幕間
クルスが目覚めた時、場面は一変していた。板張り天井が最初に目に入り、体を起こすと白い布団が次に目に入った。周りを見回すとすぐ隣の椅子にカーラが座っていたがその頭は大きく船を漕いでいた。
「ぐっ…」
何故ここにいるのかを訪ねようと声を出そうとした矢先だった。胸に鈍い痛みを感じたのだ。その痛みのせいで自分がネレスにひじ打ちを喰らって吹き飛んだことを思い出し、慌ててベッドを下りた。するとそれに気づいたのかカーラも目を覚ました。
「クルス具合はどうだ?」
「姉さまあいつらはどうなったのですか?」
「む……それはだな……。すまない、取り逃がした」
「なんですっ……いたたた……」
大声を上げようと腹に力を入れると鳩尾に激痛が走り、クルスは腹を抱えてうめき声をあげだ。
「無理するな。確かに奴等を逃したが奴等も相応の深手を負っている。逃げた兵士達も呼び戻したから明日にはまた追いかけられる。それに奴等が向ったのはガナシアの方向だ。あそこにはジュドー兄さんがいる。頼めば兵や装備を貸してくれるはずだ」
「ジュドー兄さんねえ……。私はあんまり好きじゃないんだけどなあ」
「兄さんの事を悪くいうな。変わり者だがしっかりとした政治をしているおかげでガナシアの治安はかなりいらしいぞ」
二人の言うジュドーとはカーラの義理の兄であり、クルスの実兄だった。歳はカーラより一歳しか変わらないが五年以上も前から帝国の最北の町ガナシアを統治し、独自の政策を持ってしてその治安を格段に向上させていた。
その性格は比較的温厚であり、何より和を大切にする人物だった。そのためか度々要求されるカーラやクルスの兵隊の派遣にも協力的であった。
「ジュドー兄さんよりもランバ兄さんがそこにいてくれたら一番良かったんだけどなー」
「おいおい、ランバ兄さんは忙しいんだ。それを邪魔しないためにも私達兄妹が頑張らねばならない」
「けどランバ兄さんの方が絶対に役に立つよ」
ランバはカーラの実兄にしてアルバトリア家の嫡子だった。そのため二十歳になったのと同時にこの帝国領土の北側、ノーランド地方の主要都市ルーブクスを父親の後を継いで統治していた。
「そう言うな。ジュドー兄さんは決して無能ではない。必ず私達の力になってくれるはずだ」
「そうだといいんだけどね……」
何故かクルスの顔には陰りがあった。だがそれにカーラは気付かなかった。