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僕の日曜日の過ごし方

作者: 紅狼めるる

土曜日、日曜日、祝日。

学生さんや社会人が待ち望む、休日。


友達と遊んだり趣味に没頭したり、きっと一般的には楽しいとされるもの。




僕には関係ない。

特に日曜日。


土曜日は行く場所があるからまだいい。

祝日はまだ調べていないからわからない。

けれど、僕にとって日曜日は確実に嫌な日である。





僕はこま太郎。

社会でやっていけない、心を病んだ二十代。

月曜から土曜まではリハビリがあるから、何かと忙しい気でいられる。

でも、日曜日はリハビリが無いからつい病んでしまう。


別れた恋人のことを想って。



いけないとは思っているけれど、僕の中で彼女は愛しいまま。

傷付けた自分が悪いから、いつまでも忘れられないまま。




今日はそんな憂鬱な日曜日。

普段なら一日布団で過ごすものの、今日はそうもいかなかった。


家に食べる物が無い、何一つ。


僕は家族と暮らしているけれど、親も兄弟も皆働いている。

食べる物が何一つ無いというのもおかしい気がするが、無いものは無い。

そんなわけで、僕は憂鬱な気分のまま外出を余儀なくされた。






スーパーまでの道のりは遠い。

僕は自転車に乗れないから歩くしかない。

憂鬱な気分の時にバスに乗るのは嫌だし。


歩く、ひたすら。

ひたすら、歩く。


ひたすらひたすら歩くと、スーパーに行く途中に横切る公園へと出た。

そして、公園の中を何となく横断していると僕の視界の端に人影。

子供ではない、そしてその人は平日によく見る顔だった。



「あのー……リハビリで一緒の方、ですよね」



僕はそう声を掛けてから、しまったと手で口を覆う。

名前も知らない相手に話し掛けてどうするんだ、こんな憂鬱な時に。


僕が声を掛けた名も知らぬ女性は、虚ろだった目で僕を見た。



「あー……よくスポーツされてる方?」





僕のこと、見てたんだ。

ふと気付くと、僕は大粒の涙を溢れさせていた。


慌てふためく女性、泣き止めない僕。

どうしよう、周りにはどういう風に見られているんだろう。

僕と同じく二十代だと思われる女性と、号泣する男。


どうしよう、涙が止まらない。

僕ってこんなに寂しい奴だったっけ。

こんなに弱い奴だったっけ。



「ごめんなさい、ごめん、なさいっ……」



僕が泣きながら謝ると、彼女は少し落ち着いた様子で僕の頭を撫でてくれた。

どうしよう、シャンプーしたの一昨日なんだけど。

僕は結構どうでもいいことで深刻になって、彼女の手が優しくてまた泣いた。


そんなやり取りは十五分ほど続いて、気が付くと僕はベンチに座っていた。

隣りには彼女、なぜか僕の右手と彼女の左手は繋がれていた。





「日曜日は嫌ですよねー……」


語尾を伸ばす独特の喋り方をする彼女が、そんなことを呟いた。

僕は彼女に向かって頷くのみ。

彼女がまだ話したそうにしていたから。


「思い出すんですよー……、別れた彼氏のこと」




あれ。


「私が傷付けたんですけどねー……って、私何言ってるんでしょー……」


ふふふ、と彼女が笑う。

どこかとぼけた彼女の声は、僕の胸の憂鬱に触れてくる。



「僕も日曜日は嫌いです。別れた彼女のことを思い出すから」



僕がそう言うと、繋いでいた彼女の左手がきゅっと僕の右手を握った。



「憂鬱になりますよねー……、一日布団で寝てるんです」


僕もです。


「ご飯が無いから出て来たんですけど、歩き疲れちゃって」


僕も同じ感じ。





気付くと、僕はゆったりとした彼女と過去の話をしていた。


どういう人と付き合っていた。

どういう風に傷付けた、別れた。

それからどうしたのか、今はどうしているのか。

普段はどういうことをしているのか。

趣味は?



過去の話から今の話へ。

僕と彼女は、お互いの名前も知らないのに長話を続けていた。

続けるだけの意味があった。


お互いの憂鬱を溶かすような、何かが。






そして、僕と彼女は一緒にスーパーへ行くことにした。

途中、お互いに名乗り合った。


彼女は佳代子というらしかった、やっぱり二十代だった。



スーパーへ歩き出したきっかけは、お互いのお腹が鳴ったから。

佳代子さんと顔を見合わせて、僕はくすりと微笑んだりした。






自分と同じように日曜日を過ごす、同じような傷を持つ女性がいた。

その事実は、少なくとも僕を憂鬱の沼から少しだけ引き上げてくれた。


スーパーでの買い物が終わると、お互いにこう言った。



「来週の日曜日も話しませんか?憂鬱だったら」




きっと、もう僕らに憂鬱じゃない日曜日は無いのに。

何故かというと、もう布団に籠もっているだけじゃ晴れないような気持ちになったから。




僕の日曜日の過ごし方。


同じく心を病む佳代子さんとお喋り。






途中まで帰り道が一緒だった僕らは、自然と手を繋いで歩いていた。


胸の中の憂鬱は、少しだけ減っていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


こま太郎と同じく日曜日が憂鬱なめるるです。


私の日曜日も変わりますように。

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