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番外1 小説家になるぜっ!

 毎日投稿一カ月達成記念短編第一弾です!

「城島ああああああああああああああああああああああああああああああっ!俺のバイト生活を何とかしてくれえええええええええええええええええええええええええええっ!」


 悲痛な叫び声と伴にヒカルのもとを訪れたのは加賀通直。ヒカルの高校時代の友人であり、彼が“ブラックバイトクラッシャー”であることも知る人間だ。そんな人間が形相を変えてヒカルのもとへを訪れたのだから、すわどんなブラックバイトかと身構える――相手が、加賀でなければ。


「加賀、落ちつけ。とりあえず話を聞こう。お前が今やっているバイトは、ブラックバイトなのか?」


 半泣きでやってきた加賀はそれを聞き、しばし硬直する。そして目線を上にやったり下にやったり、腕を組んだり首を傾げたりしてしばらく考えた挙句――


「別に、ブラックバイトじゃないな」

「帰れ加賀」


 ヒカルは冷たく宣言した。

 加賀は身長百九十センチを超え、筋肉質の立派な体つきをしている。しかし性格面でもよく言えば豪快、悪く言えば単純すぎる性格をしていて、しばしばヒカルを呆れさせていた。


「いや帰れって、俺達親友だろう!?」

「親友だろうが宿敵だろうが、ブラックではないバイトをどうにかするほど俺も暇じゃない。それに、折角“ブラックバイトクラッシャー”の名前が有名になってきたのに、ブラックでないバイトにも手を出したなんて知られたら台無しだ」

「でも別に今やっているバイトを崩壊させてくれって言いたいわけじゃないんだ、ただあまりにもうまくいってなくて……」


 やれやれ、とヒカルは肩をすくめた。


「それで、加賀は今いったいどんなバイトをしているんだ?」

「――ヒカルゥゥッ!」

「勘違いするな、まずは聞くだけだ。それからのことはまたそこで考える」

「あ、ああ……実は出版社のバイトなんだが――売れそうなネット小説を探すバイトなんだ」




 加賀が語ったのは、とある小説投稿サイトのことである。近年は人気を博したWeb小説が実際に書籍化することも珍しくなく、出版社は血眼になって売れそうなWeb小説を探していた。サイト上の評価などである程度は絞れるのだが、それでも量は膨大になるし、人間が読まずに決定するわけにもいかない。従ってバイトを雇い、特に面白い作品や、伸びが期待できる作品を探させているとのことだった。


「面白そうなバイトじゃないか。それの何が問題なんだ?」

「……俺が、傑作をひとつも見つけてないんだ」


 泣き出しそうな顔で加賀が言う。大男がそんな表情をするのだからギャップが愉快だが、加賀は真剣なのでヒカルとしては噴き出すわけにもいかない。


「いいと思った作品はもっと上の人に駄作だって切り捨てられるし、駄作だと思って上に上げなかった作品が他の出版社から書籍化されてヒットして怒られるし……」

 

 加賀は頭を抱えた。別に本を読まない男ではないが、思い返せばどんな本でもそれなりに楽しんで読む人間だったとヒカルは考える。作品の面白い面白くないを判定するのは難しいかもしれない。


「正直針のむしろと言うか、別に何か言われたわけでもないし理不尽な仕事を振られたわけでもないんだが……あまりにも居づらい。でもみんないい人たちだし辞めたくもない……というわけなんだ」

「それじゃあブラックどころかホワイトじゃないか。本来の俺の専門と違いすぎるぞ」

「分かってはいるが……ヒカルくらいしかこんな相談はできないんだよ。自分でいい小説を見つけられないのだからどうしよもないんだが……そこを何とか!アドバイスだけでもいい、ヒカルみたいな変な人生経験を歩んでいる奴なら、いいアドバイスをくれるはずだ!」

