第2話 カンスト
イメージとしては高層ビルの集まる都会。ただし、それぞれの高層ビルが生き物である、ということを考えていただきたい。それが俺の今いる場所、“トナリ山脈のふもと”である。
黒々とした巨大なドラゴン、それが所狭しと並んでいた。その量は怪獣映画もびっくりの大サービスである。
「トナリ山脈のふもとは、この世界で最大の邪竜のすみかです。まずはここでチュートリアルといきましょう」
相変わらずマイペースな神様の声。しかし歯の一本一本が俺の背丈よりも大きい怪物たちを前にして、俺は興奮と震えが止まらなかった。
「こらこら城島さん、ファンタジー世界っぽいことしたかったんでしょ。まずは“ヘルファイヤ”って言ってみてください」
例によってわけのわからないまま、俺はその呪文を呟く。次の瞬間、
巨大な火柱が、目の前にいる一頭の邪竜を貫いた。
炭も残らず消し飛ぶ邪竜に、俺は理解が追いつかない。
「高位の炎魔法です。覚えておきましょうねー」
能天気な神様の声が相変わらず聞こえてくる。
「あ、あのえっと、あれ」
「ああ、殺しちゃっても大丈夫ですよ、神様が許します!あれは邪竜、悪魔とか魔王とか言われる人の管轄なんで!」
何やら神様の世界にも縄張りとかあるみたいだったが、俺はそれを気にしている暇はない。なぜなら、仲間を殺した仇を他の邪竜達が探し始めたからだ。
彼らにとってはあまりにも小さい存在である俺だが、紛れ込んだ異物であることは違いなく遂に一頭の邪竜に発見されてしまう。それが仲間に連動し、あっと言う間に邪竜達の敵意満々の視線に俺はさらされた。
そして彼らは大きな口を開く、中には炎がちろちろと宿っていて――
「ひぃっ!」
「慌てないで、奴らに格の違いを見せつけてやりましょう。“ヘルウォーター”」
言われた呪文を呟くのと、邪竜達が一斉に俺に向かって火を放つのが同時だった。
爆音が響き、耳が揺らされる。鼓膜が破れたようで、何も聞こえない。
分かるのは、俺の魔法で放たれた大量の水が、邪竜達が放った炎を飲み込み、それに飽き足らず邪竜達自身も押し流していったということだった。
そして後には地形の変わった“元”邪竜生息地が残った。
「あらら、鼓膜が破れちゃいましたか」
神様の声が聞こえる。どうやら耳からではなく、直接脳に語りかけるような方式をとっているようだった。他の音が一切聞こえないのに声だけ聞こえるのは変な気持ちだ。
「はい、“フルヒール”って言ってみましょう」
指示に従い、フルヒールと唱える。俺の周りから白い光が立ち上り、気が付くと周囲の音が聞こえ
るようになっていた。
「今のが高位の回復魔法です。まあ、こんな感じで自分がただのLv.000ではないということ、わかりましたか?」
「――はい、よくわかりました」
自分が変えてしまった地形を見ながら、俺は答える。
「――でも、なんでカンストするようなことになってるんですか?」
「まあ、様々な異世界があるということですよ。それに、城島さんはこういうの好きでしょう――?内に力を秘めているのに、圧倒的弱者に見えるという状態が」
それを聞いて、俺は唇の端がつり上がるのを抑えられなかった。
「――神様、名前をお聞きしてもよろしいですか。前の世界ではどんな宗教も信じてなかった俺は今、貴女の信者になりたいとはっきり思いましたよ」
「残念ながら名前なんてただの記号ですし私は別に信者が欲しくて神様っぽいことをやってるのではありません。それよりも、魔法のコントロールができるようになるまで、ここでしばらく遊びましょう。私もそれが終わったら出てこなくなるので、あとは自由にしてくれていいですよ。それじゃあ、まずはトナリ山脈を跡形もなくするところから始めましょう――」