番外2 ミルルルと昔話
毎日投稿一カ月達成記念短編第二弾です!
「おじいちゃん!!今日も稽古で一番だったよー!」
ミルルルは大好きな祖父のもとへ駆け寄った。
ドワーフの中でも指導的な立場の位置にいるダリレルは、ミルルルの祖父である。小柄な体に引き締まった筋肉と様々な力を秘めた長老は、多くのドワーフ達から尊敬のまなざしで見られていた。
「そうかそうか、ミルルルは強いのお」
厳しい指導者も孫には甘い、ニコニコとミルルルの頭を撫でた。だが、ミルルルの次の言葉にその手が止まる。
「まあ、み~んなボクよりレベルが低いんだから、しょうがないんだけどねっ」
少しダリレルは思案するような表情をしたあと、言い聞かせるように口を開いた。
「ミルルルや、レベルは確かに強さを判断するよい指標じゃ。しかし、それだけに頼るのはやめなさい。世の中にはまだまだ、ワシらによく分からぬこともあるのじゃ」
「え~?何が言いたいの、おじいちゃん?」
ダリレルは困ったような顔をする。だが、孫のためと思ってかやがて重い口を開いた。
「――ワシは、“ゼラー”に負けたことがある」
「ええっ~!嘘でしょ!?」
ダリレルは“剣術”Lv020。他にも戦闘系のステータスが何種類も高いレベルで、“ゼラー”に後れを取ることなどどう考えてもありえない。
「嘘など吐かん。あれはまだワシが若い頃じゃった――ワシは、とある鉱山に目を付け、そこで少人数の仲間と伴に採掘をしておったのじゃ――そこに、ヤツは来た」
ダリレルはそこで少し、ぶるりと震えた。歴戦の名戦士が、まるでお化けに怯える幼子のように。
「まるで、幽霊のような男じゃった……存在感がないのに、それでいてすさまじい圧力を放って来るような、変な男じゃった」
苦しそうな顔をしながら、ダリレルは記憶を辿る。
「そいつは“ゼラー”だった。ワシはなぜ“ゼラー”がこんなところにいるのかと尋ねた。ひょっとしたら仕事を探しに来たのかもしれんと思ったのでな。“ゼラー”に任せる仕事などない、とっとと帰れと言ったのじゃ。しかし――ヤツはワシらのことなんぞ、まるで歯牙にもかけなかった。『やれやれ、久し振りにドワーフに会ってみようかと思ったが、やっぱりこいつらも何も変わってはおらぬ。人やエルフと同様、退屈な奴らよの』じゃったか――正確な言葉は忘れたし、思い出しとうもない。とにかく、何かそんな風に挑発的なことを言いよったのじゃ。流石にワシらも頭に来ての、ただでさえ血気盛んな若いドワーフ達が、そんなことを言われて黙って返すわけもない。ワシらはヤツを取り囲んだ」
ダリレルの口調には熱が籠ってきた。ミルルルはただ、黙って祖父の話を聞いている。
「殺す気まではなかった、適当に痛めつけて解放してやるつもりじゃった――しかし、立場が逆じゃったのだと、すぐに思い知らされた。ワシはその時からすでに今のレベルに達しておったし、他の者どもも戦闘系のステータスなら何かしらの分野で高いレベルを持っておる者たちじゃった。どう考えても、“ゼラー”など相手にならん――それが、数瞬で全滅したのじゃ。全員生きてはいたが、それは相手に情けをかけられただけのことじゃと、そこにいた皆が理解した。なぜなら、誰も相手に何をされたかすら見抜けなかったからじゃ。あまりにも速く、あまりにも正確な攻撃がワシらを襲って、気がついた頃には“ゼラー”の姿はなかった」
またダリレルはぶるりと震えた。まるで今さっき起こったばかりのできごとであるかのように、全身から鳥肌が立っていた。
「それでワシらは、“ゼラー”に負けたなどとあっては恥になる、お互い、このことは誰にも言わないでおこうと約束し合った。その誓いを破ってまで、ミルルル、お主にこの話をしたのはお主がステータスウィンドウのレベルを重視しすぎるように思えたからじゃ。よいな、ステータスウィンドウに示されている内容は、それだけが全てではない、ゆめゆめ忘れるではないぞ」
「はあい、おじいちゃん」
ミルルルは素直に頷いた。それを見て、ダリレルは満足げに頷く。
だが、彼女の内心は別のことを考えていた。
(おじいちゃんってば、まだボクがおとぎ話で騙せる年齢だと思ってるんだから……しょうがないなあ、もう。もっと頑張って、早くちゃんとした大人なんだって認めてもらわないと!)
もしも彼女がもう少し祖父の言うことを素直に聞き入れていたら、彼女の未来はまた違っていたかもしれない。しかし残念ながら――彼女がこの話を思い出したのは、彼女が祖父と同様の体験をした後だった。




