第35話 安堵と発見
控え室の扉が閉められた。
弔問の長い列がようやく終わり、さまざまな表情を浮かべた人々は去っていった。
ジルベールたちミリア陣営は、戦いから戻った女王を出迎えた。
「陛下、ご立派でした」
マグリットが感極まった声で労う。
「私、うまくできた?戦えた?」
「十分な戦果でございます。よくぞ目的を果たされましたな」
ジルベールが優しい微笑みでミリアを見つめる。
「大切なものがこの国にある。奪われたくない、失いたくない。その言葉が引き出せたのは大きな前進ですぞ」
ミリアは席に着き、ゆっくりと息を整える。
「よかった……」
みんなが暖かく迎えてくれる。
ようやくミリアは一つ、勤めを果たせたと実感した。
「あやつの言葉の検証は明日、改めてするとして」
ジルベールはぐるりと見渡して言う。
「さて、我らの戦果はどうであったかの?」
声を上げたのは、ティエルだった。
「……一人、推薦したい方がいます」
いつも通りの控えめな口調だが、言葉に迷いはない。
「ボンネル・ユドー・セネヴォー。議会所属です。立場は強くありませんが、法と手続きに明るく、調整能力があります」
マグリットが小さく首を傾げる。
「聞いたことはありますけど……目立つ方ではありませんよね?」
「はい。だからこそです。今日も隅の方から陛下の戦いをじっと見ていて。良い目だと思いました。」
ティエルは続ける。
「彼は、派閥の色が薄く、強硬な発言はしません。その分、修正案や文言調整で結果を出しています。商会派の法案にも、気づかれない形で歯止めをかけています」
ジルベールが、ふむ、と低く喉を鳴らした。
「ボンネルか。良いの。」
ミリアはその反応を見て、静かに頷く。
「……ありがとうございます。他は?」
アシェラが一歩前に出た。
「軍から一人」
声は簡潔だった。
「ダリオ・グランツ。中堅の兵です。雑務を押しつけられても真面目に取り組み、不正を見過ごさず、報告書を上げた。その内容は正確で、証拠も揃っていましたが……上には通りませんでした」
「それも、商会派が?」
ミリアが確認すると、アシェラは短く頷く。
「腐敗を知り、声を上げ、握りつぶされた。それでも折れていない。志がある男です。先ほども、陛下のお姿をしっかりと見つめておりました」
「……つまり、お二人とも“見つけた”ということですね?」
マグリットが嬉しそうに言った。
「ええ」
アシェラは迷いなく答えた。
「私はこれという人物を見つけることはできませんでした。皆何が起きているのかわからないといった風で」
ため息まじりにマグリットは言った。
「ジルベール閣下はいかがでした?」
「わしものぅ。流石に貴族連中は感情を隠すのに長けておるわ。強いて言えば、ま、セオドールあたりかの。長い付き合いじゃて、考えておることはわかる」
「では」
「いや、セオドールは声をかけずとも理解するじゃろ。近いうちにな」
「……」
セオドールといえば法務の重鎮、大法官セオドール・ヴァロネ。法と正義の番人だ。
ジルベールが大丈夫というならおそらく目処がついているのだろう。
ジルベールは杖に手を置き、ゆっくりと立ち上がった。
「では、役割は決まったの」
場の視線が集まる。
「ボンネルは、わしとティエルで行く。政治の人間は、政治の言葉で迎えねばならん」
ティエルが深く頭を下げる。
「ダリオは、アシェラ、おぬしが行け」
「承知しました」
ジルベールは一拍置き、声の調子を落とす。
「――ただし」
全員の背筋が、わずかに伸びる。
「人物として足りぬと感じたなら、無理に引き込むな。諦めよ」
厳しい言葉ではあるが、必要なことだった。
「この先は、数ではない。人じゃ」
皆は、その言葉を受け止めるように、静かに頷いた。
「……それでは、皆様、お願いいたします」
女王の信任を受け、それぞれが動き出した。




