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レベル0に見えますが実はカンストしてるんです  作者: 酢酸 玉子
第4章 もう一人の“カンストゼラー”
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第28話 人質

 倒れたままで、一時間。

 俺のところには誰も近づいて来ない。それを確認して、むくりと起き上がる。

 罠にはまったふりをして相手の油断を誘ったが、こちらが無事だと気付かれてしまったらしい。まあ、小屋の扉を開ける際に風魔法を使って空気を鎧のようにまとわりつかせていたから、ばれている可能性は高かったのだが。

 それにしても危ないところだった。もう少し気分が緩んでいたら、この罠で一発アウトとなるところである。敵はどうやら“ヘルファイヤ”のときに一端俺から監視を切り、ダミーの監視魔法のみを残しておいたようだった。どうせ俺はいずれここに来るだろう、そこでまた考えればいいという敵の読みらしい。それにまんまと引っ掛かったというわけである。そして今は、監視魔法らしきものが俺の周囲にいくつも発動されていた。

 腹立ち紛れにそれぞれ壊すが、すぐに次々と新しい魔法が俺の周囲で展開される。さっきの魔法のように、光を拾うもの、音を拾うもの、位置を発信するもの……

 ダミーが混ざっている可能性を見せられては、さっきと同様追いかけても意味がない可能性もあり、俺は夏の虫のように群がる魔法を延々潰していく作業に追われるのであった。

 それにしても、相手は戦い方を心得ている。俺と違って年季が入っていると言えばいいのであろうか、基本的に力でごり押しする側面も多い俺の戦い方と違って、相手は頭をしっかり使って、罠を張りながら戦うような戦う相手。おまけに力自体が俺と匹敵しているようだ。これまでとは勝手が違う相手に、どう逆襲の手段を講じるか……

 しばらく相手の観察用魔法を蹴散らしていると、ようやくそれらしき気配がなくなった。そのことを確認して俺はゼラード商会へと帰り……


「ヒカル大変!!ミエラが攫われてしまったわ!!」


 悲痛な顔をしたヘルネと、ゼラード商会のメンバー達に出迎えられたのだった。




「明日の夜、バリゼー塔で待つ」

 ただそれだけ書かれた手紙が、見えない敵からの挑戦状だった。


 話を彼らから聞くところによると、俺が相手の罠にはまりかけ、死んだふりをしているちょうどその頃。ゼラード商会を訪れる客がいたのだという。商人のふりをして振る舞っていたそいつは、ミエラを見つけると突然彼女を気絶させ、異変に気づいて集まって来た皆を魔法で軽く制し、手紙を預けるとまるで消えるように去ったということだった。

 そこまでの強さを持ちながら人質作戦など、徹底した慎重ぶりが嫌らしい。そして死んでも生き返らせることができる俺にとっては、確かに殺すよりも攫う方が効果的な攻撃になる。

 ――俺が、ミエラを見捨てなければの話だが。

 元々この世界に来る前から、俺には仲間意識というものが希薄だ。“ブラックバイトクラッシャー”などと名乗っていた頃だって、バイト仲間のその後など何も考えずにブラックバイト潰しにいそしんでいたのだ。そのことを考えれば、ミエラを助けることにこだわる道理はない――のだが、


「ヒカルの旦那、俺達はどうすればいいんだ?」

「俺の、占いでも、まるで、先が、読めない……」


 ドマスとヘイルトが顔をゆがめる。

 ヘルネやユリィ、ゼラード商会の仲間たちも皆、心配そうな表情を浮かべていた。

 そして皆、俺に対して縋るような目を向けている。

 ――やれやれ、ちょっと暴れすぎてしまったようだ。


「お前ら……俺はただの“ゼラー”だぞ?何を期待してるんだよ」


 そう言いながら、俺は口の端を少し上げる。

 この世界に来たばかりの頃だったら、ここはミエラを身捨ててより安全を取っていただろう。

 今だって、その選択肢は割と真剣に考えている。しかし、それをしてしまえばもはや他の皆からの信頼も揺らぐ。――それは、面白くない。俺はもはや、一匹狼を気取っていた“ブラックバイトクラッシャー”とは違う。この世界の社会の中で、“ゼラー”という立場でありながらそれを覆す者、そしてそれを“ゼラー”達やその他の人々に見せつけることで、社会全体を揺るがすような存在――そんな風に、いつの間にかなってしまっていた。元の世界にいたときと似ていて――でも確かに異なる。もっと大きな存在。だから――今回の俺には見捨てるという選択肢はない。


「わかった、俺は相手の誘いに乗ってやる!バリゼー塔へ、付いて来たい奴は付いて来い!!」


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