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レベル0に見えますが実はカンストしてるんです  作者: 酢酸 玉子
第2章 エルフの村、ドワーフの鉱山
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第15話 懲罰

 ヒカルと名乗る“ゼラー”がやって来てからしばらくした、ある日のこと。

 ミルルルは、“ゼラー”達を整列させていた。


「やあっ、諸君。ボクがどうしてキミ達を呼んだかわかるかい?」


 普段と変わらぬ朗らかな印象だが、年季の入った“ゼラー”達は強張った表情を崩さない。彼女がこうやって人を集めるとき、何が起こるかを何度も経験して知っているからだ。


「簡単な話なんだけどねっ、第三坑道の作業が予定通りに進んでいないと思うんだっ」


 彼女はあくまで明るく――言う。

 しかし、暑い坑道の気温がぐっと下がるような何かが、彼女から噴き出てきていた。


「と、頭領――俺たちは別に、サボってるわけじゃ――」


 乾いた声で言うのは、第三坑道の取りまとめをミルルルに任されていた“ゼラー”、ジャヂ。その言葉に、大きくミルルルは頷いた。


「うん、そうだよねっ!みんなはとても頑張ってくれてるとボクは思うよ――でも、」


 そして、本当に何も悪いと思っていないような顔で、彼女は続ける。


「結果が出なかったんだから、責任は取ってもらわないといけないよねっ♪」


 そこから先は、当のジャヂにすら何が起こっているのか分からなかっただろう。

 ミルルルが腰の愛剣“竜の牙”を抜刀し、ジャヂの首を刎ねた。

 そのことを“ゼラー”達が認識できたのは、ジャヂの首が地面に落ちて、鮮血が坑道内を赤く染めてからだった。


「ああ、ジャヂ、ボクは本当に悲しいよ。キミのような真面目な鉱夫の首を刎ねないといけないなんて。でも、いつも言っている通り、生きている間に犯していいミスは、自分のレベルの数だけなのさ。だから“ゼラー”は間違いを犯さなくてようやく一人前、少しでも何かをしでかすような“ゼラー”は、もはや生きているだけで損害を生み出すだけの存在だからね。悪く思わないでくれよジャヂ。こうするのがボク達の、更には世界のためなんだ」


 いいながら、愛剣“竜の牙”をぬぐうミルルル。鍛冶Lv017の彼女がその持てる技術を全て費やして鍛えたというその名剣には、人一人の命を奪ったにも関わらず歯こぼれのひとつもなく、妖しげにギラリと輝いていた。

 ミルルルの瞳に、狂気はない。名前を覚えて面倒を見るほどの親愛と、少しでもミスをしたら容赦なく処刑する冷酷さを、彼女は同時に“ゼラー”に対して持っていた。“ゼラー”をあくまで一段階自分より下に見ているからこそできる所業である。


「あ、それ(・・)、片付けといてね。ヤイチ、ヒカル。向こうの坑道をずっと行った先に、死体置き場があるから」


 遺体の方は見ずに、最近入って来た“ゼラー”二人に命じる。無論、まだここの生活に慣れていない彼らに対する見せしめの意味もあってのことである。

 のろのろと死体を運びだす彼ら。いつもの通り、その横顔には恐怖と服従の色が――


(あれ?)


 ミルルルはそこで、また違和感を覚えた。


(ヒカルの反応が、薄い――?)


 いつもの新入り“ゼラー”ならば、ここで次は我が身と恐怖を覚え、ミルルルの怒りを買わないように恭順の意思を強く出す。実際、死体処理を命じた二人のうち、ヤイチの反応はまさにそのようなものだった。

 しかし、一方のヒカルについてはそうではない。まるで、こんなことは何でもないかのように、平然として死体をヤイチと運んでいる。


(――よっぽどの修羅場をくぐってきた奴なのかな、まあ、“ゼラー”の中にはそういうのもいるらしいけどっ。ま、ボクには関係ないや)


 ミルルルはそう思って、これ以上そのことを考えないことにした。

 彼女がその判断を深く後悔するのは、もう少し後のことである。






「アルファに、ベータ、ガンマ……変な名前、記号みたい。顔も隠しちゃって、それじゃ個性ってもんがないよ」

「私達はまともに名前を付けてもらったことも、まともに一人の人として扱われたこともないのでございます」

「ふうん、まあいいよ、これからよろしくね」


 ジャヂを処分した後もしばらくは(ミルルルにとっては)平穏な日々が続いたが、いくつか不自然な出来事が起こった。

 一つには、顔を布で覆った“ゼラー”が何名も働かせてくれと申し出てきたこと。

 彼らによると、これまでに迫害を受けてきたので顔も見せたくないだとか。

 なんとも不審な話だったが、基本的に仕事でミスをしない限り“ゼラー”に対しては寛容なミルルルは、彼らの覆面を無理やりはがすことはしなかった。




 さらには、クズ鉄がなくなっていたこと。

 鉄を扱うことに長けているミルルルであるが、その分こだわりも強く質の悪い鉄など、使い物にならないクズ鉄は遠慮なく捨てていた。そのゴミ捨て場からクズ鉄が消えていたのである。“ゼラー”に聞いても知っているものはいなかったし、そもそもミルルル個人としては不要のもの。この一件で誰かを処分するようなこともしなかったが、薄気味の悪さだけが残った。




 そして――その日がやって来る。

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