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番外5 ゼラード商会の出張

毎日投稿一カ月達成記念短編第五弾です!

「初めまして!オートランドの、ゼラード商会です!」


 元気よく挨拶したのはジャイコス。ヒカルによって“ゼラー”から“交渉”Lv010へと成長させられた青年。その後ろには、ダイソン、レガス、アルリーの三人もいる。それぞれやはり、“声楽”、“格闘術”、“裁縫”をLv010にまで上げられたかつてのデウリス商会の仲間たちだ。今やゼラード商会の幹部となった四人が、揃って訪れているのはオートランドから比較的近くにある城塞都市、エルトランド。この街で新たな商機を探すため、彼ら四人はゼラード商会から派遣されていた。

 “算術”Lv010のミエラや、“経営術”Lv010のドマスはさすがにオートランドの、いわば本社から離れられない。“交渉”のジャイコスを筆頭に、人生経験の長いレガスとアルリー、あとは経験を稼ぐためにダイソンを加えた四人での旅は、今後どこまで戦力を分散させることができるかの試金石でもあった。




「ふむ……なるほど、結果としましてはここで衣料品を安くしていただければ……」

「そうなると香辛料の問題が……なるほど、その料金設定では上手くいくのですね?確認を取っても?」

「どうぞどうぞ」


 結果は、思ったよりも順調に商談をまとめることができた。確かに“算術”のレベルが高いミエラがいないのは金額等の計算に痛手だが、大きな街では自身の技能を売る人間もいる。雇えたのはミリーという名のレベル005程度の者だったが、今回の交渉には充分だった。


「それでは、今後ともよいお付き合いを」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」


 互いに挨拶を交わし、ゼラード商会の面々は商売相手の所を出る。自然と、笑みがこぼれた。


「うまくいったねぇ」


 アルリーが満足そうに言う。


「ああ、充分な結果だ!」


 つられて、ジャイコスも嬉しそうに笑った。手に持った鞄を振る。


「契約書もこの通り――おあっ!」


 いきなり足を蹴られて、バランスを崩す。その彼から、鞄をひったくる小さな手があった。


「へへっ、も~らいっと!」


 まだ年端もいかない子供だろうか、そのまま路地裏に逃げようとする。


「レガス!捕まえて!」

「わかっとるわい!」


 仲間の中で最高齢の老人が少年に追いすがる。その俊敏な動きに、逃げ切れないと悟るや少年はレガスを蹴り飛ばそうとした。

 だが、しっかりその足をレガスは組み止める。バランスを崩した少年を、そのまま地面に抑え込んだ。


「――ちっ、爺さん、“格闘術”Lv010かよ」


 少年が悔しそうに呟く。どうやら、急いでひったくろうとしたため全員のステータスを確認しきれなかったらしい。見た目には身長の高いダイソンの方がボディーガードに見えるので油断したのか。


「そういうお主は“ゼラー”、か。盗みなんぞやって……」

「うるせえ!レベルの高いあんたらにはわかんねーかもしれないけど、俺にはこうするしか生きる道はないんだよ!!」


 その言い方に、皆少し複雑な顔をした。




「この少年、このまま兵士に届けたらどうなりますか?」


ジャイコスは、“算術”の助っ人を頼んだこの街の女、ミリーに尋ねる。


「盗人で、“ゼラー”ですからね……使い道もないし、死罪が妥当でしょう」


 それを聞いて、ゼラード商会の面々は重苦しい顔になった。

 確かに、彼が盗みに成功していては自分達の受けた損害は計り知れない。死をもって償うという意味も分からないではなかったが、目の前にいる少年が“ゼラー”であるという事実が彼らの心を揺さぶる。


「けっ、とっとと殺せ!俺にはこうするしかなかったんだ!」

「――そんなことは、ない」


 わめく少年に、今まで無言を貫いていたダイソンが声をかける。“声楽”Lv010なだけあって、とても重厚な声だ。


「――“ゼラー”であっても……例え奴隷のような生活を強いられていても……それでも、犯罪には手を染めず、誇り高く生きる者もいる」

「うるせぇ!Lv010が知ったように語るな!」

「語るさ――俺達も、ついこの間まで“ゼラー”だったんだからな」

「――もう少しましなこと言えねえのかよ!自分が何言ってるかわかってんのか?Lv010野郎!」




 二人はそのまま、しばらく睨みあった。

 やがて――少年の瞳から涙がこぼれる。


「ああ――畜生!もういいよ、こんな人生!とっととおさらばして、あんた達みたいな奴に生まれ変わってやる!!」


 それを聞いて、ジャイコスが少し口の端を上げた。


「本当に生まれ変わりたいのなら……死ななくてもいいかもしれないぞ」


 何を言っているんだ、という目で見てくる少年を無視して、ジャイコスはミリーに向き合う。


「もしも、我々が盗みなどなかった!と言い張れば、この少年はどうなりますか?」

「――罪に問われることはないでしょう」

「では、彼を我々の街に連れて行くことはできますか?」

「“ゼラー”が入ってくることは厳しく管理されますが、出て行く“ゼラー”を気にする者などいないでしょうね」


 なるほど、とジャイコスは満足げに頷く。

 仲間の三人の顔をぐるりと見回した。皆、ジャイコスが考えたことを肯定するように、頷く。最後にジャイコスは、少年と向き合った。


「さあ、少年、交渉の時間だ。――死罪になるか、我々と一緒に来るか、好きな方を選べ」




 数日後、ゼラード商会に、一人の見習が加わった。


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