第27話 襲撃
「お、おい太陽が二つあるぞ!!」
最初にそう叫んだのは誰だったのか。見上げると、確かに太陽の隣に巨大な火球が並んでいた。
「なっ――!」
さしもの俺も言葉に詰まる。不覚だが、それほどまでに俺は驚いていた。それは、火球の正体が分かってしまったからでもある。
“ヘルファイヤ”
かつて俺がこの世界に転生し、“神様”とのチュートリアルのときに使った炎魔法。出力、火力ともに化物級で、邪竜一頭を炭も残さず消し去るほどの魔法。
そんな魔法が――俺達の立っている真上から降って来た。
あまりにも巨大なために、ゆっくり迫っているように見えるが実際は猛スピードで迫り来ているのだろう。このままでは、数瞬の後に火球が発する熱で周囲一帯が焼け野原になってしまうことが想像に難くなかった。
(――ヘルウォーター!)
心の中で呪文を唱える。迫り来る火球と自分達との間に巨大な水の壁を構築した。周囲では多くがあっけに取られていて、俺が対抗して魔法を放ったことには気付かれていない。
そして、爆音。
遥かな上空で水と炎が激突し、衝撃とともに水蒸気が霧散する。そして、同時に炎も消火され――
ゆっくりと霧が晴れると、そこにはたった一つの太陽が俺達を照らしていた。
あの火球はどこにもない、ふう、と息を吐いた俺の耳に、
「城島ヒカル、やはり貴様はただの“ゼラー”ではなく、ステータスの向上を極めた者であったか。その首いずれ貰い受ける、覚悟して待っておくとよい」
今までに聞いたこともない男の声が聞こえてきた。
はっと周囲を見渡すがそこに姿はない。風魔法を駆使して音を遠くに運ぶ――かつてミルルルに対して俺が用いた手段と同じことをされ、思わず背筋がぞくりと震えた。
「ヒカル、どうしたの?さっきからずっと考え込んでるみたい」
夕食の席、ミエラに声をかけられ、俺はぼんやりと彼女の方を向く。脳裏にあるのはやはり先ほどの事態だ。
俺と同様にレベルがカンストした存在。そんなものが存在するなどとはこれまで思ってもいなかったが、“ヘルファイヤ”や、声を飛ばす魔法、そしてなにより俺の力の秘密を知っていそうな口ぶり。それらを鑑みるに、レベルがカンストしている人間がいて、しかも何故か俺の命を狙っている、という風に考えることがどうやらできるようだった。
これまで俺が相手にしてきたのは、自分よりはるかに格下の存在である。しかし今回はその保証がどこにもない。今までと同様に、適当に相手に攻撃させても最後は自分の勝ち、という保証がない現状、不安になる部分があることは否定できなかった。
主な問題点は二つ。
一つは、俺と純粋な意味でどちらが強いかという問題。これについては一つ縋ってみたい仮説があるものの、情報の少ない現時点では何とも判断がつかない。ただ、一気に攻めて来なかったことを見ると、相手も俺との実力差を計りかねている、あるいは、少なくとも用心しているのではないかと考えられた。直接対決をするとすれば、力の差を把握してからにしたいのだが。
もう一つは、俺に直接攻撃してくるのではなく、仲間を攻撃される場合のこと。確かに俺が使える“デスヒール”は、死んでいても回復させることができるという規格外の回復魔法だが、死ぬ時の記憶が残っていれば心に傷として残るし、そうしないようにするためには変な風に記憶を消去しないといけなくなる。やはりなるだけ使いたくない。
次にいつ、どのような攻撃を加えられるか分からない不安のまま、俺はその夜を過ごした。
俺が謎の攻撃を受けた翌日。
ゼラード商会の一室で、俺は昨日の襲撃者の情報を探っていた。
風魔法で俺を挑発してきたことからも、常時俺は相手に観察されている可能性がある。まずはそこを潰さないと話にならない。
光魔法を駆使した千里眼的な方法か、音を利用しているのか。様々な可能性を考えて、それらが繋がるルートを魔法で探る。
いくつかの探索を重ねて、俺は不自然な光魔法の存在に気づいた。
俺の頭上で一部変な方向に光が屈折している。その先にもさらに屈折している箇所があり、そこを辿って行けば俺を見張っている敵の場所が突き止められそうだった。
「ちょっと出て来る」
「あら、御一緒しても?」
「悪いけど、ヘルネは顔合わせを進めといて。まだ知らない人も多いだろ」
「じゃあ今度どこかに連れて行ってね」
「わかったわかった」
ヘルネに見送られ、俺は魔法を辿って街を高速に移動する。
ゆっくりと追いかけるのはこっちが勘づいたことに気づかれてしまうからだ。
そして、俺はほどなくして終着点である町はずれの小屋に辿り着いた。
おそらく無人と思われる寂れた小屋。俺を観察する魔法はここから放たれている。俺は注意深くその扉を開け――
小屋が、爆発した。
破壊的な風圧が、木造の小屋を根こそぎ破壊し、壁や柱が俺のところに飛んでくる。更には爆発を引き起こしたと思われる炎。俺はたまらず吹き飛ばされ――地面に倒れた。
 




