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レベル0に見えますが実はカンストしてるんです  作者: 酢酸 玉子
第2章 エルフの村、ドワーフの鉱山
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第16話 短剣

 この日もまた、ミルルルは“ゼラー”を整列させていた。

 新入りの“ゼラー”も多くいる、見せしめにはちょうどいい頃合だ。


「第四坑道の進捗が悪いねっ!そうは思わないかい?」


 語りかける彼女に、皆が目をそらす。

 そんな“ゼラー”を順繰りに眺め、ミルルルは一人の“ゼラー”の前で視線を止めた。


「まだ入って日が浅いとはいえ、キミの働きには期待してたんだけどな――残念だよ、ヒカル」


 周囲の面々が、新たな犠牲者の誕生に恐怖し、同時に今回の対象が自分ではなかったことに安堵していた。表情の変化が見えないのは、顔を布で隠した新入りの“ゼラー”達だけだ。


「――も、もう少し、様子を見てもらうことはできないですか?ま、まだこれから充分巻き返しの可能な――」

「駄目。もう死んで」


 言い逃れようとするヒカルの言葉を遮り、ミルルルは一刀のもとに彼を切り捨てようと――



 ガチン!!!!!!



 鋭い音が、坑道内に響いた。

 ヒカルを一刀両断にしていたはずのミルルルの愛剣“竜の牙”は、ヒカルが持った短剣に防がれていた。


「なっ――!」


 自分が絶対の自信を込めて鍛えた名剣が、細い短剣に防がれたこと、それに“剣術”Lv020の力を用いた居合が受けられたこと、それらがミルルルに驚愕の叫びを上げさせる。


「くそっ、馬鹿なっ!」


 慌てて体勢を立て直し、再びヒカルへの攻撃を繰りなす。“剣術”Lv020の力量にふさわしく、右に左に鋭い突きを出し、あるいは切りつけ、切り上げ、時にはフェイントも交え――

 それら全てが、汗もかかないヒカルによって受け流された。

 まるで赤子の手を捻るようにあしらわれ、ミルルルは愕然とする。


「“生きている間に犯していいミスは、自分のレベルの数だけなのさ。”――だったっけ。ミルルル、お前のレベルは合わせて112だが……俺がここに来てから、112回くらいはどうにかするチャンスもあったろうに、それをできなかった時点で、ミスの数が上回っちまったなあ」

「なんなんだ、キミは!ボクは“剣術”Lv020だぞ!そんなボクにただの“ゼラー”が勝てるわけがない!!」

「さあ、なんでだろうな――くっくっ、あるいは、お前に随分殺された“ゼラー”達の呪いでも、今になって降りかかってきているんじゃないか?」


 短剣を持って向き合ったまま、ヒカルは不敵に笑う。


「バカなことを!“ゼラー”に生きていく価値があるのは与えられた仕事をきちんとやり遂げているときだけだ!能力もない上に、仕事もできない奴が生きていける理由があるものか!だからボクは彼らを殺した、それだけのことだ!」


 叫んで、再び“竜の牙”を振りかざす。しかし、ヒカルの短剣に難無くはじかれた。

 それもまたおかしい。“竜の牙”は、自分の“鍛冶”Lv017を費やして錬成した、名剣中の名剣のはずだ。短剣で受けようと思ったら数合も合わせぬうちに短剣の方が根元から折れてしまう。しかし、その短剣は折れるどころか、歯こぼれの一つも見えなかった。


「――その短剣!どこで手に入れた!そんな短剣を作れる名匠など、ドワーフの中にもいないはずだ!」

「わからないか?お前が捨てたものが原材料だ」

「――っ!そんな……」


 思い当たるものがある。

 クズ鉄がゴミ置き場からなくなっていた。

 しかし――粗悪な鉄で?

 使い物にならないような鉄で自分の名剣より優れた短剣を?

 しかも、鍛冶を行うには、当然様々な設備が必要になる。さすがに自分の魂を込めるともいえるその仕事場は、“ゼラー”に入らせることのないよう厳重に管理していたはずだった。


「ミルルル、いいことを教えてやるよ――短剣なんてのは、どこでも作れるんだ」


 彼女がこれまでにしてきたことを根こそぎ無に帰すようなことを言いながら、ヒカルが笑う。剣術も、鍛冶も、全て踏み潰すように――笑う。

 そして、これまで防御に徹していた彼が、遂に短剣を構えて、じり、じりと迫りだしてきた。


「――っ!」


 初めて、“ゼラー”に対して恐怖を覚える。

 自分の方が圧倒的に優位なはずだった。自分の方が圧倒的に優れているはずだった。しかしその幻想を打ち砕かれて、それでも勝てるはずだと思えるだけの根拠はミルルルには残っていなかった。

 もしかしたら、彼の短剣を受けきることはできないかもしれない。

 もしかしたら、自分の愛剣の方が打ち砕かれるかもしれない。

 もしかしたら、彼の剣術の方が優れているかもしれない――


「う、うわあああああああああああああああああああっ!」


 ミルルルは、ヒカルに背を向けて、逃げ出すことを選んだ。

 周囲であっけに取られたように見まもっている“ゼラー”達を、剣で追い払いながら道を開こうとする。


「どけっ!どけっ!どかないと剣の錆にしてやるぞっ!」


 恐怖に顔をゆがめながら、彼女は必死に人垣をかきわける。

 しかし――



 ガキン!!



 再び、嫌な音が鳴り響いた。

 覆面をしていた“ゼラー”が、彼女の剣に短剣を合わせている。

 その短剣もまた、折れもしなければ歯こぼれもしていない。


「な――くそっ!なんなんだあああああああああああああっ!」


 がむしゃらに剣をふるう。その剣が、“ゼラー”の覆面に当たり、ぽとりと落ちて素顔が明らかになった。

 そこにあったのは、



「お久しぶりですね、頭領。借りを返しに来ましたよ」



 彼女がその手で処刑した、“ゼラー”ジャヂの顔だった。

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