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番外6 王子と不死者(上)

毎日投稿一カ月達成記念短編第六弾です!

この短編のみ上下構成となります!

 ――ずっと、ずっと退屈だった。

 始めて、それ(・・)に気づいたのは、この世界ができてから何万年経ったあとのことだったか。やることもなくなり、戯れにひたすら“剣術”のレベルを上げ続けていた。100が200になり、200が500になり……やがて999になったレベルは、もう上がることはないかと思われた。

 それでも、レベル上げに挑戦した。退屈だったから。

 そもそも998から999に上げるためにすら、何年間もかかった。ならば、999の“次”があるとして、そこに至るまでにはどのくらいの日数がかかるのか……皆目見当がつかなかった。それでも、退屈だったから。挑戦を続けた。そして――ある日。

 ステータスウィンドウを見たら、“剣術”Lv000と書かれていた。

 わけがわからなかった。しかし、試してみたところ、剣術の技は以前と同じ……いや、もしかしたら以前よりも上達していた。Lv000にも関わらず。だから、彼は一つの仮説を立てた。Lv999を更に越えると、表示上はLv000となる最強の力を手に入れるのではないか――と。

 他のステータスでも有効か、試してみないと始まらない――ならば、やってみよう。時間だけは幸いなことに腐るほどある。何千年かぶりに、彼は“退屈”以外の感情が芽生えるのを感じた。

 そして、彼はレベル上げを続けた。最初は“剣術”と同様、すでに高いレベルを持っていた“短剣術”。それでも百年以上かかったが、“剣術”と同じくLv999から更に成長させるとLv000になった。

 じゃあ“魔力”はどうだ。

 “声楽”なんてのも上げられるのか。

 長い、長い時間をかけて少しずつ、少しずつ彼のレベルは上がっていった。そしてそれぞれ、Lv999を通り越して000に戻ると、また別のレベル上げに挑戦していった……


 そんななか、退屈だと思っていた世界にも変化が現れた。人間も、エルフもドワーフも始めは家族とか、小さな集団でしか生活していなかったのにやがてそれぞれが集まって大きな集団を作り、あるいはそれぞれの集団が活発に交流するようになった。レベル上げをしている合間に、そういったところの様子も見に行った。

 面白いのは、王侯貴族と呼ばれる人達だった。最初、彼らと交流したときには、そのレベルの高さから非常に歓待された。しかし、レベル上げを極め、全てのレベルが000に戻って来る頃には――王侯貴族たちが彼を見る目は蔑んだ冷たいものになっていた。

 その程度で心に傷を負うほど若くはないが、その反応は少なからず彼を白けさせた。立派な服を着、冠を被って人々を引き連れている彼らも、所詮はそんな程度の者かと感じた。やはり、世界というものは進歩したところで、退屈なのかもしれない。そんなことを思った彼は、やはり自分もそろそろ終わりにしてもいいかという気分になってきた。なので、彼は最後の旅に出ることにした。しばらく人やエルフのいる土地ばかり過ごしていたし、邪竜や魔族のいる魔の土地も回って、そこでもやはり退屈だったら――そう思いながら出た旅の先で、彼は運命的な出会いをすることになる。




 大陸を北に上ると、チリペという村がある。その先には邪竜が出、更に北に行けば魔族という、人間やエルフ達とは根本的に異なる種族が住んでいるということだ。そんな触れこみの村には、流れ者の冒険者達がよく集まって来る。理由はこの地でしか取れない薬草、プルリ草を集め、都市で売りさばくことだ。少しでも山に分け入れば低級な魔物、場合によっては邪竜が出るというこの土地で、薬草を採取するという行為は危険なことであり、入山希望者はこの村で一度情報収集やパーティ編成などを行ってから山に入るのが決まりになっていた。


「おうい、お前“ゼラー”だろ、こんな所で何やってるんだよ、まさか、プルリ草を採りに来たわけじゃねぇだろうな!」

「がははっそりゃあ自殺行為ってもんよ、兄ちゃんやめとけやめとけ、そんなのは俺達みたいなステータスがねえと無理だっちゅーの」

「魔導石でも持ってるのかもしれんが、そんな弱い魔法じゃ怪我するって」


 酒場で絡まれる。実際には薬草採取どころか、常人には立ち入れない山の向こうへ行こうとしているのだが、今はそんな話をするようなところではない。所詮いくつかのレベルが010だか015程度の雑魚達だ。無視するのが一番いいだろう。


「――けっ、“ゼラー”の癖に澄ましやがって。おおい、もっと酒持ってこい!!」


 冒険者たちのからかいに動じないとみると、彼らは自分達で盛り上がることにしたようだった。向こうも一仕事する前に気分を高めようとしているのだ、下手に白けるようなことはしないだろう。そのまま、独りで酒を飲み続けようとしたときに、再び声をかけられた。


「――ねえ君、もしよかったら僕と一緒にプルリ草を採らないか?」


 驚愕したのは言うまでもない。“ゼラー”に見える自分をプルリ草採りのパートナーに選ぶとは、一体どんな物好きか。顔を上げた視線に映るのは、粗野に見えるがどこか育ちの良さを感じさせる青年だった。ステータスウィンドウを見てみても、飛び抜けたものはないが多くのステータスでレベルがついており、幼少期から様々なことに挑戦させられた育ちの良さが伺える。


「――いったい何の酔狂だ、私をパーティに誘うなど」

「君が有能そうな人物に見えたから、それ以外に理由はない」

「ふむ、私のステータスウィンドウを見て、なおそう言うのか」

「そんなもの、僕は信じていないんだ」


 そう言って青年は傲慢に笑った。


「神か悪魔かしらないが、そのステータスウィンドウで表されるレベルってのは、それ(・・)が決めた基準であって、()が決めた基準じゃない。他人にこの人は素晴らしい人間ですよとかあいつは駄目な人間だって言われても普通は疑うのに、それがステータスウィンドウであるなら何の疑念も抱かず信頼するというのは、実に愚かなことだと思うね。それよりも僕は僕自身が人を見て、その上で選びたい。先程から観察させてもらったけど、君は荒くれ者どもに絡まれても動じていない強い精神の持ち主だ。それに態度の節々から自信を匂わせている。たかがレベルが少し高いだけで調子に乗っているあいつらなんかより、僕にとってはよっぽど信頼に値するように見えた、それだけさ」


 青年の言葉は、彼にとって新鮮で興味深いものだった――王族からも、貴族からも、軍人からも、庶民からも言われたことのないその言葉は、少なくとも、この世界をもう少し生きてみようと思わせるには充分だった。

 なので、予定を変更する。山を抜けるのは、別の機会にもできるだろう。今はこの興味深い青年と、薬草取りに興じた方が面白そうだった。


「――よし、私でいいのなら貴方とパートナーになろう」

「本当かい!それは心強い!」


 “ゼラー”に見える自分に対して、素でこんなことが言えるのだからどこかおかしいのか、本当に偉大な人間なのか。いずれにせよ、随分面白い人間であることは間違いないようだった。


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