「変な、は余計だな。しかし――加賀のその相談なら、何とかできなくはないかもしれない」

「ほ、本当か!!」

「ああ、一カ月か二カ月あれば十分だろう」


 身を乗り出してくる加賀を制し、ヒカルはそう言ってにやりと笑った。




 そして二カ月後。


「加賀君!君が見つけてくれた“異世界ブラックバイト~チートで粉砕悪質企業~”、書店で売り切れが続出らしい!早速重版も決まった!お手柄だな!」

「ははっ……ありがとうございます」


 普段は顔も見ないようなバイト先の上司の上司から、加賀は直々に褒められていた。しかしその笑顔はどこかぎこちない。


「それにしても作者のキャッスル=アイランド先生は気前がいいし優良だ。ほとんどの条件は二つ返事で引き受けてくれたし、作家がいい人だったことも踏まえてお手柄だよ」

「あ、ありがとうございます」

「君がなかなかいい作品を見つけておらず悩んでいたことは私も小耳に挟んでいた。会社としてはそういうことも踏まえて金を払っているのだが、本人としてはそれで気が楽になるというわけでもないだろうからな、心配していたがこれでもう問題はないだろう?これからも是非よろしく頼むよ」

「はい……どうもありがとうございました」




「やあ加賀、どうだい手柄になったかい?」

「なったけど、なんだか複雑な気分だな、お前どんだけすげえんだよ」


 加賀は苦笑しながらヒカルにそう言った。

 城は英語でキャッスル。島は英語でアイランド。

 キャッスル=アイランドは城島ヒカルのペンネームである。

 加賀から話を聞いたヒカルは、自分でWeb小説サイトに作品を投稿し、それが瞬く間に人気になって加賀の働いている出版社で書籍化されることになったのだった。


「昔趣味で書いて埋もれていた小説を光のある所に出せたのは加賀のおかげだ。その話を俺に持って来なかったらこうはなっていないんだから、そんなに微妙な顔をするなよ」

「いやあ、しかしほとんどお前のおかげだし、なんだかずるしたような気分になってなぁ……」

「そう思うなら最初から相談なんかに来なけりゃいいのに」


 ぽりぽりと頭をかく加賀に、ヒカルは少しだけ笑って言った。






「ヒカル、寝るなら布団に入らないと」

「そうよヒカル、風邪ひいちゃうわ」


 ヘルネとミエラの声ではっと眼が覚める。どうやら少しうとうととしてしまったようだ。

 元の世界のときの出来事を夢として見ていた。数少ない友人が出て来る夢だった。

 そこまで未練のある世界ではないし、だいたい元の世界では自分は死んでしまっている。生きたまま召喚されたわけでもないのだから、帰りたいなどと考えることはなかったが、それでも少し懐かしさは感じた。

 そういえば、俺のステータスには“語り部”Lv10000というのもある。小説を書いたときの夢を見て、ふと物語を作りたくなった。この“語り部”Lv10000を試してみるのもいい機会だろう。


「ヘルネ、ミエラ、少し物語を聞きたくないか?」

「ヒカルが話してくれるなら、何でも聞きたいわ!」

「私も、期待しちゃうね」


 二人の了承を得て、俺は即興で物語を語りだした。




 30分後。


「――はい、お終い」

 

 俺は物語を語り終えた。本当は続きものにしようかと思ったが途中で考えを改めた。

 ヤバい。

 ヤバすぎる。


「ビ、ビカルっだらごんな才能まで……」

「う゛う、なんていいお話なの……」


 目の前には号泣するヘルネとミエラ。俺自身、語っている最中は危なかった。“感情調整”Lv10000でなければ、物語を語り終えることはできなかっただろう。コミカルなシーンでは腹を抱えて笑いだしそうになったし、緊迫したシーンでは心臓が早鐘のように打ってしまった。そしてラストの感動シーンでは……ヤバい、思い出すだけで涙が出そうだ。自分で作っていてこれなのである。聞いている二人に対しては、これ以上話を続けるとどこかおかしくしてしまうのではないか、と思って急遽なんとか話をたたんだのだった。

 異世界にもWeb小説があれば、どうやら書籍化することができそうである。

 まぁ、ないんだけど。

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