17
牙狛侯が不穏な動きをしている頃。
孔游の居城・沙隆で蒐賽がいなくなった
我箕をどうするか、話し合っていた。
「私はこのまま、透徹殿が我箕の護りに付くのが
宜しいかと……」
劉・小狼が我箕から戻ってきたばかりの透徹が
我箕の護りに付くように孔游に推挙した。
「いやいや…… わたしのような未熟者が我箕の
護りには向きません。 わたしより劉・小狼殿が
我箕の護りに付くべきだとわたしは思うのですが……」
透徹は透徹で孔游に我箕の護りを付くべきと
孔游に進言した。
考えた末、蒐賽の兵を撃退した功績を認め、
孔游は我箕の護りを劉・小狼らに任せることにした。
関遼や張爛は蒐賽の拠点だった我箕を自分らの手で
治められることに大いに喜び、出発の準備を整えていたが
劉・小狼も水蓮も我箕への出発が近付くに連れ、
段々と元気がなくなっていった。
劉・小狼は自分の気持ちがわからなくなり、
沙隆内にいる、月影のもとを訪れた。
月影は自分の元にやって来た劉・小狼のことを
優しく微笑みながら
「やはり、来ましたね…… 来ると思いました!」
と言い、迎え入れた。
月影の部屋に入った劉・小狼は今の自分のわからない気持ちを
素直に月影に話した。
真剣に劉・小狼の話しを聞いていた月影は劉・小狼が話し終わると
劉・小狼の顔をじっと見詰めたまま、
「これから民を束ねて、覇道を突き進むなら、
一時の感情の迷いを振り払わないと……」
と一言、劉・小狼にそう言った。
劉・小狼には覇道のことなど、まるでわからなかったが
月影に言われ、水蓮のことを忘れようとしたが
水蓮のことを忘れようとすればするほど、水蓮への思いは
募るだけだった。
結局、水蓮に自分の思いを伝えられないまま、
劉・小狼は関遼と張爛と共に我箕へ向かった。
水蓮もどうしても自分の思いを劉・小狼に伝えようとしたが
すでに劉・小狼は沙隆の城門を出た後だった。
水蓮が失意のもとで自分の部屋に戻ると部屋の机の上に
一厘の真っ白な花と劉・小狼から水蓮への手紙が置かれてあった。
『ごめんなさい…… お挨拶もせず、沙隆を去り、
我箕へ向かう事を…… お身体に気をつけて、お元気で!
また、会う日まで!……』
と劉・小狼の精一杯の想いがその手紙に書かれていた。
その手紙を詠んだ水蓮は泪を零しながら、自分の部屋を
飛び出していた。
劉・小狼らは蒐賽の拠点だった我箕に着き、
蒐賽の屋敷だった所に一先ず、腰を下ろした。
劉・小狼は手分けして我箕の内政に取り組んだ。
蒐賽の時の悪い法律や風習などを廃し、
我箕の民の為に良い法律や風習などをドンドン、取り組んでいった。
関遼はそんな劉・小狼の補佐を勤め、
張爛は田畑の整備や我箕の防備など、治安に当たった。
見る見るうちに我箕の内政や治安はよくなり、
我箕の民は蒐賽の時に蒐賽を恐れて、暮らしていたとは違い、
劉・小狼らに感謝し、それぞれ、生き生きと暮らしていた。
そんな我箕での劉・小狼らの手腕はすぐに沙隆の孔游のもとや
水霞曉のそれぞれ、4侯のもとにも伝わっていった。