第30話 王位
「ディフジァコローヮレンが負けたのか。そりゃもう駄目、お手上げだ。煮るなり焼くなり好きにしてくれ。兄上たちのように王位継承権も返上しよう」
ディフジァコローヮレンから黒幕を“尋問”Lv10000で聞き出し、俺は宮殿に単身乗り込んだ。それを出迎えたのはチャリーズ皇太子本人。デウリス商会の件で会って以来の出会いである。
チャリーズ皇太子は俺が部屋に忍び込んでも全く動じず、ただ両手を上げて降参の意を示した。
「随分物分かりがいいじゃないか、殿下」
「ディフジァコローヮレンが駄目だったのなら君には勝てない。僕は完璧主義なので君に勝てないなら王位にこだわっていても仕方ない。余計なことをして時間を潰すのが嫌いなだけだよ」
そう言ってそのまま肩をすくめる。
「とりあえず、ミエラを返してもらおうか――ここにいるはずだが」
「隣の部屋で寝ているよ。鍵は必要かい?」
「必要ない」
俺は壁を壊した。
「――ふにゃ、あれ、ヒカル?私――たしか変な人に……」
「心配ない。もう少し寝ていろ」
隣の部屋には豪華なベッドがあり、ミエラはそこで寝ていた。壁の破壊音で目覚めた彼女を、魔法で再び眠らせる。そのままチャリーズ王子に向き合った。
「確かに彼女の無事は確認した。あとは喧嘩の後始末だな」
「残念だが勝者に従おう。ディフジァコローヮレンは生きているなら返してくれると嬉しいが」
「生きてるし、俺には勝てないから後で返してやるよ。それから、王位継承権だが――あんたみたいな物分かりのいい奴に、そう簡単に王位継承権を返上されるのは困るな。だいたい、俺はへそ曲がりなんだ。返しますと言われると返すなと言いたくなるのさ――」
「ふふん、最初に君を見たときから随分興味深いとは思っていたが、その印象は間違っていなかったようだね。それで、王位継承権も返上しなくていいし、その口調なら僕は死ななくてもいいみたいだが――それでもお咎めなしってわけにはいかないんだろう?僕に何をさせたい?」
「むしろ王になってくれ」
俺の提案に、さしものチャリーズ皇太子もしばし沈黙した。
「ははっ!王になるために自分を殺そうとした相手に王になれと、いったいどんな冗談なのか全貌を聞かせてもらおうじゃないか」
「軍とか王位とかその辺の関係者が色々やって来るのがいい加減うっとうしくなった。どうせあんたを廃してもまた繰り上がりの皇太子やら王女やらが俺を狙いに来るか、取り込みに来るか――いずれにせよ、煩わしいことには変わりない。代わりに俺が王位を狙ってもいいが仕事が増えるのは面倒だ。だから――あんたが王になって、そしてこの国は俺の保護国になってもらう」
「保護国!一国が一個人の保護下に置かれるというのかい!?」
「ああそうだ。軍事とか外交とかで、面倒事を引き起こしそうな重要時のみ俺の決済がいることとする、後は今まで通りの国家運営をあんた主導でやってくれればいい。簡単だろう?」
「――ははっ!確かに簡単だが、そんな話聞いたこともない。それで、そこに至るにはまず第一関門として、僕が王にならないといけないのだけど、それはどうするつもりだい?」
「決まっているさ――平和的な交渉だ」
俺は玉座の間までにある壁を全てぶち抜いた。
「始めまして陛下。突然ですがチャリーズ皇太子殿下に王位を譲っていただけませんか?」
周囲の衛兵など気にしない。かかって来た者は適当に眠らせる。
興味があるのは、ただ玉座に座る国王のみ。
その国王だが、随分と顔色が悪かった。病気がちだと聞いていたが、噂は嘘ではないようだ。ぼんやりとした眼で、俺の方を見る。
「――なんじゃ、またチャリーズが変な“ゼラー”を手駒にしたのか」
「父上、心外です。流石に私もこんな化物と仲間だとは思われたくありません」
追いついて来たチャリーズが不服そうにいう。
「というかね、私はもっと華麗な手段で貴方から権力をいただこうと思っていたんですよ。それを彼が一瞬で台無しにしてくれましたけどね」
「ほっほっ、そうであったか。まあ、余もこんな状態じゃし、その“ゼラー”はどうやら近衛が束になっても敵わなさそうじゃな、言う通りにしてやってもよいが――それで不満を持つものもおろう」
「ちなみに、具体的には誰ですか?」
「新しく王位継承順第二位になった娘のリガサなど、前々から野心家じゃったからのぉ、王位継承順が大分繰り上がったから、随分やる気になっておるようじゃ」
「しばしお待ちを。説得してきます」
説得は三十分で終わった。
「はい……すみません……次の王にはチャリーズ兄上がなるのがいいと思います……すみません……すみません……私には女王の器なんてありませんでした……すみません……」
