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第5話 花明かりと祈り

 歩き出したアデラの背後から、聞き慣れた声がした。

「そろそろ、お戻りになりますか?」

 振り返ると、アシェラが立っていた。


 いつの間に戻ってきていたのか。

 アルトに案内されている間は離れて護衛してくれていたのだろう。

 朝と同じ服装なのに、何故か少し街に馴染んで見える。


「……もう少しだけ。アルトが言ってたの。“花明かり”っていうの、見てみたい」


 アシェラと共に西の広場へ向かって歩き出す。

 日が落ちていく時間帯になり、街では屋台や露店をしまう人たちが忙しく働いていた。石畳のあちこちに、落ちた花の残骸が見える。

 祭りの終わりを感じながら、アデラは踏みしめるようにゆっくりと歩いた。


 西の大きな広場には、すでにたくさんの花明かりが集まっていた。 

 木の枝に結ばれたもの、石畳に置かれたもの____布切れや紙の切れ端、薄い木の葉で包んだ小さな灯りがあちこちに置かれて柔らかな光を湛えている。

 風が吹くたび、火はわずかに揺れて、透ける花びらの影を変えた。


 ひとつ、またひとつと、花がやさしく灯る。

 アデラとアシェラは広場入り口の露店で一つずつ花明かりを買った。


「この花に、願いを込めて火をつけるんですって」 

 

 広場の隅の方に買った花を置き、近くの花から火をもらう。

 そっと中の芯に火を灯した。

 地面にぽうっ……と小さな光と細い煙。

 二人はしゃがんでその光をじっと見つめていた。


「この火に、何を願われたのですか」

「そうね……内緒よ。アシェラは?」

「では私も……内緒です」


 色とりどりの明かりは、しばらくすると芯が燃え尽きて消え、また新しい灯りが灯される。

 一つ一つに人々の大切な願いが込められている。


 まだ足元の明かりが揺れていたが、アデラは立ち上がった。

「行きましょう」

「よろしいのですか?まだ……」

「いいの。夢が終わるところは、見たくないから」


 灯が消えてしまうその前に、この宝石のような一日を胸に閉じ込める。


 幻想的な花灯りを目に焼き付けて、アデラは広場に背を向けた。

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