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レベル0に見えますが実はカンストしてるんです  作者: 酢酸 玉子
第2章 エルフの村、ドワーフの鉱山
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第13話 勝者

「うがっ……がほっ……ぐげっ……」


 “傷を付けずに痛覚を痛めつける魔法”をまともに食らい、痛みにのたうち回るシャラムンから目をそらし、俺は事の成り行きを呆然と見守っていたリフレミンに視線を移す。


「おい、まだやるのか?あんたの息子は死んでしまうぞ――?」


 そこでリフレミンは我に返った。


「――っ、勝者、ヒカル!」


 慌てて、俺の勝利を宣言し――その結果が何を意味するのかを遅れて思い出す。

 顔を真っ青にするが、もちろん同情などして手を緩めることはない。


「じゃあ、こっちに来てもらおうか、ヤーシェハマン」


 彼女もまた、成り行きを愕然と見守っていた一人だった。決闘前の約束を思い出したのか一瞬辛そうな顔を浮かべ、それでも次の瞬間にはキッと俺を睨みつけた。


「――わかった、行こう」

「ま、待てヤーシェハマン」


 痛みから解放されたシャラムンが、何か言おうとする。しかし、ヤーシェハマンはそれを拒絶した。


「負けておいて今さら何を言おうというのですか、お兄様。もはや我々には、これ以上恥を重ねることを避けるしかすることはございません――皆様、今までお世話になりました」


 ぺこり、と頭を下げ、彼女は俺に向き合う。


「さあ行こうか――ただし一つだけ覚えておくがいい。お前は確かに私の身体を勝ちとった――しかし心までは得ていないということを」


 これから何をされるか分からない相手にここまで言えるとは、大した胆力である。

 俺はにやりと笑って、彼女の手を取った。


「それじゃあな、世話になったぜ!」


 そう言って、移動呪文“ワイルドムーブ”を唱える。

 縋るように手を伸ばしていたリフレミンやシャラムンの姿が、歪んだかと思うと彼方に消えていった。




「……なんだ、今のは?」


 エルフの村から遠く離れた地で、ヤーシェハマンは俺に問う。


「移動魔法だよ、知らないのか?」

「一瞬で百里も飛ぶような魔法など、聞いたこともない。つくづく規格外なことをしてくれる」


 呆れたように言う彼女に、俺は今後のことを問いかけた。


「それでヤーシェハマン、お前これからどうしたい?」

「どうしたい、だと?私はお前の言う通りにするしかないものと思っていたのだが」

「ああ、それな。俺は別にお前に興味があったと言うよりは、お前の兄貴にぎゃふんと言わせたかっただけだから……だから別に、お前を手に入れてどうこう、とか考えてたわけじゃない」

「――なっ!お兄様を辱めるためだけに、私を景品のように扱ったというのか!?」

「ああ、そうさ。あいつにとっては自分の考え不足で妹をカタに取られるのが一番の屈辱だろうと思ったからな、その手を使っただけだ」


 自分に害が及ばないと分かって、安心するかと思ったヤーシェハマンだったが、その目は怒りに震えていた。


「……前に言ったな、“ゼラー”にここまでコケにされたのは初めてだ、と――訂正する、誰か(・・)にここまでコケにされたのは、生まれて初めてだ!!」

「まあ、そう怒るな。過保護な父と兄から逃れて、これでお前もしばらく自由の身だ。なんなら、世界を見て回ったらどうだ?あんな村に引きこもっているから、みんな頭も堅くなるんだよ」


 俺の提案に、ヤーシェハマンは少し考え込んだ。


「――確かに、私は何も知らなかったな。Lv100の魔導石があることも、お前のような性格の悪い“ゼラー”がいることも」


 性格の悪いは余計だと思ったが、まあ反論はできない。


「うん、お前に言われてというのは癪だが、どのみち私の面倒をみないつもりなら、村に帰る前に寄り道をして行ってもいいかもしれん」


 ヤーシェハマンは、納得したような表情を見せた。


「おう、路銀は必要か?」

「馬鹿にするな!お前から施しを受けるほど落ちぶれてはいない」

「そりゃ失敬」


 俺はかははと笑う。その笑いがまたヤーシェハマンの神経を逆撫でしたらしく、彼女はむすっとした顔になる。


「そんな顔するなよ、美人が台無しだぜ」

「ふんっ、お前なんかに言われても何も嬉しくない」


 彼女はつん、とそっぽを向いた。



 

 そして――彼女は人間の住む土地へ向かい、

 俺は、ドワーフが取り仕切るという鉱山へと足を伸ばした。


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