジークの目が少し丸くなった。


「少しは頭が回るようだね。この短時間でなかなか考えたものだ――だが、それまで」

「ヒカル、どいて」


 それが聞こえたと同時に背中を捻った。ぎりぎりでシュリが隠し持っていた短剣の攻撃を避ける。どうやらジークによって、王女と入れ替わる前の記憶を蘇らされたか。即位の儀がキーになって、記憶が蘇るように仕組まれていたのだろうか。

 ジークの駒として、生まれた時から洗脳されていた記憶。


「ははっ、彼女は本来私の人形だ!これまでも、そしてこれからも!!」


 ジークが笑う。


「――オートランドでは奴隷、ここでは人形だってのか!それでシュリが満足するって思ってるなら――本当かどうか、確かめてやる」


 俺はシュリの攻撃を受けながら、彼女に語りかけた。


「シュリ――お前は全ての記憶を取り戻した。だけど、今度は昔の記憶に引きずられている――だから、もう一度ちゃんとお前自身を選び取れ!」


 その瞬間、シュリの動きが止まる。

 レベル10000の、“洗脳”。

 本来ならば無条件に俺の味方をさせることもできたが、その手段は取らなかった。

 あくまでシュリに選ばせるために――彼女の中で二つの人格を争わせる。ジークの駒としての自分と、“ゼラー”として生きて来た自分。二人の自分が今、彼女の中で戦っている。


「――な、“洗脳”か?馬鹿な、“ゼラー”のくせに!」


 ジークが驚きの声を上げている。

 固まったように止まっていたシュリの体から――やがて、ふっと力が抜けた。


「ヒカル――選ばせてくれて、ありがとう」


 彼女は柔らかく微笑んで――短剣を懐に仕舞い込んだ。


「何をしている!お前だって玉座を望んでいただろう!」

「確かに――そうだったかもしれない。けれど、お父さん。子供はいつまでも、親の言う通りになんてならないんだよ」


 結局は、ただの親離れなのかもしれない。あまりにも歪んだ形だけど、まともなことなんて一つもないけれど、最後に辿り着いたのは、親が子供に押し付けた幻想を、子供が自らの手によって否定する――どうしようもないほどによくある、親離れだった。


「――ならば最後の手段だ!お前たち、行けっ!」


 シュリと似たような歳の男女が、その中の一人の魔法によってバルコニーに飛び込んでくる。他にも様々な能力の使い手がいた。


「王女が“ゼラー”だった場合以外のことも勿論考えていた!入れ替わり前と後でステータスが違うと困るから、様々な能力を伸ばした替え玉候補を大量に用意しておいたのさ!私の能力を使えば女には困らなかったからな!お前たち、行け!」


 衆人監視の下、武力でのクーデターをしても最後は“洗脳”で押し切れると思っているのだろうか。だとしたら、あまりにも愚か過ぎる。すでに、当初は自重していた兵士達もジークが敵だと理解しだしているし、もはや彼の計画は破綻していると言っていいだろう――

 つまり、もはや俺が力を使おうが使うまいが、結果がほとんど変わらない状態にまでなっているということである。




 なら使おう。遠慮なく。

 そして戦いは一瞬で終わった。

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