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レベル0に見えますが実はカンストしてるんです  作者: 酢酸 玉子
第2章 エルフの村、ドワーフの鉱山
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第11話 挑発

「昨日は迂闊な間違いをしてしまったが、今日こそは吾輩の魔法の餌食になってもらうぞ、“ゼラー”!」


 翌日、またもシャラムンは意気揚々と俺の前に現れた。目の下に隈ができているあたり、昨日は夜遅くまで間違っていない魔法の問題点を探していたのだろうか。別に同情はしないが。


「さあ、今度こそ苦悶の悲鳴を上げるがよい!」


 そして、魔法が放たれた。

 解析してみて少し驚く。前回とは別種の構成で魔法が練られていたのだ。魔力Lv012は伊達ではないということか、ある方法がダメだったら別の方法を試すだけの柔軟性もあるらしい。

 ――まあ、もっとも全て俺がキャンセルできるという点においては変わらないのだけど。


「なぜだっ!今度こそ完璧のはずなのにお前はどうして平気な顔をしている!」


 けろっとしている俺を見て、シャラムンは驚愕の表情を浮かべる。俺は少しからかってやることにした。


「あんたの妹さんでも食ったからじゃないのか?昨日夜這いに来たんだが知らなかったかい?」

「貴様あああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!我が妹を愚弄するかあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 一瞬でシャラムンは激高した。どうやら兄妹仲は別に悪いわけではないらしい。

 などと頭では冷静に考えつつ、シャラムンの放った炎魔法(既知のもの)に悶えているふりをする。実際には今日も痛覚に届く前に回復魔法でガードだ。

 普通の人間なら死んでいるであろう炎魔法を受けて、俺は意識を失った――ふりをした。






 シャラムンが去ってしばらくすると、俺はむくりと起き上がり檻の中で鼻歌を歌いながらくつろいだ。“体調管理”Lvも10000で、病気をしないどころか心拍数や脈拍、尿意便意も自由自在に操れるほどの俺にとっては、デウリス商会の“ゼラー”部屋だろうがエルフの村の檻の中だろうが、とりたててしんどいものではない。

 ――気分的にはまあもう少し立派な住まいが……と思うこともあるが、そのストレスはシャラムンを倒すことで発散することとしよう。


「――なぜ生きてるんだ、お前?」


 なんだかんだで今日も檻の前にやって来たヤーシェハマンは呆れたように俺に尋ねた。


「“ゼラー”はあれくらいの経験をし慣れてるんだよ」


 俺は嘯く。


「どうやらお前はよっぽどの変態らしいな、あんなことをされても別に怒ったり苦しんだりしている様子がない。そればかりかどこか楽しそうに見える」


 あんたの兄さんをどうやって追い落とそうか考えてるから楽しいのさ、とも言えず、俺は曖昧に微笑んだ。


「とにかく、助けはいらん、何故か死なない、とあっては私も放っておくしかない、せいぜい間違って死なないようにしておけよ?」

「はいはい、それより、俺のところにあまり来ない方がいいかもしれないぜ、あんた、俺に夜這いかけにきたことにしといたから」

「なっ――つくづくバカかお前は!!それであんな魔法をかけられていたのかまったくふざけおって!!」

「そういいつつ顔赤くしているあたり、まんざらでもないんじゃねーの?」

「誰がだ!!昨日も言ったがこんなに“ゼラー”にコケにされたのは初めてだ!もう帰る!」


 そう言って、今日の逢瀬も特に何もなく終わってしまった。






 数日後。


「今日こそは……今日こそは成功させてやる……」


 目の下の隈がいっそう濃くなったシャラムンが、ぶつぶつと呟きながら俺の前に現れた。

 毎日のように異なる理論で魔法を構築しては、キャンセルされていることにも気付けずにまた再起を図ることの繰り返しだ。よくもまあ、懲りずに挑戦するものである。魔力Lv012の誇りだろうか。


「そんなに成功させたいのかよ、拷問や戦争くらいにしか使い道のなさそうな魔法を」


 思わず口に出して聞いてしまった。シャラムンはキッと俺を睨みつける。


「……当たり前だ。貴様ら人間にエルフが蹂躙されないように――我が妹達が与えられた恥辱を、二度と同胞たちが受けぬようにするには……もっと強大で、もっと盤石な力を身につけねばならないと――吾輩はあのとき誓った!!」


 俺を見ているようで、どこか遠くの過去をその眼は見ていた。“知識”を使ってシャラムンの過去を調べてみると、該当の項目が目に入る。どうやら、彼にはヤーシェハマン以外にも二人妹がいた(・・)らしい。

 “いた”――二人の妹は、百数十年前の人間とエルフの争いにおいて、辱めを受けた挙句に殺されたという。


「しばらくは争いのない時代もあった。新しい妹であるヤーシェハマンも生まれ、吾輩も過去のことは忘れようと思った――しかし、近年人間達は軍事力を蓄え、またしてもこの深森の地を自らのものにしようと企むようになった!吾輩は、ヤーシェハマンをまた失うわけにはいかないのだ!」


 それが理由か。

 ――まったくもって、“ゼラー”を実験に使っていい理由になっていないのが、いっそ清々しい。自分達を守るため、強くするためには、自分達よりも弱い者を犠牲にしてもいいというのか。

 そんな戯言を――認めるわけにはいかなかった。




「さあ、今日こそは我が魔法の餌食となれ!!」


 シャラムンが魔法を放ってくるが俺は今日も微動だにしない。

 いつもならこのあと適当に挑発して終わるのだが、俺はそうはしなかった。


「なあ、シャラムン。いい加減、俺がお前の魔法に対抗できている理由を考えたらどうだ?お前の魔法は本当に間違っていたのか?例えば――俺が強い回復魔法を使う“手段”を持っているとは考えられなかったのか?」

「――っ、まさか、魔導石か!?」


 言われるまで、ずっと考えもしていなかっただろう選択肢を、そこでシャラムンは始めて見出す。それすらも俺の誘導だとは気付かずに。

 魔導石とは、自らの魔力を抽出して結晶化したものであり、他人がその魔力を借りることができるアイテムだ。それさえあれば、“ゼラー”だったとしても、高位の魔法を操ることもできる。ではなぜ、シャラムンがその可能性をこれまで考えてこなかったかというと、彼に対抗できるような魔導石は極めて希少で価値が高いからだ。通常、魔導石に込められる魔力は自分の魔力レベルの平方根程度がやっととされている。つまり、Lv012のシャラムンに対抗できる魔導石というものは、魔力レベルが三桁クラスに達している者にしか作ることはできないのだ。当然多く出回るものでもなく、価値は天文学的。間違っても、“ゼラー”が手に入れられるものではない。


「――騙して奪ったか、死者からもぎ取ったか――いずれにせよ、貴様のような“ゼラー”が持っていてよいものではない!渡せ!」

「おいおい、それを渡したらお前に殺されるのが見えてるじゃないか。なんで俺がお前に渡すと思うんだよ」

「――っ!」

「――と、言いたいところだが。決闘で決着を付けるのはどうだ?お互いの一番大切なものを賭けてのな」

「愚かな、魔導石一つ身に付けたところで、長年魔法の研鑽に努めた吾輩に勝てると本気で思っているのか?」

「そう言うってことは、了承したと受け取っていいんだよな?なら決まりだ。あんたが勝ったら魔導石を渡そう。その代わり、俺が勝ったら――ヤーシェハマンを貰っていくぜ!」

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