第23話 連行
「貴様、あのときの“ゼラー”だな!“ゼラー”の身でありながら人々を惑わし、国家を混乱に陥れようとするその企み、皇太子殿下の名において成敗してくれる!おとなしくここで縄につくがいい!」
「何のことやらさっぱりわからないな。俺にはやましいところなど一つもない。丁重に招かれるならともかく、囚人、罪人のような扱いを受ける謂れはない!」
「栄えある王国軍を前に一歩も引かずその言い草、胆力だけは褒めてやろう!――お前ら、やれっ!」
馬上から見下すように俺と相対するジャクスの命令に従い、軍人達数名が刀や槍を構えながら俺を制圧にかかった。剣術や槍術のレベルがおしなべて高い者達だ。俺は――少なくとも見かけの上では――なすすべもなく制圧された。
「さあ街頭の野次馬よよく見るがいい!これが身の程もわきまえず王国に反旗を翻した男の末路だ!」
俺はヘルネといい仲になる以上のことをしていないつもりなのだが、ジャクス達の頭の中ではそうではないらしい。あるいは、勝手にないことをでっちあげているのか。恐る恐る、と言った風に周りを見守っていた野次馬達には、さぞ極悪人として印象付けられたことだろう。
「本来ならば貴様はこの場で処刑されても文句は言えぬ。しかし他に一味がいるかもれんことを考えれば、お主を取り調べる必要があるからな。今ひとたび、命を長らえさせてやろう。もっとも――調べが始まれば、ここで死んでおけばよかったと思うかもしれぬがな」
そう言ってにやりとジャクスは笑う。俺は後ろ手に縛られたまま、強引に立たされ、引きずられていった。
王国軍兵600名が参加した大捕物である割に、その結果はあまりにもあっけなかった。そのため、国家転覆の陰謀というよりは、王国軍の威容を見せつけ、特に“ゼラー”など社会的身分が低い者たちが不満を爆発させないよう、見せしめる意味があったのではないか、などと人々は噂した。
「ああ……ヒカル、ヒカルが捕まってしまった……」
物陰から見ていたヘルネが呟く。
「でも、ヒカルが言っていたように、その後ヘルネさんのところまでは来なかったですね」
「うう……お姉様が御無事でよかったです……」
ヒカルはヘルネ達に、自分が捕らえられればいったんはその場を凌げるだろう、と提案した。ジャクス自身はヘルネにも恨みを持っているかもしれないが、あくまで名目は“ゼラー”討伐。自分が捕らえられてはこれ以上の事は起こらない。むしろ、ヘルネがヒカルを庇うようなことがあれば一緒に彼女も誅されてしまう可能性がある。
ヒカル一人を犠牲にするようなまねはできない、と最初はヘルネも強く主張していたのだが、ヒカルに見つめられているうちにまるで洗脳でもされているかのようにいつの間にかヒカルの言っていることが正しいのではないかと思えてきてしまったのである。しかし、いざヒカルが捕らえられるのを目の当たりにすると、そんなことは間違いだったのではないかという思いがむくむくと湧き上がって来た。
「まあ、ヒカルのことだから、きっと何も考えていないわけじゃないわ。今は待ちましょう」
ミエラの声に、彼女をキッと睨む。
「あなたはヒカルがどこに連れて行かれたか分かっているの!?メシハリー牢獄に決まっているわ!一度入れば二度と出られないと言われる牢獄に彼が連れていかれて、どうしてそんなに平気な顔をしていられるのかしら……」
重罪人のみを収容する、王国一の牢獄。その堅牢さは、五十年間脱獄者なしというほどのものだった。
しかし、その名を聞いてもミエラは微笑む。
「大丈夫よ。言いなりになってそのまま終わり、なんてこと、ヒカルは絶対にならないわ。だってヒカルってば……とっても性格が悪いんだもの。“誰かのための犠牲”が大嫌いな人が、みすみすその役を担うなんて、私にはとてもじゃないけど思えない」




