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第41話 即位の儀

 血筋が途絶えたとされていたイルタニャ王家に、隠し子が生き残っていたというニュースは瞬く間に国中へと広がった。また、これを機にエルドゥ宰相は一線を退き、若い世代に後を託すという情報もさほど違和感なく受け入れられた。そして本来ならば一年単位で準備が進められるところ、権力の空白を生みださないために慌ただしく即位の儀の準備が執り行われ、遂にその日を迎えていた。


「うう……緊張する……」

「立派に女王陛下だって、気にするな」


 元は“ゼラー”の少女と思えないほど、最高級のドレスを身にまとったシュリは堂々としたものだった。


「シュリバーサ様、お時間です」


 グフリーマンが呼びに来る。彼の王家に対する忠誠心は信頼できると思ったので、俺達は彼にだけは事の真相を説明していた。勿論裏切って宰相の側につくこともなく、今後はシュリの片腕として働くことになるだろう。

 いよいよ即位の儀のメイン、戴冠式が始まろうとしていた。イルタニャでは譲位ではない場合、新王は自らの片腕たる人物を指名し、その者から冠を被せてもらうことで民の信頼を得た証とすることになっていた。

 シュリは凛と宮殿のバルコニーに出、集まった国民に顔を見せる。俺やフィス、グフリーマン達を従えて。


「この国は――我が父祖が長きに渡り、その礎となって参りました。ひとえに皆様からの信を得ることができたが故の話であります。私もまた、本来ならばその流れを引き継がねばなりませんでした。しかし、私の不徳の致すところ、皆様から信を得られるような人間になることができず――一度はその立場を失ってしまいました」


 歴代の王が即位したときの演説を元に、自ら考えた言葉を紡ぐシュリ。本来ならば彼女が責を負うべきことは少ない。しかしシュリは全てを自分のものとして受け入れることを選んだ。


「長く、辛い旅がありました。しかし、私は旅の終わりに、再びここに戻って来ました。そして問いたい。皆は私を受け入れてくれるのかと。もしも私を王と呼んでくれるのならば――」


 このあたりはオリジナリティも何もない。イルタニャの戴冠式の決め文句であり“○○を民の代表とし、私に冠を授けてください”と続いて戴冠である。同時に王の第一の側近を内外にはっきりと示すことのできる方法だ。控えるグフリーマンが緊張で喉を鳴らすのが、こちらまで聞こえてきた。




「ジークを民の代表とし、私に冠を授けてください」




「あれれ、僕が呼ばれるとは、意外だねぇ」


 バルコニーの下、集まる群衆の中から、一人の男が浮き上がって来た。

 魔法か。本人の魔力はさほど高くなかったはずなので、ならば協力者がいたのだろうか。

 ――いや、そんなことはどうでもいい。なぜ、グフリーマンではなく、ジークが呼ばれたのか、そっちの方が問題だ。

 シュリの方を見る。彼女は小声で答えた。


「――やっぱり、彼の“洗脳”は大事。私達は彼を抑えておかなくてはならない」


 理屈が通っているようでバラバラだ。それならそうと最初から相談しておいてくれればいい話。今急に彼を側近にする理屈はない。

 グフリーマンは衝撃を受けたような顔をしているが、抗議する様子はない。彼の忠誠心からだろうが、この場合はそれも仇となる可能性があった。


「シュリ――落ち着け、なんなら俺がひと騒ぎ起こして式を中断してもいい、いったん落ち着こう」

「必要ない。私はもう決めてるの」


 そして俺達から視線をそらし、バルコニーに着地したジークと視線を合わせた。

 まずい。このままでは何がなんだか分からないうちに式が終わってしまう。

 落ち着け。一体何が起こっている。こんな状況になる原因は何だ。きっかけは何だ。ジークが何かした?しかしシュリの記憶を戻した際には、何もおかしな真似はしていなかった――いや、待て。それは正しくても、ジークには本当に手を出す手段がないのか?

 例えば、まだシュリが子供だった頃とか――

 何か、スイッチが入った。

 俺の思考が様々な可能性を挙げては潰す。様々な場合分けをして、同時にそれらを否定していく。

 もっと、もっと考えろ。例えば、“洗脳”高レベル者が、権力を本気で臨んだらどうなる――チャリーズは言っていた。“普通は洗脳に時間がかかるし、対象となる人数も限られている。無理としたものだろう”、と。しかしこれは国家全員を洗脳するという力技を用いた場合の話。もっとシンプルに、誰にも気付かれにくい方法があったとしたら――?

 そこまで考えて、俺は一つの可能性に辿り着いた。

 それが答えだと確証のあるような仮説ではない。

 しかし否定することもまたできない仮説。

 狡猾で慎重な“洗脳”使いなら、取り得る手段――


「シュリは――真の王女と入れ替わってる?」


 俺の小さな呟きが聞こえたのか、ジークがにやりと笑った。

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