第35話 イルタニャ
結局、十五名ほどの盗賊の内、半数は襲撃の際に命を落とし、残りはだいたい捕らえることができた。僅かながら逃げた者もいるというが、気にすることはないだろう。幸いなことに、こちら側には命を落とした者も重傷を負った者もおらず、せいぜいがかすり傷程度だった。
捕らえた盗賊は次の街で門番に引き渡す。死罪か奴隷に落とされるあたりが一般的とのことだった。
その先は更に慎重になりつつも、あまりゆっくりとした移動速度にはならず、イルタニャの城壁が見えたのはオートランドを出てから予定通りの日数が経ったときだった。
この世界では首都の名前と国の名前が一致することが多い。オートランドの街はオートランド王国の首都であり、今目にしているイルタニャの街は、イルタニャ王国の首都となる。また、自国のことはいちいち“オートランド王国”とか“イルタニャ王国”などと言わず、単に“王国”と言うのが一般的だった。
それはともかく、イルタニャ王国である。風通しのよさそうな家の造りは、ここが南国であることを強く印象付けた。勿論、気温もオートランドにいたころより大分暖かくなっている。言葉も、オートランドで話されるものとは全く異なっていた。
「シュリ、ここの言葉は聞き取れるか?」
「うん、だいたいは……でも、なんだか変な感じ」
やはりシュリはイルタニャに住んでいたことがあったのだろうか。俺達はそのまま、当面の宿となる建物に案内されていった。
「本来ならば宮殿に部屋を取ることもできるのですが……かえってご迷惑かと思いまして、こちらに宿を取りました。イルタニャの中でも信頼できる宿ですので、どうかご安心ください」
「ありがとうございます。あくまで商売で来ているので、それで構いません。むしろこのような安全な宿の手配、心より感謝いたします」
「それでは私はいったん宮殿に報告へ向かいます。腕の立つ者を置いておきますのでご心配なきよう。また、男ばかりでは不自由な点も多いでしょうから、女性の用心棒も連れて参ります。要らないと思われるかもしれませんが、シュリ様は立場が知られたらどこからか狙われぬとも限りません、ここはどうか受け入れていただきたい」
「わかりました。ご配慮感謝いたします」
シュリとグフリーマンはそう話し合って別れた。
「それじゃあ、俺も隣の部屋にいるから、何かあったら呼んでくれよ」
「うん、わかった。ありがとう」
俺もシュリにそう声をかけ、自室に移動する。今はとりあえずやることはない。今後の方針については既に馬車の中でタイミングを見計らって話している。なのでグフリーマンが戻って来るまではのんびりすることにしよう。
その日の夕方に、グフリーマンは戻って来た。約束通り、女性を一人連れて来ている。歳はまだ若く、シュリと同じ程のように見えたが、剣術、短剣術、格闘術などどれもLv015前後だ。下手したらこの国で最強の女性かもしれない。
「フィスです。よろしくお願いいたします」
用心棒の彼女はそう言って頭を下げた。
「身の回りの世話はかえってご迷惑だと話しておきましたので、出しゃばることはないと思います。有事の際のみ、彼女に守られるように行動してください。また、彼女はあくまでシュリ様を優先して守るように行動します。ご理解ください」
「結構。自分の身が心配になればこちらで別の用心棒を雇うよ」
まあ、そんな必要はないんだが一応そう答えておく。
「それでは、私は家臣寮に行きます。何かございましたら使いをいただければすぐに駆けつけますゆえ」
「グフリーマンさん、あくまで今回の俺達の主題は、交易路の確保だ。だが盗賊に襲われたときの恩もあるし、シュリの件も何もなしで帰るつもりはない。まずは、彼女が捨てられた頃のことを詳しく知る人物と会いに行きたいんだが、誰か紹介してくれないか」
「それはありがとうございます。シュリ様もそれでよろしいですか?」
「構いません」
「ならば、まずはシュリ様の教育係だったエルドゥ宰相と会っていただくのはいかがでしょうか?多忙な方ですが、先程シュリ様発見の報を申し上げた時も喜んでおりましたし、時間を作ることは可能だと思います」
意外な所でいきなりラスボスっぽい相手が出てきた。それにしてもシュリの教育係だったとは……いよいよもって不穏な気配が漂って来た。
「そうですか……ではよろしくお願いします」
「かしこまりました、明日か、明後日には会っていただけると思います」




