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第96話 駆け引き

 ヤティに魔導石を預けることを決めたのは、俺達がここに来るよりも前のことだった。最初の一撃だけは俺が魔法を使い、その後は戦いのどさくさに紛れてヤティに魔導石を渡し、相手から警戒されていない彼が不意を打って倒すという計画。すでにミエラのハッタリが破られている場合危険かもしれないとは思ったが、それでもまともに戦うよりはましだろうと考えた上での策だった。結果見事にはまり、魔法使いは俺の目の前で倒れ伏している。


「さてと――じゃあ、俺の力を戻してもらおうか」


 魔法使いの首筋にミルルルの愛剣、“竜の牙”を押し当てたまま俺は彼女に語りかける。後ろからはヤティが魔導石を構え、横にもヘルネ、レガス、シュリの三人がそれぞれ攻撃可能な距離に陣取る。さしもの魔法を使っても、誰か一人は彼女を攻撃できる立ち位置だ。相手もそれを分かってか、抵抗する素振りは見せずに口を開く。ヤティがそれを滑らかに訳した。


「『断りますね。そんなことをしたら貴方は私を殺すに決まってます』」

「戻さないなら、お前を殺して力が戻らないか試してやる」

「『残念ながら、それでは貴方の力は戻りません。せいぜい、あとで取り返しのつかないことをしたと後悔すればいいです』」

「それでも、お前が力を戻してくれないのなら同じことだ。可能性のある方に賭けるさ」

「『どうぞご自由に。それで貴方の力が永遠に封じられるなら、この身を犠牲にするのもやむを得ません』」


 涼しい表情をしてそう言う魔法使いに、俺は次の言葉を見つけられなかった。ずっとこちらの不利に追いこまれていた戦いだったし、相手が優勢であるがゆえに生じた隙を突いたこともあった。しかし今では立場が逆転し、今度はこちらが優勢であるがゆえに複数の選択肢で悩まされている。

 常識的に考えれば術者が死ねばその効果はなくなるはず。だからここで魔法使いを殺すことが一番の選択なのだが、そもそも俺の力を奪った魔法の種類についても何の見当もつかない以上、万が一のことをどうしても考えてしまうのは仕方なかった。

 ならば、どうすればいいか――迷った末に、俺は一つ揺さぶりをかけてみることにする。


「お前の相棒だったドワーフは俺が殺した。力を戻してくれるなら、彼女を生き返らせることも約束しよう」

「『必要ありません。貴方を追う前は赤の他人だった相手です。そんな彼女がどうなろうが知ったことではありません』」


 即答。心の中でどう思っているのかは分からないが、少なくとも表情に出すようなことはしない。


「『それよりも――貴方の方こそ回復魔法を使いたくて仕方がないんじゃないですか?今ここで私を解放してくれたら、死人はともかく生きているミエラくらいなら、助けてあげてもいいですよ?』」

「……出まかせだ。俺の持っている魔導石でできないことが、ちょっとレベルが上なくらいのお前にできるはずがない。こちらが警戒を緩めたら反撃しようって策だろうが、そうはいくか」

「『どう思おうと勝手ですけどねえ――このままじゃあの女は死にますよ?』」

「そうしたらお前がなんと言おうとお前を殺して力が回復する方に賭ける」

「『それで失敗したらそれこそ彼女の命は永遠に失われますけど、本当にできるんですか?』」


 仲間の命を盾に揺さぶろうかと思ったが、逆にミエラを利用されてしまった。彼女の大怪我は一刻を争うレベルで、手持ちの魔導石では手の施しようがない。力が戻れば死人でも蘇らせるとはいえ、一刻も早く痛みを和らげてやりたい気持ちが強い。

 どうするべきか――頭を悩ませる俺の横で、ヘルネが口を開いた。

 ヤティが訳す前に、シュリ、レガスと次々と何やら議論していく。ほどなくしてそれは終わり、代表してヤティがこちらを見た。


「ヒカルの旦那――みんなでやろうってよ」

「え?」


 意図するところが分からず、一度聞き返す。


「俺達全員で、こいつに止めを刺そう。もし本当にこの女の言ってることが正しくて、ヒカルの旦那に力が戻らなくて、ミエラを助けることができなくても全員の責任だ。どうせこいつは口を割らない。いつまでも拘束していられるほど、俺達に力はない。もう殺すしかないんだ。そして、その結果をヒカルの旦那一人に押し付けるわけにはいかない――」


 俺は少し微笑んだかもしれない。ここに至ってまでも、俺のことを考えてくれている皆の気持ちは本当に嬉しくて――


「ありがとう。――でも、俺がやる」


 だからこそ、俺は決意を固めた。

 少しだけ剣を引き、魔法使いと睨みあう。そのまま、他の四人の行動を待たずに一気に切りつけようとして――




「○×◎●――●×□△!」

「◎○□、◎××◎!!」




「ユリィ!?それに――」


 二人の少年と少女に割り込まれた。

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