リガサ王女は目を虚ろにしてぶつぶつと独り言を呟いている。
「陛下、ご心配には及びません、リガサ殿下とは少しお話ししただけで御座いますので、一日寝れば治まりますことでしょう」
国王は何か言いたげにチャリーズの方を見た。
「――まあ、大丈夫でしょう、父上。もはや我々がというよりは、この国自体が彼に従うより他にはないのです――むしろ、守ってもらえることをメリットとして考えるべきでしょう」
国王は、やれやれと言わんばかりに肩を竦めた。
「お主のよきにはからえ、我が息子」
「おおい、起きろみんな、全て終わったぞ」
俺はディフジァコローヮレンと戦った場所に戻って来た。
ついて来た面々も、戦ったディフジァコローヮレンもそろって気絶している。チャリーズ皇太子――今やチャリーズ国王だが――との決着をつけることを最優先にしたため、置き去りにしていたのだった。
「……え?ヒカルの旦那……終わったって……?」
ドマスが不思議そうな顔をする。俺は後ろに立っているミエラを示した。
「ほら、ミエラも助けた。もう何も問題はない、商会に帰ろう」
他のみんなも意識を取り戻す。皆、まだぼんやりとしているが、俺の様子を見てもう問題はないと悟ったか、のろのろと動きだした。
「――ま、待て“ゼラー”、その女を手に入れているということは――貴様、チャリーズ殿下に」
「何もされていない。それどころか僕を国王にしてくれたよ、本当に変な奴だ」
一緒に連れて来たチャリーズがディフジァコローヮレンに告げる。それを聞いて、ディフジァコローヮレンも意識が覚醒したらしく、目に光が戻って来た。
「殿下――御無事でしたか。それにしても……」
何か言いたそうに俺を見るディフジァコローヮレン。
「何だよ、国王にさせたかったんじゃないのか、何の問題もないじゃないか」
「そのためにやって来たことは全て意味をなくされて――いや、いいだろう。お前のような化物に人間の道理が通じる訳もない」
「お前も人間じゃないだろうが」
「だからこそ、人間の王位に関して人間の道理に従ってみたのに、土壇場で全てひっくり返されたから不愉快なのだ」
そう言って、ディフジァコローヮレンは溜息を吐いた。
「それじゃあ、契約は完了だ。個人と国家の契約でしかも国家の方が個人の保護下に入るなんてのは、今まで聞いたこともないから形式として正しいかは疑問が残るけど、まあ君にとっては些細な問題だろう。要は、形になるものがあればそれでいいはずだ」
「まあ、その通りだな。俺の周りに面倒な蠅が飛び回らなければそれでいい。俺はこっちからいろんな所に行ってぎゃふんと言わせるのが好みなんだ。受けに回るのは面倒で困る」
今日は戴冠式、チャリーズが正式に新国王として、前国王である父親から王位を譲り受ける儀式が行われた。ずっと国王陛下としか聞いていなかった前国王の名は、ユーフカスというらしい。譲位に手を貸してくれた感謝の意を込めて回復魔法で色々とガタのきていた部分を治したから、このままいけば百歳は余裕で越えられるだろう。悠々自適の生活を送ってもらいたいものだ。勿論、政治に口を出すようなことがあれば元の体に戻すと脅しをかけておくのは忘れなかった。
そして、式典の後はチャリーズと正式に保護国の契約を結んだ。これで外交や内政において、重要度の高い案件は俺の決済が必要になる。その代わり、それらの分野で重大な懸念事が生じた場合には俺が解決に当たって手助けをしなければいけない、という契約になった。契約自体は非公開であるが、特別な印章が渡され、俺の立場は王国内で保障されることになった。まあそんな保証はなくても問題ないのだが。
とにかく、これで俺の正式なこの世界での活動拠点が決まった。さらに世界の政治状況などの情報も簡単に手に入れることのできる立場になり、より効率よく面白い場所を探すこともできるようになるだろう。
「――何を考えているのか知らないが、心臓に悪い笑みだねえ。それがこっちに来ないことだけを祈るよ」
「心配ない。俺は謙虚な奴には優しいんだ」
「それでいて自分が謙虚じゃないのは人としてどうかと思うけどね」
「これでも本来の力から考えたら色々力を抜いてるんだよ、それを謙虚ってことにしといてくれ」
チャリーズと軽口を交わす。後ろに控えているディフジァコローヮレンは不機嫌そうな顔をしたが、何も言わなかった。
「それじゃあ、新国王陛下、善政を」
俺は会釈だけして、移動魔法を使った。
ゼラード商会へ帰ろう。
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