表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NTR勇者、我が道を征く〜闇に堕ちた英雄は、復讐を誓う。〜  作者: アルファベータ
2

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/21

第11話 簒奪者の聖域



 第一神聖騎士リュークの軍勢は、規律正しく丘を埋め尽くしていた。

 白銀の甲冑が陽光を反射し、眩いばかりの「正義」の壁を形成している。その中心に立つリュークは、抜けるような碧眼を細め、眼下の廃墟を見下ろしていた。


「……悲しいことだ。かつての英雄が、これほどまでに醜悪な闇に身を落とすとは」


 リュークの呟きは、背後の兵士たちに「正しい憐れみ」として伝播する。オーラの社会的誘導は、すでに彼らの思考の根幹を書き換えていた。彼らにとって、これから行うのは虐殺ではなく、慈悲深い「滅菌」なのだ。


 対する丘の麓。アルスは一人、折れた街灯の影に立っていた。外套のフードを払い、露わになったその顔には、かつての復讐鬼が帯びていた刺々しい殺意はない。むしろ、理不尽な運命を静かに受け入れ、それでもなお世界を憂う聖者のような、あまりにも「もっともらしい」静謐さが宿っている。


 「アルス、……。あの顔が、魔王のそれであるはずがない」


 先行した騎士たちの中に、動揺が走る。彼らがオーラから聞かされていた「醜悪な怪物」のイメージが、目の前のアルスという実像によって激しく矛盾を起こし始めていた。


「惑わされるな! それこそが奴の、人をたぶらかす闇の術理だ!」


 リュークが叫び、聖剣『エクスシエル』を抜いた。


 一閃。


 空間を切り裂く聖なる波動が、アルスの立ち位置を粉砕する。爆煙の中、アルスは紙一重で回避し、影の中から一条の黒い鎖――【略奪者の鎖】を解き放った。


 「リューク。お前が握っているその剣の重さを、お前は本当に知っているのか?」


 アルスの声は、どこまでも澄んでいた。その響きに含まれる「真実味」が、リュークの脳髄を直接揺さぶる。

 

 「黙れ、逆賊が! 我が剣はオーラ様が授けし正義の証! お前のような、仲間を売り、女を弄んだ汚物に語りかける言葉などない!」


 リュークは盾を構え、光速の突進を見せる。ガイルの力とは違う、洗練された「速さ」と「信仰」の重圧。だが、アルスは動じない。彼の眼――【略奪者の眼】は、リュークの体内で循環する魔力の流れ、そしてその根底にある「オーラへの依存」という精神的な欠損を、冷徹に解析していた。


 「……そうか。お前もまた、空っぽなのだな」


ズブ


 アルスは自らの掌を、リュークの放つ聖なる輝きの中にわざと突き出した。ジリ、と肉の焼ける音がし、鮮烈な赤い血が飛び散る。その血は、魔物のような濁りなど一切ない、あまりにも純粋で、生々しい「人間」の赤だった。


 「なっ……!? 貴様、何故避けなかった……!」


 自分の正義の一撃が、無防備な「人間」の肉体を傷つけたという感触。その事実が、リュークの精神に致命的なノイズを走らせる。アルスは傷ついた手を血に濡らしたまま、微笑んだ。その微笑みは、悲しみに満ちた善人そのものの形をしていた。


 「痛いか? リューク。俺も痛い。……だが、俺の痛みは俺だけのものだ。お前のように、誰かに与えられた『正しい痛み』ではない」


 アルスは血に濡れた指先を、リュークの白銀の盾に触れさせた。

 

 瞬間、略奪の因果が発動する。盾に刻まれた聖紋がどす黒く変色し、リュークが拠り所にしていた「みんなが善と言うから善」という安寧のネットワークが、アルスの「個の血」によって汚染されていく。


 「やめろ……。私の正義を、汚すなあああッ!」


 リュークの叫びは、もはや騎士のそれではなく、拠り所を奪われた子供の悲鳴に近かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