幕間
カーラ・アルバトリアの不機嫌さは仮面をつけていても感じ取れるほどであり、彼女につき従う兵士達は辟易していた。別に彼女は無能ではない。むしろ優秀でありアルバトリア家の名に恥じぬ兵士だった。
彼女の怒りの元は言うまでもなくあの二人であり、二人の事を思い返すだけで腸が煮えくり返りそうだった。今彼女達は二人の足取りを追って川に沿ってある街道を隊列を組んで進んでいた。その数は先ほどの半分であり、もう半分はリーズ河を渡って向こう岸に二人がいるかどうかを探していた。
リーズ河に沈んだネレスを彼女が諦めずに追っているのは自分の父親、現アルバトリア家当主に対して既に追放者の存在の報告をする早馬をだしているためその死体を何としてでも持ちかえらなければならなかったからだ。
しかしカーラを除いた他の十人余りの兵士達はリーズ河に二人が沈んだこととで死んだと思い込んでおりこれ以上無用な探索などはせず、彼等の本来の勤務地に戻りたがっていた。だがただでさえ怖いカーラが不機嫌さを滲ませているため彼等はそれを言い出すことが出来ずただその逆鱗に触れない様に静かに付き従うことしか出来なかった。
「あれは…何だ? おい、望遠鏡を貸せ」
街道を進むカーラの視界に何か壊れた茶色い物が入り、その正体を見極めるべくすぐそばにいた兵士に持たせていた多段式の望遠鏡を手に取った。
「一体何なのでしょうか?」
「あれは……壊れた馬車だな……」
その大破した馬車はつい先日盗賊に襲われたギドの隊商の物だったがそのことをカーラ達は知る由もなかった。
「そういえば…あの牙獣種は隊商を襲ったと言っていたな?」
「えぇ、あいつのせい南部からの搬入品が壊滅したそうです。おかげでまたしばらく塩の品切れが続くでしょう」
「だが奪われた物は何もない。一体何のためにあいつは隊商を襲ったんだろうか? ただの物取りではないのか……?」
「……もしかするとそれもあいつに襲われたと?」
「可能性は捨てきれん。ひとまず近づいてみよう」
カーラは望遠鏡を返すと馬の腹を蹴って勢いよく壊れた馬車に近づいた。近づいてみるとその馬車は無惨にも壊されている他にその辺りに夥しい量の血液が流れ、黒く固まっているのが見つかった。
続けざまにカーラの部下たちが駆けつけ、馬でその場を動き回ったためそこにあった半獣種の足跡と混ざり、見分けがつかなくなってしまった。そのため彼女等はその馬車を壊したのが半獣種であると結論づけることが出来ずにガルバスが壊した物だと勘違いしてしまった。
「奴等め…どうやって水棲種の手を逃れたか知らんがここにこうやって証拠がある以上まだ生きているようだな。それに隊商を襲う体力も残っているのか……随分とタフな奴等だ」
「奴等と言えば…あの牙獣種と共にいた追放者は一体何なんでしょうか?」
追放者、その言葉が聞こえた瞬間にカーラは露骨に顔をしかめた。
「知るか。だが奴は恐ろしく強い……一度領地に戻って増援を要請しなければならんかもしれないな」
「相手はたった二人ですよ? 何もそこまでしなくともよろしいのでは…」
「…お前は知らんのだな。あいつは私よりも強い、下手をこくと十人程度では全滅させられた上に逃げられる可能性がある。やはり増援は必要だな。誰かもう一人使いを出そう」
カーラは隣の兵士から紙とペンを受け取ると増援を送る旨を書くとそれを一番足の速い馬に乗っている兵士に渡し、自分の治める領地クロフィーナに走らせた。
増援が来ない内に二人に遭遇し、全滅しては元も子もないためカーラはすぐ近くにいるだろうネレスとガルバスを追うのを止め、増援が来るまで待機することにした。この待機のおかげでリーズ河から上がった二人は見つかることなく悠々と眠ることができたのだった。




