第四写:世界―種族と魔法―
お待たせしました第四話です。いやぁめっきり寒くなってしまいました。僕が住む地域にはもう雪が降っきて、コタツから離れられない日が続いています。
この世界における魔法とは、この世界の生物がみな共通して行使できるらしい。魔法の行使に必要な物は、術式と体内魔力、それから外的魔力の三種類。それぞれその名の通りの意味を持ち、術式はエナジーとマナに、魔法の命令式を指示し、現象を発現させる式であり、口で呪を唱えるやり方や、頭の中で構成する方法の二つがある。前者は比較的簡単で、後者は雑念を払う必要があるのでかなりの集中力が要求される。
エナジーとマナの二つは、その名の通り自らの体の内にある魔力と、空気中に漂う惑星魔力を指す。魔法行使の割合では、エナジー7:マナ3の割合がベストらしい。余りマナに頼りすぎると、自らの体がマナに侵食され、術者があらゆる形で自然に回帰してしまう。例えば風や土、木になったり水や火に変わってしまう者までいるらしい。
「例えばそうですね…………。灯火。」
ルルドさんの声に答えるように、左掌に暖かな火が灯る。
「この魔法は一般で最も普及している初期魔法です。とはいっても、いまや機械とマテリアルを使えば簡単に光は生み出せますがね。」
マテリアル。ルルドさん曰く、魔法職人と言われる職の人が、己のエナジーと、行使できるマナを操作して、魔法結晶内で魔法の現象を発生させ、それを封じ込めた物らしい。もとは戦略兵器級の魔法、戦略魔法を封じ込め、決戦兵器として使用したり、魔法を入れた魔法結晶を加工し、魔法剣にしたりと、兵器としての色合いが強かったが、科学の登場で科学用品の永久的エネルギー源として、一般に普及したらしい。故に、こういった日常魔法の大半は、電気系マテリアルを使う電球にとって変わられたらしい。
「まぁもともとエナジーや身体能力が低い種族である我々純人族からしたら、ある意味やっと他の種族と同じ土俵に立てたと言ったところですよ。」
そう、この世界での人類は非常にか弱い。身体能力で言えば亜人や魔獣に劣り、魔法技術や魔法知識で言えば魔族に劣る。
「トマトおかわり!」
現在は科学の恩恵もあり、何とか他の亜人、魔人、魔獣の三種族とも、平面上は対等な間柄ではいるが、その内情。経済格差によりズタボロな人類、この世界の言葉に直せば純人と呼ばれる種族は、今だ半歩劣るといって差し支えないだろう。
因みに、今幸はトマトスープ10杯目に突入した。
「今や種族間での力関係は一部の魔物>残りの魔物=魔族>純人族=亜人ですからね。最初の頃よりは遥かにマシと言えましょう。しかし、だからといって余波で生まれた奴隷の存在を、許すわけにはいきませんがね。」
なるほど………。この世界に関しては、ある程度分かってきたぞ。しかし納得がいかないのは、何故俺がこの世界に来たのかということ。例えば、空間を跳躍するような魔法も、世の中を探せばあるのかも知れない。実際、幸が現れた黒い霧もそういった類いのものなのかもしれないからだ。がしかし、世界軸を越えることは、はたして可能なのだろうか?
「さぁ話はこの辺にして、長旅でお疲れでしょう。今日はもうお休みになられてはどうでしょう?」
ルルドさんに言われ、腕時計を確認してみれば、夕食をご馳走になってから既に4時間が経過し、時計の針は11時を指し示していた。
因にだが、ルルドさんの屋敷に来る前に、ルルド工業の社内見学を特別にさせてもらった。感想を率直に言えば、社内でのルルドさんの信頼され方は、予想を遥かに上回っていた。自身を元奴隷だと語った隻腕の男性は、「彼がいなければ、自分は人間扱いされないまま、惨めに死んでいくだけだった。そんな状態の自分を救ってくれたルルドさんには、感謝してもしきれない。」と語る彼の右の耳には、一つの金色のピアス、エルドリングがぶらざがっていた。
どうやら、ルルドさんが語っていた、奴隷への支援活動や、社会復帰援助の活動は、本当に行っているようだ。そして彼と会話をするにつれ、彼の人としての性質は、信頼における物だと俺は確信し、警戒を完全に解いていた。
「えぇ、ではお言葉に甘えさせて頂きます。ほら幸、もう行くぞ。」
「えぇ!まだ食べたい!」
「少しは自重しなさい!」
「じちょうってなぁに?」
「行いを慎む。つまりは加減をしろってことだ。」
「うぅ……分かった。幸、じちょうする。」
耳をしゅんと垂らし俺の注意を聞く。幸は基本的には素直な良い子だ。
「じゃぁリン。お二人をお部屋に案内してさしあげて。」
「かしこまりました。」
ルルドさんの隣にいた初老の女性が、恭しく頭を下げ、「どうぞこちらへ」と俺達を案内する。ルルドさんの紹介を聞くと、リンさんはココのメイド長をしているらしい。白髪混じりで深いシワが入った顔だが、年不相応に背筋が伸び気品に溢れ、若い頃はそれはそれは美人だったのだろうというのがよくわかる。正直、ルルドさんよりも代表取締役の肩書きが似合いそうなお方だった。
「それじゃぁルルドさん、失礼します。おやすみなさい」
「おやすみなさい。」
ルルドさんに頭を下げながら俺が退室すると、見よう見まねで幸もお辞儀し、俺の後についてきた。それをルルドさんは、にこやかな表情を浮かべながら、手を振り俺達を食堂から送り出した。
