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第33話 弔問と言葉

「いよいよ明日、です」


 ジルベールが声を顰めて言う。


 会議室の隣の小さな応接室に、ミリア、ジルベール、ティエル、マグリットが机を囲んで座っている。ドア近くにはアシェラが立ち、警戒を解いていない。


 ミリアの味方でいてくれる、側近の数は少ない。

 この5人で今まで数回の話し合いをしてきた。

 現状確認、デサン・キアロに対する認識のすり合わせ、今できること。


 そして今日は、明日に控えた直接対峙の対策会議だ。


「王太后様の弔問にはかなりの人数が訪れます。陛下には先王崩御の際にすでにご経験がおありですが、王太后様の弔問客は少し質が違います」


 その言葉にミリアは頷く。


「国内からがほとんどだと」


「左様。隣国の使者は参列ではなく書簡で済ませる。その分、国内から貴族以外の者も現れます」


 貴族以外のもの——つまり。ミリアの背中に緊張が走る。


「来るでしょう。王太后様に重用されて勢力を伸ばした男です」


 ティエルが口惜しげに言う。


「順番は終わりの方になります。いくら影響力があるといっても、商人ですから」


 マグリットが感情を抑えて告げる。


「多くの人がいる前で、話すのですね」


 ミリアはゆっくりと言った。ジルベールはゆっくりと頷く。


「人前では、王の質問を無視することはできませんでな。確実に答えさせるには公の場は好機。陛下が多少感情的になられても、若くして父母を亡くされたばかりであることを思えば、見逃されるでしょう」


「つまり、感情的に話せ、ということ?」


「感情的に見せる、のです。核心に近づくために」


 ジルベールの言葉にミリアは考え込む。何を語ればいいのか見えてこない。

 ティエルが状況をもう一度整理した。


「デサンがやったことは王族殺し、民衆の扇動と議会の掌握。その結果、お若い陛下が不安と孤独の中で無力になることを目的にしていると思われます」


「ええ、姫様を政治的にも精神的にも孤立させようとしたのですわ」


「つまり、傀儡にして操ろうとしているのでしょうな。議会の支配を握ったのもその為。」


「商人ごときが」


 マグリットが吐き捨てるように言う。


「感情で動いてはなりませんぞ、マグリット殿」


 ジルベールはしばらく考えて、ミリアに向き直った。


「まずは、意表をついて戦う意志を見せるのです」


「意表をつく?……でも、なんと言えば?」


「そうですな……」


「たとえば、私をどうするつもりですか?とそのまま聞くのはどうでしょう?」


 ティエルが提案する。


「そうしたら?」


 ミリアが不安げに続きを促す。


「驚くと思います。おそらく、何のことか?としらばっくれるかと」


「なるほど」


 ジルベールは頷く。

 マグリットは眉を寄せる。


「その続きはどうするんですの?」


「暗に、あやつの罪を仄めかすのです。わかっているぞ、と。揺さぶりをかけて、隙を狙うのです」


「……わかりました。」


 ジルベールたちの意味するところはわかる。

 だが現場で、その通りにやり取りが進められるかどうかはわからない。

 ミリアは、自分の即興力が試されるのだと感じた。


「目的は」


 ジルベールはじっとミリアの目を見た。


「あやつの本当の狙いを知ることです。陛下を操って、何がしたいのか」


「はい」


「衆人環視の中、あやつがどれだけ立ち回るのか、陛下がどこまで引き出せるのか。ここが最初の正念場ですぞ」


 正直言って、恐ろしい。

 本来弔問の謁見は決まった言葉をやりとりするだけの儀礼的な場。

 そこに感情と異例の言葉で戦いを挑む。

 ミリアはゆっくり深呼吸をした。


「姫様だけが矢面に立たれて、何もできないのがもどかしいですわ」


 マグリットがそっと漏らした。


「マグリットさん、それは違います」


 ティエルが反応して言う。


「デサンと戦うのは陛下にしかできませんが、僕たちにもやることがあります」


「ほう?」


 眉を上げてジルベールが続きを促す。


「味方を、増やしましょう。戦う陛下を見て、好意的な視線を送る者を見つけ出すんです」


「なるほど、それは良い考えだ」


 扉の横に立っていたアシェラが言った。


「弔問の場には多くの人がいる。弔問客だけでなく、警備の国軍兵や官吏たち、女官や侍女も含めればかなりの数。陛下が異例の応答をなさるならば、さまざまな表情を見せるでしょう」


「その中から、希望を持って陛下を見る者をみつけようということですね」


 マグリットが力強い声で続けた。

 ジルベールが頷いた。


「では、私は女官や侍女たちを中心に」


「私は兵を」


「わしは、貴族連中を見ておくかの」


「では、僕は官吏や侍従たちの顔を」


 皆の視線を受けて、ミリアは頷いた。


「では、明日。皆で戦いましょう」


 どこまでできるかわからない。

 不安も恐怖もある。

 けれど、踏み出さねばさらに状況は更に悪くなるだけ。


 ミリアは一晩中、頭の中でいろんなパターンのやり取りを考え続けた。

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