第零写:青年は撮る
お久し振りorお初です、晴れの日です。本サイトでは始めてのオリジナルです。
「いいか、雄輔。俺達が撮るべきもんは、戦争の悲惨さや、地元民の涙じゃねぇんだ。戦争の中でも、懸命に生きる人達の笑顔だ。」
俺の師匠である叔父さんは、戦争の無益さや理不尽さよりも、その中でも懸命に生きる人達の笑顔にフレームを向けていた。
俺からしたらこの仕事。戦場カメラマンとしての仕事の師匠である叔父さんの、この考え方だけどうしても理解出来なかった。叔父さんも、「この仕事を続けて行けば、お前もいつか分かるさ」とだけ言って、その先を教えてはくれなかった。
そして、教えてくれないまま叔父さんが紛争の取材の中、流れ弾に当たり倒れた。運悪く頭を撃たれ、即死だったらしい。俺が15歳の時、ちょうどよい中学三年の時だった。
「叔父さんが逝ってからもう二年か……。」
高校に行かないで、すぐに戦場カメラマンとして戦場に出たことに後悔はない。あるとすれば、家を出る時に両親と大喧嘩したことと、妹を日本に残しっぱなしであることだ。少しせっかちな気もあり、余り目が離せる妹ではなかった。だが、しっかり者の両親がついている、俺が心配する必要もないだろう。
「ユウスケ、時間じゃないのか?」
「ん?あぁ本当だ。ありがとう、すぐ出るよ。」
カメラの手入れをしていたところ、部屋の外から不意に声を掛けられる。
腕時計を確認すれば、予定の時間もあと少しまで迫っていた。俺は、手入れをしていたカメラを首にかけ、昨日の夜の内に纏めていた荷物を背負って、部屋を出た。
「すまない、ハリー。」
「気にするな、道中気を付けろよ。」
「うん。じゃぁ、行ってくるよ。」
部屋の外にいたのは、イギリス人の戦場カメラマン、ハリー・エドワード。同じチームで行動している、頼りになる心強い先輩だ。
俺はハリーに挨拶を済ませ、ベースから外に出る。西アジア特有の強い日差しを浴びながら、俺は日本大使館に向かった。
闇。
辺りは、深淵の底のような暗闇に包まれている。例え夜行性の生き物が、ここに入ってきたとしても、ここの空間では何も見えはしないだろう。
『………ッゥ……』
にも関わらず、暗闇の中には、何者かの呻き声が響いている。それも一つや二つではない。百、千と数え切れない量の何かの声が、この空間に木霊していた。
「……目が覚めてきたみたいだね。」
不意に、ハッキリとした声が響いた。少女のような声色であるが、この暗闇に怯えた様子はない。普通の少女ならば、こんな暗闇を怖がってもおかしくもないはずなのにだ。
「人柱の封印が消えてる。全く……、自分の役割を忘れた……いや、違う。これは、何か人為的な……。ふぅん。なら、僕が関与すべき事じゃないね。ふふ」
少女の声は、最初は暗かったが次第に明るくなっていき、最終的には笑いさえ零れていた。
「生き物が引き起こした事なら、生き物がどうにかしないとね。あの娘も居るし、外から誰か来るみたいだし、まっ、なるようになるよね。」
その言葉を最後に、少女の声の主は、この空間から消えた。最初からいなかったと説明されても納得出来るほど、この空間は静けさに包まれた。微かに鳴り響く声は、微睡みの中をたゆたう、何か得たいの知れない存在の唸り声だけだった。
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