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第90話 弱者

「○×●!?…………ガゴッ!!」


 俺は全身を火魔法で焼かれ、瀕死になって倒れているミルルルを見下ろしていた。この世界の言葉を聞き取れなくなっている俺でも、今の彼女が何を言いたいのかは分かる。どうして自分が倒れているのかが理解できないのだろう。だから俺は彼女に、自分の持っている魔導石(・・・)を見せた。それを見て――どうやら視覚はまだ無事だったらしい――ミルルルの瞳が驚愕に開かれる。

 Lv100クラスのものではない。あれはエルフの里に行ったときにシャラムンに見せつけたあとすぐに廃棄していた。おそらくミルルル達もそのように読んでいたのだろうが、それに間違いはない。万が一にでも落としたりしたら後々ややこしくなるのは目に見えているから廃棄せざるをえなかった。では、今俺の手元にあるのはいったい何かというと――Lv010クラスの魔導石。これも、別に大量生産していたわけではなく――たった一つ、俺がミエラにお守り代わりに渡していたものだった。



『ミエラからこれを預かってる、もしものときのための防御、あるいはカウンターとして使えるかもしれないって』


 ヤティが俺に魔導石を渡して来たのは少し前のこと。ミエラはあえて丸腰で危険な戦いに向かい、自分が来ていることでゼラード商会の方には魔導石が置かれていないと油断させる策に出たとのことだった。

 二人を相手にして奇襲に成功すれば最高、しかし何が起こるか分からないためにゼラード商会にも最初から防御の策は必須。それならば、ミエラがそのまま残るのでもいいが、魔導石だけ残しておくことでもしも敵が奇襲部隊と出会ってからゼラード商会に行ったときに、魔導石は存在しないと油断させることができる――ただし、ミエラの危険と引き換えに。

 彼女を危険に晒しているのが不満だったが、その話を聞いてすぐ、実際にミルルルが来たのだから仕方ない。そしてミルルルは俺の部屋にやってきて――返り討ちにあったというわけだ。彼女は最後の最後で油断した。最近は苦労もしていたようだが、それでも生まれと育ちがよすぎたために、ついつい自分にとって都合のいい方しか考えないような思考回路ができてしまったのだろうか。それとも、俺の力がなくなったということに過度に期待しすぎたか。あるいは、何も考えず単に自分の力を出し切って戦いたかっただけなのか。

 全て真実の一部を映しているような気もする。ミルルルだって、そんなに簡単に言葉で表せるような敗因だったとは思いたくないだろう。

 言えるのは、ただここに結果があるというだけのことだ。

 俺は今立っていて、ミルルルは今倒れている。




「だから言ったろう――本当の弱者は、お前だって」


 そう言って、俺はミルルルに対して魔導石を構えた。


「悪いけど、今回は遠慮してられないんだよ。お前とコンビを組んでいる魔法使いも随分と強いし、あいつにかけられた魔法を解いてもらわないと仕方ない。それから、俺より先にお前とぶつかったゼラード商会の皆の具合も気になるところだ。どれもこれも、お前みたいな危険人物を縛って見張りも付けず放置するくらいでどうにかできる内容じゃないんだよ――だから、悪く思うなよ」


 ミルルルだって、俺を本気で殺そうとしてここに来たのだ。悪く思われる筋合いはない。それでも、少し躊躇してしまう。その間に、律儀にヤティが俺の言葉を訳した。

 ミルルルはそれを聞いても、恐怖に震えるようなことはなかった。ただ最後に、にやりと笑って何かを言った。

 それを訳されるのが何故か怖くて、俺はヤティの言葉を聞かず――土魔法で特大の石の壁を作り、ミルルルを殴りつけた。




「さあ、旦那行こうか」


 ミルルルを処理(・・)し、他のメンバーの傷を調べる。幸いミルルルにとっては剣を抜くほどの力は皆なかったので、蹴り飛ばされて気絶しているくらいのものだった。俺自身もミルルルにしこたまやられたが、気力と魔導石を使った治療でなんとか普通に動けるほどにはなっていた。

 自分と仲間の治療を終えたタイミングで、ヤティに声をかけられる。どこへ、とは問わない。魔導石がここに不要になった以上、戦力としてこれを遊ばせておくわけにはいかないのだ。

 だから俺達は、ミエラ達が向かった宿へと急ぐ。

 きっと、これが最後の戦いだ。

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