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レベル0に見えますが実はカンストしてるんです  作者: 酢酸 玉子
第4章 もう一人の“カンストゼラー”
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第26話 ゼラード商会

「ああっ!ヒカルの旦那!お久しぶりです!!」

「ヒカル!久しぶりなの!」


 以前“ゼラー”から脱却させた仲間、ドマスとシュリから声をかけられる。

 ここは“ゼラード商会”、かつてデウリス商会で働かされていた“ゼラー”達が集って作り上げた、新進気鋭の商会である。商売の世界に後から入るということは通常並大抵のことではない。しかし、このメンバーは“算術”に“経営術”、“交渉”に“語学”といった、商売に有効な多様なステータスがLv010という驚異的な数値である。エルフのシャラムンやドワーフのミルルルなど、かつて戦った敵の中にはもちろんもっと高いレべルの持ち主もいたが、それは彼らが飛びぬけて優れていただけのこと。Lv010が10人近くも集まれば、オートランドではほぼ敵なしと言えた。おまけに発足のときには俺も関わっている。


「あらあら、本当にヒカルってば人気があるのね」


 一緒に付いてきたヘルネが、可笑しそうに笑った。

 ――規格外と言えば、彼女もまたその一人。

 知的労働の分野において、多くのステータスでLv010前後とは、まさに超人の域に入っていると言えた。そんな彼女にミエラが問う。


「でも本当にいいの?ヘルネさんが私達と一緒にやってくれるのは心強いけど……」

「ええ、今までの生活は一度終わらせたかったし、あんな騒ぎを起こしたあとじゃあ、さすがに娼館の方にも――迷惑がかかってしまうしね」

「その潔さ、さすがはヘルネお姉様ですわ!一生付いて参ります!」


 俺と皇太子達が一悶着を起こした後、ヘルネとユリィは勤めていた娼館から暇を貰っていた。騒ぎの中心は俺と皇太子であったとはいえ、ヘルネも当事者である。放っておけばどんな噂の種になるかもわからない。娼館としてもヘルネを失うのは痛く、またうまくすればビジネスチャンスにもなるだけに判断は難しいところだったが、当のヘルネがあまり残る気を見せなかったこともあり、結局はこのような結論に落ち着いた。そして原因の一端を作ったのが俺である以上、何もしないのも少し気になり、ミエラとゼラード商会に顔見せに出るついでに、ヘルネとユリィの今後が決まるまでしばらくここで預かってもらうよう交渉しに来たのだった。

 もっとも、ヘルネの能力は見ての通り、強者揃いのゼラード商会とはいえ、喉から手が出るほど欲しい人材には違いなかった。ユリィとてヘルネの下で娼婦見習として過ごしていただけのことはあり、人並み以上のステータスはある。二人の受け入れには問題なく、むしろゼラード商会陣営の方が恐縮するほどだった。今は双方をよく知る俺やミエラを交えて交流を計り、それぞれの緊張をほぐすことを目標にして帰還したのだった。


「お、おやおや、ミエラ譲がヒカル様の他に、見目麗しい女性を二人連れ帰ったか。フフッ、俺の占いが当たったようだな」


 落ち着きなく視線を左右に彷徨わせながらそんなことを言って出迎えたのは、かつての“ゼラー”仲間の一人であるヘイルト。俺が“占星術”の才能を開花させ、そのレベルを010まで押し上げた男だ。


「さすがはヘイルト。俺が帰って来ることだけにとどまらず、他の二人の存在まで言い当てるとはあっぱれなもんだな」


 言いながら、俺は“占星術”ステータスの持つ力に改めて驚愕していた。なお俺自身はやはりこのステータスもLv10000なのだが、そこまでの力で使うとこの先の人生が全て分かってしまいそうで怖く、極めて限定的にしか使ったことはない。


「フッ、この力もヒカル様がくれたもんさ。俺一人でやったことじゃ、ない」

「その謙虚さがあるなら、当分は大丈夫そうだな」

「あ、ああ、俺達はまだ“ゼラー”だったときのこと、よく覚えてるさ、だからほら、見てくれ」


 ヘイルトの指し示す方向を見る。そこには、“ゼラー”の子供達が机に向かっていた。


「ゼラード商会で雇っている、子供たちだ。毎日、二時間ほど、レベルを上げる訓練を

してる――ヒカル様がやってくれたように、上手くはいってないがな」


 すぐに利益があがるようなことでもないのに、そんなことまでやっていることに俺は感嘆の声を上げた。俺の“鑑定”Lv10000と“育成”Lv10000が無いなかでそんなことをやるのは大変なことだろう。俺は少し彼らに対して肩入れしたくなり――


「駄目だぜ、ヒカルの旦那」


 声をかけてきたのは、やはりデウリス商会にいたときの“ゼラー”仲間、ヤティだ。あのときのメンバーの中で一番若い少年。いつも飄々とした態度で仕事に臨んでいた彼は、“語学”Lv010に花開いた。


「今ヒカルの旦那はあの子達の素養を教えようとしてくれたんだろう?そうすれば確かに彼らのレベルは伸びるかもしれないい――でも、ヒカルの旦那におんぶにだっこの状態が続くだけだ。それじゃあ駄目、だろ?」

「――確かに、その通りだ。余計なことをするところだった、悪いな」


 俺は彼らの意識が大きく変わっていることに驚いた。本の数カ月前までは“ゼラー”として、どんな理不尽も受け入れ社会の下層でくすぶらなければならなかった彼らが、今や自分達で考え、更によくするためにはどうするかを追求しようとしている。しかも“ゼラー”であったときの気持ちを忘れるわけでなく、“ゼラー”からの脱出を他の“ゼラー”達にも分け与えようとしているのだ。彼らに商会の立ち上げを任せたときから、そうなるであろうという期待はしていたものの、いざ実際に変化した彼らの姿を見てみるととても大きな安堵を得られた。


「いやはや、これは本当に顔見せだけになりそうだな。俺がもはや何か言うような状況じゃない」


 肝心の経営状況も悪くないと先程ドマスから教えてもらった。“経営術”Lv010の彼からの報告なら間違いはない。

 ヘルネのところでヒモをやっていた頃も怠惰な生活をしていたが、ゼラード商会に来ても特にすることはなさそうだった。今は用事で席を外している仲間とも再会を果たせば、またしばらく旅に出てみるか――

 俺がそう感じたまさにその瞬間――ゼラード商会に、炎魔法が降り注いだ。

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