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レベル0に見えますが実はカンストしてるんです  作者: 酢酸 玉子
第9章 オートランドに集う
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第85話 包囲

「なかなかオートランドの宿もいいところですねぇ」


 メヒーシカがベッドに腰掛けてほうっと息を吐く。その様子を見て、ミルルルは肩を竦めた。


「キミは本当に神経が図太いのか細いのかよくわからないね。一刻も無駄にしたくないんじゃないのかい?」

「そりゃそうですけど、たまには気を緩めないと今度は精神が参ってしまいますからね。何事もバランスです。ちゃんと今後の予定は決まってますよ」

「ほう、ちなみに何をするつもりなの?」

「宮殿に行って情報収集します。城島ヒカルの支配下に置かれているのか、潜在的には敵対しているのかなどなど、何か彼についての情報がつかめるでしょう。居場所が分かれば充分いいんですがねえ」

「ふーん、ちゃんと考えてはいたんだね、さすが――」


 のんびりとしているように見えても、その実は城島ヒカル探しの手を緩めているわけではない。それに安心したミルルルは、自分も少し気を休めるかと窓の外を見た。ヒックスと言った“ゼラー”の少年の宿選びは見事なもので、視界にはオートランドの街が広がっており実に絶景だった。

 しかし――ミルルルは眼下に違和感を覚える。よく見てみると、道の陰に隠れている老人の姿が目に入った。


「“格闘術”Lv010とは珍しいな……何をしているんだ?」


 更に周囲を見てみると、他にも“短剣術”Lv010の少女が潜んでいる。――“短剣術”?確か、ジャイの街に着く寸前に戦った少女も、短剣使いではなかったか?

 あの時は薄暗かったし、今は遠目。はっきりとは言えないが、そうそう短剣使いに縁があるとも思えない。


「メヒーシカ、囲まれてるかも」


 ミルルルは振り返り、メヒーシカに告げた。

 にへっと弛緩した表情でベッドに横たわっていた彼女は、ミルルルの声と表情ですぐに真面目な雰囲気に戻る。


「どういうことですか?」

「“格闘術”Lv010に“短剣術”Lv010がいる。“短剣術”の方は多分ジャイの直前でボクが戦った相手だ。他にも誰かいるかもしれない。負けるとは思わないけど、全貌が分からない相手と戦うのは危険だ」


 汗が一滴、メヒーシカの頬から滴り落ちる。


「ああ……もうなんでこうなるんですかねえ!……力を失った城島ヒカルなんて、誰も見向きもしないと思っていたのに……」

「――やっぱり、城島ヒカルは力を失ってるんだね」


 あ、という顔でメヒーシカが固まる。それを見て、ミルルルは苦笑した。


「そんな顔しないでよ。ヒックスに道案内される前にもキミ、ぽろっと似たようなことを口走ってたし」

「へっ!?嘘っ!私、そんなこと言ってました!?」

「残念ながら。隠したがっていたみたいだから、スルーしてあげてたけどもうそんなことも言ってられないよね?」


 メヒーシカが恥入るように顔を真っ赤にする。だけどもそれは自分に対しての警戒が薄れたが故のことだったのだろうと思うと、ミルルルは少し嬉しかった。


「――はい、黙っててすみません……城島ヒカルの規格外の力は、私が魔法でなくしました」

「そりゃすごい、あんな力をよく奪えたね」

「子供騙しみたいなもんですよ……言葉遊びと言ったほうがいいかもしれないですけど……」

「なんでもいいさ。キミが他の誰にもできないようなことをやってのけたのは事実だ」


 素直な気持ちで、ミルルルはメヒーシカを称賛する。メヒーシカは恥ずかしそうに目をそらした。


「それで……その……こんなことを聞くのはどうかと思うんですけれど……ミルルルは城島ヒカルが力を失っているって聞いても、本気で彼と戦ってくれますか?」

「ははっ、何を今さら。薄々感づいていたことだし、いいさ。確かに最初から知っていたら、興を殺がれたかもしれないけれど……乗りかかった船だ。それに、例え力を失っていたとしても――城島ヒカルは敵として不足ないと、キミと旅してよく分かったからね。ボクは今まで通り、城島ヒカルを追うことにしよう」


 その返事に、メヒーシカははっと顔を上げる。

 そして瞳に決意をたぎらせて、言った。


「では――私が囮になりますから、貴女は城島ヒカルの所へ行ってください。ここに戦力を投入している以上、必ず彼の元は手薄になっているはずです」

「ちょ、それって……」

「これほど短時間で居場所が割り出されたのはあの案内人の子が関係しているのは間違いありません。彼に悪気があったかは知らないですけど、総本部は名前からしてゼラード商会で間違いないはずです。特定できたことを逆手に取りましょう」

「いや、そうじゃなくて……」

「大丈夫。私が彼の力を奪った張本人であることは、向こうも気付いているはず。殺さずに捕らえたいんですよ私のことは。だから、囮になるのは私の方が向いています。それに――アレ(・・)でかけていた保険も、単に仲間を増やしていただけじゃなくて、城島ヒカルの力に関するものなんです」


 ミルルルはメヒーシカの目を見て――彼女の意志を翻すのは無駄だと悟った。それに彼女の言うことは確かに理にもかなっている。


「……わかった。それじゃあ、死なないように気をつけて」

「貴女もですよミルルル」


 そう言ってほんの少しだけ微笑み――メヒーシカは窓から飛び降りていった。

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