四月二十四日、不穏
【シンイチ】
遠くの暗闇が突如光った。
一瞬遅れて爆発音が響く。
だが次の瞬間には、何事も無かったかのように街は再度静寂に包まれた。
ーー何があった…?
あの方角は工業地帯だろうか?
工場の事故でも起きたのだろうか?いや、そんなはずはない。
夜中の二時。こんな時間だ。工場が稼働しているとは考えにくい。そもそも、爆発音を起こすような作業をしている工場は少ない。事故ではないだろう。
では、事件かーー?
ありえない話ではない。今の横浜は治安が悪い。不良達が何かしでかした?あの爆発音だ。かなりの事をしでかしたのだろうーー。
ーー!コウジは!?
確か、コウジは店長が配達すべきエリアも請け負っていたはずだ。配達が順調ならもう工業地帯を抜けているはず、しかし、巻き込まれた可能性も否定できない。
嫌な予感がする。
配達用のバイク、その荷台を睨みながら考える。
僕は配達コースを抜け、バイクを走らせる。
何もなければそれでいい。
だがーーーー。
【少女】
「まったく、あんたはなーんで派手な事するかなぁ」
粉塵を払いながら、工場を爆破した張本人に向かって言ってやる。
急に工場ごと破壊されたらたまったもんじゃないわ。
しかし、横にいる大男は目線を合わせる事もなく「これが効率的だ」とだけ返してくる。
「そうじゃないでしょ!騒ぎなんか起こしたら面倒がーー」
「今は夜中だ。こんな時間のこんな場所に人通りなどない。」
「〜〜〜〜〜〜〜っ!」
むかつくむかつくむかつくむかつく!!
気に入らない!なんでこんな奴が私のパートナーなのかしらっ!
無口だし、愛想ないし、さらには空気だって読めない!
リスクを減らそうって考えくらい持ちなさいよ!
……いっそ、任務のついでにこいつも殺しちゃおうかしら?
別にいいわよね、こいつがいなくったってなんとかなるし。
真っ赤なドレスの端をいじりながら考える。
決心しかけた時、粉塵の中に影ができた。
ーーきた!
目を見開き、大きく息を吐きながら影に突進する。
早く終わらせて、こいつを殺そう。
そして、家に帰って録画したアニメ番組を観るのだ。
ああ、楽しみーー。
【シンイチ】
なんだこれは。
百メートル程先、瓦礫の山を見て思考が停止しかけた。
工場だったであろうモノはあちこちで火が上がっていて、爆発時の凄惨さを主張している。
予想していたよりも大惨事だ。もし工場に人がいたとして、生きてはいられないだろう。
捻ったハンドルを少しずつ緩める。
これは、警察に連絡するべきだろう。
これ以上近づくのは危険だ。近くの工場に燃え移り二次三次の爆発が起きないとも限らない。
バイクのスピードをほとんど殺しブレーキに指をかけたところで、瓦礫の近くに見覚えのあるバイクが目に映った。
周囲には、灰色の紙が散乱している。
「ーーコウジ!?」
戻したアクセルを再び強く捻る。
間違いであって欲しい。ーー僕の勘違いであって欲しい。
だが頭は、近づけば近づく程あのバイクはウチの支店の物で、コウジのバイクだと確信してしまう。
さらにバイクの付近では、ところどころ地面に赤がまだら模様を作っていて焦燥を募らせる。
血痕は、未だ燃える工場へと続いていた。
僕は乗っていたバイクのスタンドを立てる事すら忘れて炎へと向かった。
背後で地面と金属のぶつかる音、紙の飛び散る音が鳴る。ーー関係ない。
コウジーー無事でいてくれっ!
ーー鼓動が早い。不吉な予感がする。