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第20話 ヒカル、ヒモになる

「おはようヒカル!今日はどんな話をしようかしら。歴史の話?算術の話?それともまた歌を歌ってくれる?この前聞かせてくれた歌は最高だったわ。あるいは私のために詩を詠んでくださるかしら。この間の情熱的な言葉運びには、不覚にも全身を感じさせられてしまったわね!」


 俺はテンションの高いヘルネの声で目を覚ました。

 いったいどうしてこうなったのか。俺は彼女のヒモとして今、オートランドの一角にある高級娼館で暮らしている。

 いやいや、先日までエルフやドワーフ、人間達と派手な喧嘩をやってきた自分としては、あまりにも生活環境のギャップに戸惑いを禁じえない。とはいえ、しばらく奴隷とか実験材料とかをやってきたため、高級なベッドに贅沢な食事、傍らには美女という生活は実に快適なものだった。酷い生活をしていたときもLv10000のおかげでダメージを受けたりしたわけではなかったが、気分の問題というのはどうしようもなくある。当分の間、他に喧嘩を売るのもやめてこうして過ごすのもいいかなあ、と思う城島ヒカルだった。

 そもそも、ミルルルから鉱山を奪い取ったあと、さらにいくつかの場所で事件を起こしてから、ここオートランドに帰って来たのはミエラ達の商会がうまくいっているかを確認するためである。急な用事であるわけではなく、時間帯が夜になってしまったためふと夜景が見たくなりよさそうな場所を探していたら、隣にいた美女から急に話しかけられたというわけだ。

 意味深なことを言われたのでとっさに“知識”Lv10000で調べてみたら昔の戦争の逸話が元になっていたらしい、なのでそこから引用して返答したらさらに気に入られ、“算術”の話をしたり歌を歌ったり――と、そんなことをしている間に、いつのまにか意気投合して彼女のところで養ってもらうように話がまとまってしまっていた。

 とはいえカンストレベルを用いて惚れさせたようなもの。“強者”だと思っている奴らとの喧嘩には遠慮なく使うが、色恋沙汰に用いるには大人気ないような気がして俺はこれまでそういった方面への能力使用は避けてきた。しかし、その態度が彼女には変にがっついていないように見えるらしく、余計に気に入られる――悪循環なのかよい循環なのか、とにかくそんな具合で、俺はここ数日間彼女と共に生活していた。




「ねえ、ヒカル。少し散歩に行きましょうか。貴方となら、退屈だと思っていた景色も新しい発見がいっぱいあってとても楽しいわ」

「わかった、それじゃあ行こう」


 外出するときは、彼女は俺の腕に自分の腕を絡ませてあるく。豊満な胸が押し当てられて、思うところがないほどに俺は男として完成されてはないが、感情調整もLv10000である俺は、他人から見ればぴくりとも動じていないように見えるはずだった。


「へ、ヘルネ……」


 歩いていると、ときどき愕然とした顔をする身分の高そうな男と出会う。

 たいてい、ヘルネを何としてでも自分のものにしようとしていた男の一人だ。


「そ、その男は……見たところ、“ゼラー”のようだが、どうしてそこまで親しそうなんだね……?」

「あらジャクス将軍。この方は、私の――ふふ、とても大切な人、といったところかしら。あなたが気にするようなことじゃないわ」

「い、いやしかしだな――」


 自分は指も触れたことがあるかどうか、入れこんでいたヘルネが“ゼラー”と腕を組んで歩いていると見れば、冷静ではいられないことだろう。この瞬間は、これまでシャラムンやミルルルにいっぱい食わせて来たときのような快感を俺にもたらした。

 気持ちいいいいいいいいいいいい!!!!!

 これはこれで充分自分の趣味に合っている。そのことも相まって、余計にこのままでいいかと思ってしまうのだった。




「畜生おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」


 ジャクス将軍と呼ばれた男が、涙目になりがら走り去って行った。

 ヘルネはやれやれと肩をすくめる。


「昼間っからみっともないったらありゃしないわね、まったく。あれでも戦場になると冷静なのかしら?」


 俺は曖昧に笑って誤魔化した。

 その後も二人で気ままに歩き続ける。


「でもいいのか?俺のせいで上得意がどんどん離れていく気がするけど」

「別に構わないわ。そろそろこの仕事も飽きてきたところだし。これからの生き方に悩んでいたところなの」


 本当に気にしていないように、ヘルネは言う。どうやら俺はちょうどいいタイミングで彼女の前に現れてしまったようだった。


「本当はね――もっと愉快な生き方が夢だった」


 ヘルネは、独り言のように呟く。


「物語のお姫様か、女性騎士のような華やかで、冒険に溢れているような、ね。それができなきゃせめて高級娼婦になって国を我が物にする――けど、実際はそんなことできっこない。私も所詮はこの国で生きている一人、そう気付いちゃったから」


 彼女は少し、照れたように笑った。


「だけど貴方と会えてよかった。世界にはまだまだ私の知らないことがあるってわかったから。だからずっととは言わないけれど、しばらくの間一緒にいてくれたら私は嬉しいわ。貴方と過ごしていると、もう一度新しい生き方をしたくなっちゃう。もっと素敵な生き方を――ね。それが定まるくらいまでは、一緒にいてくれないかしら」


 少し憂いを帯びた、それでいてとても澄んだ瞳でヘルネは俺を見つめてくる。俺もその目を見つめ返し、口を開いて――


「ヒカルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 聞き覚えのある声が聞こえた。

 と、思ったら誰かがものすごい勢いで俺の懐に飛び込んできた。


「おうふっ!」


 たまらず吹き飛ばされる俺。しかし腕の中にいるその少女は、そんなことなどまったく気にしていないように、俺を怒鳴りつけてきた。


「オートランドに帰ってるなら、顔くらい出してくれてもいいじゃない!!心配していた私達の気持ちも知らないで、こんなに綺麗な女の人と腕組んでいちゃいちゃして――ひどい!!」

「あ、えっと……ごめん」


 彼女の名前は――ミエラ。

 かつて俺が“ゼラー”の運命から解き放った少女だった。

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