「それでユウスケ様。お部屋の方は、一応二部屋ご用意させて頂きましたが……。」
「あぁ一緒で構いませんよ。幸を一人にしたら、部屋中しっちゃかめっちゃかにされちゃいますよ?」
「かしこまりました。」
本当の理由は違う。幸は、一人になると凄まじく泣き出すのだ。奴隷時代の辛い経験故かは知らないが、本当に辛そうに泣くため、俺の良心が酷く痛む。俺がそのことを知ったのは、彼女と出会った二日目の朝だ。幸をテントの中で寝かせ、俺は外で寝ていた。幸よりも先に目が覚めた俺は、顔を洗い、衝動に刈られて、少し周りの風景をフィルムに収めようと写真を撮りまくった。すると突然後ろから、壊れたような泣き声が響いた。その時になって気付いたが、俺はテントからだいぶ離れてしまっていた。それに気付き、すぐさまテントのもとに戻ると、声の張本人は幸であり、俺を見付けるとすぐに抱きついてきた。それから幸は、俺のすぐ近くを付かず離れず歩くようになった。孤独を恐れるような幸の行動には、やはり奴隷時代の経験が影響しているのだろうが、今の幸にそれを聞いても、答えられないだろう。それに、将来的見ても聞く気は毛頭ない。
とまぁそんなわけだから幸を一人にするわけにはいかないのだ。
「ではこちらの部屋になります。明日の明朝に、また参りますのでどうぞお休みになって下さい。」
「分かりました。じゃぁリンさん、おやすみなさい。」
「おやすみなさぁい。」
「ハイ、良い夢を。」
―――――――
「………。」
ここは、ヴァーグ・ルルドの書斎。雄輔達が眠る部屋が一階の東端で、この部屋は三階の西端に当たる。つまり、雄輔達の部屋から一番遠い部屋となる。
ピー。
不意に響く機械音は、ヴァーグの執務机の上に置かれた内線からだった。ヴァーグは、何かを書き込んだり、調印をしたりしていたぶ厚い書類の束から目線を外し、握っていた羽ペンを仕舞うと、「どうした?」と受話器をとり、内線の向こうにいる何者かに話しかける。
『旦那様、エドガー様よりお電話で御座います。』
受話器の向こうから聞こえた声は、低く、厳かで、良く響く男の声であった。この声の主は、この屋敷で執事長として働いている魔族のナナクツという老人の声である。
「分かった、繋いでくれ。」
『かしこまりました。』
ナナクツが答えると、直ぐに内線が切り替わり、別の何者かと通話が繋がる。
「どうもエドガーさん。こんな夜遅くにどうしました?」
雄輔達と話していた時よりも、少し嬉しそうに電話の向こうの相手、エドガーという人物と話すヴァーグ。エドガーの返答は、ヴァーグの耳にしか聞こえない。
「……流石ですね、もう気付きましたか。………えぇ、黒兎の亜人が現れたということは、間違いなく復活します。………………分かっています、最悪の事態だけは避けねば。しかし…もう1つ気になることが、……………えぇ、あの男です。魔法を知らないということは………………可能性は否定できません。もし、彼が『異訪人』であるならば、やはり時代が『改変』の時を迎えようとしているのかも知れません。」
雄輔達と話していた時の、人の良さそうな中年男性の雰囲気から、駆け離れたヴァーグの今の口調。その声は、一企業をまとめ上げる男の風格が漂っていた。
「えぇ、離しませんよ。それに、彼が異訪人であるならば、他に行き場など無いでしょう。……………分かりました、詳しい話はまた後程。では。」
ヴァーグは話を切り上げ受話器を置き、「ふう」と溜め息を吐く。疲れを感じたのか、目頭を軽くマッサージする。そして、再び受話器を手に取り内線を繋ぐ。
『いかがなされましか?』
「すまないがコーヒーを書斎に頼む。」
「かしこまりました。」
機械からナナクツの厳かな声が届く。それから一分もせずにドアがノックされ、ナナクツがコーヒーを片手に入室する。
「すまないね。」
「いえいえ、滅相もございません。」
軽い挨拶を交えながらコーヒーを受けとるヴァーグ。それに対し、恭しいお辞儀で答えるナナクツ。
「今日は徹夜になる。またコーヒーを頼むかもしれないから、すまないが、君も起きていてくれないか?」
「かしこまりました。しかし、ヴァーグ様。ここ一週間あまり睡眠をとられていないご様子、少々お休みにならなければ体に毒でございます。」
「あぁ、今日の書類が済めば明日は眠れるはずだ。心配をかけて済まないね。」
「勿体なきお言葉、恐縮です。では私はコレで。ご用の際はいつでもお申し付け下さい。」
「あぁ、ありがとう。」
深々と頭を下げたナナクツに対し、軽い会釈で送り出す。そしてコーヒーカップを手に取り、まずコーヒー独特の芳ばしい香りを楽しんでから軽く一口含む。ブラックコーヒーだけが醸し出せる苦味に酔いしれ咀嚼。とても満足そうな表情を見せ、コーヒーカップを元の位置に戻し仕事の続きを開始する。
そうして、今日も今日とて、夜の闇は深まるのだ。
どうも、雄輔です!
なんだかんだで、皆さんにこうしてご挨拶するのは初めてになりますね。
えぇと、後書きでの俺の仕事は………次回予告……だけ?
えぇ〜少しはトークさせてよ。
え?ダメ?そりゃ残念。とにかく次回予告しなきゃか。
つってもタイトルと投稿予定日だけだけどね。
次回、第五写:ウサギ。投稿予定日は2012年12月18日です。
じゃぁねぇ〜。