さかな。
さかな。
空をゆうらりと泳いでいく魚たち。
透明度の高い姿に青空を透けさせて、何百もの尾鰭が揺れる。
たぶんあれは悲しみだ。
行き場のない綺麗な悲哀なんだ。
「さみしいね」
そう言って握られた手は冷たかった。
「さみしくなんかないよ」
握り返してみてもその手に力は入らない。
「否定するからさみしいの」
「僕ら、どこにも行けないね」
「そうよ」
これからもね――そう笑って、とんっと君は地面を蹴った。
ふわりと浮いた片足と続いて浮いたもう片方の足。
握られた手はまだ繋いだまま。
「えらんで」
君の瞳が空を映して揺れる。
見つめられたまま、小さく笑った。
「さよなら」
僕は魚にはならないのふり解いた手を君は淋しそうに見つめて、そっと頷いた。
「さようなら、もう一人のわたし」
そうして君は魚になった。
悠々と空に身を翻す。
やがて青に紛れて、尾鰭さえ見えなくなった。
「さようなら、僕は地上に生きてくよ」